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襲撃

 月が後半になった頃、シアレットの城下で施しの儀式が開催された。狩猟祭の前段階として、例年行っているものらしい。奪うことと与えることは表裏一体である……そういう意味合いの儀式らしい。狩猟祭が終われば獲った獲物の一部も下賜され、村々の食糧となるのだそうだ。


 儀式の舞台となる大聖堂では、周辺の村人が集められて賑わっていた。大聖堂の中に入るのは村の代表者だが、外の庭や周辺にも村人が大勢詰め寄せている。


 何でも普段の儀式では代表者と数人が呼ばれるのみだが、大規模に実施する時は希望者全員連れてくることを許されるのだそうだ。実際の下賜品だけではなく、儀式後ももてなしを受けられるらしい。


 奥の間には服や靴、保存食や医薬品など、様々な品が美しく包まれて並べられている。


 シノレも久しぶりに正装し、聖者の傍に控えていた。傍にはエルクや使徒家の面々と、見学に来たオルシーラがおり、更にその護衛や従者が続く。


 更にシアレットでも主要な有力者と招かれた学者が続き、そして、その下にはリヴィアや血縁らしき数名が控えている。かなり高い席次と言えた。リヴィアの家は最大額を出して今回のことに貢献したそうで、その恩恵ということらしい。儀式が終われば労いと記念品にありつけるのだそうだ。シノレは良く分からないが、まあ、彼女らにとって良いことなのだろうと思う。


「遠方のガール村の者の到着が、遅れているようです」

「まあ仕方がないですね。諸事情であそこも対象にしましたが、急な話でしたし」


 次々と、儀式の参加や見守りのために人がやってくる。数百人は余裕で収められる大聖堂は、厳粛な静寂を保ちながらも徐々に賑わっていく。


「…………」


 何だろうか。……何か、変な感じがする。胸騒ぎというのだろうか。こういう予感は、あまり外れたことがないので、シノレは密かに身構えた。


 だが、シノレはそれを口に出すことはなかった。こんなあやふやなことで儀式が中断されるはずもないし、注目もされたくない。言うだけ無駄というものだろう。


 それから暫く経って、施しの儀式は開始された。シノレが知るものより大掛かりではあったが、大筋は同じだった。


 痩せた子供たち、粗末な衣装の大人たち。それでも、多分できる限りの正装をしているのだろう。彼らは一様に神の慈悲を求める目で整列し、祈りを捧げていた。


 祭壇周りには進行役の大司教と補佐の司教たちが集い、騎士たちが儀仗を持って整然と並び、衛兵たちは周囲を警戒していた。全てが予定通りに、慈善の行いとして、神の恩寵を謳う時間として進められていった。


 だが――件の、遅れてきたという遠方の村の番になった時、それは崩れた。


 最後に呼ばれたガール村の村長は、特に質素……というかボロボロな身なりで、俯きがちに足を引きずっていた。その後ろにこれまた質素な数名が続く。長旅で疲労しているのか、荒んだ空気で祭壇の前まで来た男たちは、徐ろに顔を上げる。その瞬間、シノレの首筋に小さく火花が散るような感じがした。


(……この顔。どこかで、見覚えがある、ような……)


 記憶を辿る間もなく、その顔は凄まじい形相に歪められた。


「――死ね!!呪われた邪教の使徒よ!!」

「…………っ!?」


 シノレは咄嗟に聖者を立たせ、椅子の後ろへ引きずり込む。そして椅子の背もたれと自分の体で挟み込むように庇う。何かが爆発するまで、数秒も存在しなかった。聖者が息を呑み、そして爆音が鳴り響いた。それを合図にしていたのか、仲間らしき者たちが一斉に雪崩れ込んでくる気配がした。


 何かが破裂するとともに炎が立ち上り、司教の衣が焼ける。群衆がどよめく。


「神はいない」

「神などいない!」


 誰かが叫んだ、それが引き金だった。襲撃者たちは散開しながら、次々と何かを投げつけた。そして、一斉に周囲に襲いかかった。


 たちまちに炎と悲鳴が入り混じり、白い神殿の壁が煤けていく。怒号と剣戟、足音が反響して戦の音を響かせる。


「教団に滅びを!!」

「我らの憎悪を思い知れ、穢らわしい教徒共――!!」



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