叱責
激しい音とともに痛みが炸裂し、シノレの体は平衡を失う。視界がぐるりと回転するのを、まだどこか呆然とした気分で見ていた。
「――――お前は」
地面に倒れたこともあり、その姿は大岩のようにも見える。立ちはだかった教育係は殺気だった視線を浴びせてくる。それは今までにないほどの、赫怒と言っていいほどの感情だった。
「お前は、聖者様の安全を投げ出し、大聖堂に戻ったと?あまつさえ聖者様を負傷させたと、そう申したか!?」
「……師範」
「従者たる者、仕える御方の安全を最優先するのが当然だ!!たとえ命令に背き意思に逆らい、それ以外の全てを見捨てたとしても!!一年もの間聖者様の従者として扱われておきながら、お前というやつはそんなことも分からなかったのか!?よりにもよってあんな時に聖者様から目を離し危険に晒すとは、自分の立場を何だと思っている!!?」
「…………」
倒れた肩を強く打たれる。反論する気力も湧かない。聖者の血の色がちらちらと瞼で明滅する。頭は完全に真っ白になっていて、打ち据えるような怒号をただ地面を見つめて受け入れていた。
どれだけの時間が経ったのだろう。教育係の怒声は、不意に別の声に遮られた。
「ジレス様、とにかく落ち着きましょう!!」
「……シオンか。お前、ここで何を……」
「襲撃が起きてから、シノレ君はすぐに聖者様を退避させ、護衛たちの元に連れて行ってくれたそうですよ。一度は安全なところへ逃れて、再度危険な場所へ戻ったのは聖者様のご意思です。それを勘案すれば、全ての責任がシノレ君にあるとは言えないでしょう」
「経緯など関係ないし、何の意味もない。結果的に聖者様は負傷した、それが全てだ。あのような局面では決して主君から離れず、身を挺して庇う覚悟で控え、危険に近づこうとするなら無理矢理にでも止めるのが当然だろう。それを投げ出し、聖者様から離れた時点でこいつは責務を捨てたも同然だ」
「だとしても、起きてしまったことは仕方がありません。不測の事態だったのですし、シノレ君を叱ってどうなるものでもないでしょう。それより、使徒家の者に緊急招集がかかっています。まず冷静になって、今後の対応について話し合いましょう?」
ジレスをそう制止したシオンは、すぐにシノレを助け起こす。金髪の女騎士は、疲れた様子もなくいつも通りだった。この状況では、それがむしろ異様に思えた。
「シノレ君、とにかく一度休んで下さい。本当に顔色が悪いですよ。そんな状態じゃ何をしても上手くいきません。……まず休息を取って、それから、これからのことを考えましょう?」
呆然としたままのシノレの肩に触れて、シオンは穏やかに笑った。




