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 あれから三日後。

 特に大きな問題が起きなかった。双子王子が起こさなかったから。レーガと話すようになったし、戦闘も協力するようになった。

 ジオスは不機嫌顔が多いけれど、衝突は避けている。ポルとロサも関わらないようにしていて、双子王子がレーガと話していると三人揃って怪訝な顔になった。レムネーは相変わらず、無関心そうだ。

 万事うまくいっているとは言えないけれど、思ったよりは順調だ。

 私も立ち直り、王様への報告も書けた。双子王子のこともたっぷりと。

 双子王子は、ちゃんと一目でも見分けがつけられるようにしてくれた。常に左にいるのはロキ、右にいるのはロク。立ち位置を固定して、服の方も色違いを着てくれた。

 そんな双子王子の協調性をしっかり入れつつも、魔物討伐についても書く。

 まるで大きな珊瑚のような森を通った。濃厚な緑色の宝石を、表面につけたような植物、名はドート。陽射しを浴びると、ペリドットのように明るいグリーンに輝いて、美しい森だった。

 思い出すと、うっとりしてしまうほどの光景だった。

 そのドートの森のことも書き綴り、手紙を送る。次にエクドラを書いた。これも立ち直り、ルンルンと書き進める。

 街の広場にあるテラス席にいるのは、私の護衛を務めるメラマヴロ。別のテーブルで、ゆっくりしているジオスとレーガも一緒だ。レムネーも日向で豪快に寝ている。ポルとロサは、ウィンドウショッピング中。

 スラスラと何時間も書いていくと。


「ラーメーリー」


 同じように聞こえる双子の声で呼ばれた。顔を上げれば、後ろにロキとロクが立っている。

 美しいブロンドと翡翠の瞳を持つ、スラッとしたモデル体型の美男子。大きな襟のシャツに、召喚石のループタイ。左にいるロキがスカイブルーの上着、右にいるロクがライトグリーンの上着。二人揃って、無邪気な笑みを浮かべていた。


「ちょっと手貸して」

「え? うん」


 別にいいけれど、とペンを置いてロキに手を出す。ロキが握ったかと思えば、ロクが親指になにかを押し付けた。

 次にテーブルの上に置かれた紙に、その指をグリッと押し付けられた。私の指の跡がくっきりと残る。拇印だ。

 ポカンとしている間に、紙は封筒の中に入れられた。白い封筒がたちまち白い鳩に姿を変えると、ロキの手から羽ばたく。優雅に広がった壮大な青い空に飛んでいき、やがて見えなくなった。


「……今のはなにかな?」


 私、なにに判子押されたの。


「ん? なにって」

「オレ達とラメリーの」

「婚約契約書」


 満足げな笑みを浮かべたロキとロクが、私を挟んだまま見下ろして答えた。

 こ、ん、や、く?

 笑顔で固まりながら、だらりと汗を掻いていれば、二人は補足した。


「どうせ、アルートゥリア陛下のお気に入りなんだし、身内にしたいって考えてるかもしれないだろ」

「ラメリーを妃にしてやってもいいぜ」

「この旅が終わったら」

「結婚な?」


 左右で交互に言われ、混乱が倍増。口をあんぐりと開けてしまう。


「この旅中にどっちかが死んだことにする」


 ロキとロクは声を揃えて、互いを指差した。


「表向き生き残った方とラメリーは式を挙げる」

「片方は日中に仕事に励み、片方は子作りに励み」

「夜はご奉仕。んで、次の日は交代。仕事に励み、ご奉仕。っていう結婚生活」


 表向きは一人と結婚し、本当は二人と結婚生活をする。とんでもない結婚をさせられると青ざめて、バッと立ち上がった。


「そ、そんなの! 絶対に私の身体が持たないから無理っ!!」

「いや、問題はそこじゃなくね!?」

「ハッ!」


 レーガに声を上げられて、私は我に返る。確かに違う。そこじゃない。死んだことにするとか、二人と結婚するとか、色々突っ込むところが一杯だ。


「ラメリー、想像した?」

「書いてもいいんだぜ?」

「想像した通りに、触ってやるよ」


 ニヤニヤしたロキとロクが、甘く囁いた。耳をなぞられて、ゾクッとしてしまったので離れる。


「な、なな、なんて、ものを陛下に送ったの!? ち、違うって手紙を送らなきゃ!!」


 拇印を押してしまったし、拘束力があるのかもしれない。王子と結婚なんて、それも二人なんて。そんなハチャメチャなことが実現するなんて嫌だ!


「落ち着いてください、ラメリー」


 グイッ、と腕を引かれたかと思えば、ジオスに椅子に座らされた。


「この二人から送りつけられた契約書を無闇に信じたりしません。我々も見ていましたので、ラメリーにその意思はないと証言します」


 ジオスはただ呆れているだけで、冷静だ。どんなに信用されていないかを理解しているらしい。

 慌てふためく必要はないのかと、私はガクリと肩の力を抜いた。


「ラメリーが否定をすれば、陛下は信じるでしょう」


 メラマヴロまで、双子王子は信用されていないと淡々と告げる。

 日頃の行いが悪すぎるから、婚約契約も悪戯で片付けられるのか。本当に仕方ない王子達だ。


「それはどーかな?」


 ロキは自分達の信用なんて全く気にしていないように、ニヤリと口角を上げた。


「王子は好きな相手と結婚できるんだぜ」


 す、と二つの人差し指が私の唇を撫でる。

 ロキとロクは上機嫌な足取りで、離れていく。

 ポカン、としていると私の耳をかすっててんとう虫が飛んだ。この世界のてんとう虫は大きい。

 まるで追いかけるように、真っ直ぐに二人の方へ飛んでいく。ロキとロクは気がつくなり、手を合わせてその中にてんとう虫を捕まえた。

 かと思えば振り返り、ふーと息を吹きかけててんとう虫を飛ばす。

 てんとう虫は真っ直ぐに私のところに飛んできたかと思えば、ぴたりと鼻先に留まった。

 不敵に笑ったロキとロクが、投げキッスをするものだから、私は椅子から転げ落ちる。


「大丈夫ですか? ラメリー」


 すぐにメラマヴロを始め、ジオスとレーガが覗き込んだ。

 私は返事ができなかった。

 婚約契約に、好きな相手発言。物語でよくある双子ネタで、ゲームで当てたヒロインを好きになるパターン? 双子王子から求愛だなんて、そんなまさか。

 ガラの国の王子様には、愛しているだなんて言われたけれども、そんなまさか。

 天空の黒騎士と謳われる騎士様に守られて大切にされているけれども、そんなまさか。


「ラメリー?」


 メラマヴロがまた呼び掛けて、私に手を差し出す。反対側からもジオスが手を出すし、レーガも心配そうに見下ろしてきた。さっきまで寝ていたはずのレムネーまで顔を覗かせている。

 いやいやいや、違う。逆ハーヒロインなんて、そんなわけがない。私はそんなお話を書く側であって、逆ハーヒロインではない。

 たまたま偶然、国宝のドラゴンに選ばれただけ。意味深な夢を見るけれども、たまたま偶然。たまたま偶然に決まっている。

 私はっ、書く側は主役ではだめなんだ! じゃないと書けないじゃないか!!


「私は逆ハーヒロインじゃないっ!! 主役ではない!!」


 思わず、頭を抱えて日本語で叫んだ。

 とんでもない要素が色々ついてしまっていることに気付きながらも、書く側に徹したい私は否定した。




3章、完。


残念ながら、この物語のヒロインは間違いなくラメリーです。

これで一度しめます。


誕生日にちょっと私はこんな風に書いてます、と含ませて勢いで書き上げましたが。

勢いあまりすぎて、ここまで書いてしまいました(笑)


私も夢を元に書きますし、集中しているとわりとなにも聞こえなかったりします。そして、身近な人との恋愛も書きませんね(笑)


しかし、息している間は書いていきたいです。


また誕生日にでも再開をし、四章でしっかり完結する予定です。


お粗末様でした!

20160130

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