表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/2

誘拐

プロローグを読んでくださり、本当にありがとうございました!ここから、いよいよ第1話が始まります。ジェイリルの物語が本格的に動き出しますので、楽しんでいただければ幸いです。これから応援よろしくお願いいたします!

ガルルル……! ガルルル! ガルルル!

鈍い音。体がもがく気配。押し合う気配。金属がぶつかり合う激しい音と、馬のひづめの音が、ようやく僕を覚醒させた。

目覚めたばかりの頭は、いつも霧がかかったようにぼんやりしている。……あれ、さっき買ったばかりのパンはどこへ行ったんだろう? どうして僕は孤児院の、みんなと一緒に囲む大きなテーブルの席に座っていないんだ?

恐怖がせり上がってくる。まだ状況は理解できないが、恐怖だけが膨らんでいく。僕の口から出た声は、粘り気があり、ひどくかすれていた。

「……ここ、どこだよ?」

周囲に人影が見える。少年たちだ。その体は麻袋で覆われ、目の部分だけがくり抜かれている。心臓の鼓動が速くなる。体温が急上昇する。息が短くなり、喉がヒューヒューと鳴る。手があまりにも激しく震えるせいで、自分を縛り付けている鎖がジャラジャラと音を立てた。

4人、いる。いや……多分。視界がにじみ、周囲の輪郭がゆがんでいく。純粋な恐怖という名の赤い幕が、視界を覆っていく。自分がどこにいるのか、完全に分からなくなった。

だから、僕は叫んだ。喉を引き裂くような、本能的な叫びを。

「あああああああああ! 助けてくれ! ここはどこんだ!? ああああああ!」

すべての視線が僕に集中した。3人の少年たちが僕を見つめ、声を潜めて「静かにしろ」と必死に訴えかけてくる。彼らの手は青あざと血でまみれ、激しく震えていた。その声は締め付けられ、喉はカラカラに乾いている。僕をなだめる言葉を発することさえ、彼らにとっては命がけのようだった。

だけど、僕の耳には届かない。恐怖がすべてを飲み込み、僕の肺と口を支配していた。

突如、馬車が激しいブレーキをかけた。僕たちは全員、金属の壁に叩きつけられる。それでも僕は叫び続けた。他の3人は、恐怖に怯えながら反対側の隅で身を縮め、できるだけ存在感を消そうとしている。

背後の扉が、不気味な軋み音を立てて勢いよく開いた。御者席から一人の男が降りてくる。泥に汚れた制服の奥から、男の筋肉の強張りが伝わってくる。男の怒りは物理的な圧力となって、周囲の空気を重く押し潰していた。男は馬車に飛び乗るなり、僕の襟首を掴み、信じられないほどの暴力で床に叩きつけた。

金属の床に打ち付けられ、息が止まる。男は鎖に繋がれた僕の手首を掴み、強引に前へと引っ張り出して、震える手を露出させた。その腰から、憎しみに満ちた手つきで節くれ立った棍棒を引き抜く。

激昂した男は、僕の指に向けて棍棒を振り下ろした。

バキッ!

一発目の衝撃は、痛みの爆発だった。熱さを感じるよりも前に、自分の関節が鈍く砕ける嫌な音が聞こえた。僕は肺にあるすべての空気を吐き出すように絶叫した。

男は再び腕を上げた。

「口を閉じろ。さもなきゃ、3発目まで叩き込み続けるぞ!」

耐えがたい激痛。溶岩が手を焼き尽くしていくような感覚だ。僕は必死に唇を引き結び、溢れ出そうとする悲鳴を抑え込もうとした。床の埃にまみれながら、よだれと涙が顔を伝って流れ落ちる。

男は再び棍棒を振りかざし、殴る構えをとった。パニックが限界を超える。

「やめて! やめて! やめてえええ! 黙るから、本当に黙るから!」

男は、僕たちの間に交わされた「痛みの契約」を証明するかのように、無慈悲に3発目を振り下ろした。それから、男は僕の顔に顔を近づけた。その声は地を這うような冷たい呟きであり、棍棒の打撃よりも確実に僕の背筋を凍らせた。

「これからは静かにしてろ。さもないと、どうなるか分かっているな」

あまりの激痛に、恐怖で口が勝手に閉じた。まるで接着剤で固められたかのように。しかし、僕の内面では、魂が叫び続けていた。無力な怒りと、純粋な苦痛だけで構成された、声なき絶叫だ。

数秒の沈黙の後、馬車は激しい衝撃と共に再び動き出した。他の少年たちの視線が、僕から逃げていくのが分かった。そこにあるのは恐怖、憐れみ、 tender な同情だ。ここでようやく理解した。――最初、彼らは僕を警告しようとしていたんだ。彼らは知っていた。だけど、僕はパニックで正気を保てなかった。

移動が再開する。痛みは消えず、酸のように僕の肉を蝕み続ける。指が疼き、焼けるように熱い。腹が激しく鳴る。その痛烈な飢餓感が、さらに苦痛を上書きしていく。もう起き上がることもできない。僕は汚れた床に倒れ伏したまま、振動する金属に顔を押し付けていた。立ち上がるには手の支えが必要なのに、僕は……僕は……。

極度の疲労に押し潰され、僕はついに意識を失った。

ゴンッ!

後頭部に衝撃が走る。鈍い痛み。体が容赦なく引きずられている感覚。重い目を開ける。僕の体は礫岩の地面を容赦なく引きずられ、他の連中と一緒に、湿った地下牢の奥へと放り込まれた。そこに至って、僕たちは連れてこられるべき場所に到着したのだと確信した。頭がズキズキ痛むが、両手の痛みに比べれば大したことはなかった。

鉄の重い扉が閉まる直前、看守が怒鳴り声を響かせた。

「静かにしろ! 音を立てるな!」

湿気と垢が染み付いた、この暗いネズミ小屋に、僕たちは取り残された。誘拐犯たちの足音が遠ざかり、やがて厚い石壁に吸い込まれて完全に消え去る。

鉛のような沈黙が立ち込めた。誰もそれを破ろうとしない。暗闇の中、互いに視線を逸らし合う。それぞれが隅のほうでうずくまっていた。なぜ、この沈黙が続くのか? この不条理で恐ろしい状況から生まれた「警戒心」か? それとも、度重なる罰への「本能的な恐怖」か? おそらく、その両方だ。

何時間も経った。果てしなく思える時間。沈黙を破るのは、飢えを訴える僕たちの腹の虫の音だけだった。

だが、この集団的な恐怖から一人だけ逸脱している少年がいた。奇妙な行動をとる男。――そいつは、寝ていた。馬車に乗った瞬間から、そいつは何事もなかったかのように隅で爆睡していたのだ。あの混沌、悲鳴、暴力の中で、ただひたすら眠り続けていた。僕は呆気にとられた。こんな悪夢の真っ只中で、どうすれば眠れるというんだ?

時間の感覚は完全に失われた。今が何時なのか、昼なのか夜なのかも分からない。疲労が押し寄せ、目を閉じたいという本能的な欲求に駆られる。しかし、脳は拒絶し、絶え間ない鈍い恐怖に突き動かされて空回りし続ける。

結局、僕は屈した。まぶたが重くなる。腹は空っぽで、肋骨がくっつきそうなほど痩せ細った状態で、僕は眠りに落ちた。悲鳴と水分不足のせいで、喉が焼けるように熱い。体全体がただの「痛みの塊」と化していた。

翌朝。おそらく、そうだと思う。ここでは光が変わることはない。昼も夜も、同じ永遠の薄暗がりに溶け込んでいる。

誰かが僕の肩を乱暴に揺さぶった。あの少年たちの一人だ。その声は耳元での囁きだった。

「しっ! 誰か来る!」

足音が聞こえる。重く、規則正しい。こちらに近づいてくる。睡眠で少し落ち着いていた心臓が、再び激しく波打ち始める。これから何が起こるのか、僕たちには分からない。

牢獄の扉が激しい軋み声を上げて開いた。通路の僅かな光を遮るように、巨漢のシルエットが立たる。

「起きろ! 整列だ!」看守が吼えた。

恐怖が僕たちの動きを支配する。震える体で、必死に冷たい壁際に一列に並んだ。全員が動いた。――ただ一人を除いて。あの爆睡男は、相変わらず隅でひっくり返り、口を半開きにして危機の最中にあることすら気づいていない。

看守がそいつに近づく。

「起きろ!」

反応なし。眠り姫はピクリとも動かない。

「起きろと言っているんだ!」

やはり反応はない。

三度目の命令は、脇腹への容赦ない棍棒の一撃と共に放たれた。爆睡男は跳び起きて、呆然とした視線を彷徨わせた。その腹が凄まじい音を立てて鳴り響く中、そいつが最初に放った言葉は、現実離れしたものだった。

「……もう、ご飯食べた?」

看守はそいつの襟首を掴み、乱暴に列へと放り込んだ。

「準備しろ」看守は吐き捨てた。「外へ出るぞ。飯を食わせてやる」

僕たちは歩き出した。足首と手首を縛る鎖の音が、一歩ごとにリズムを刻む。誰も口を開こうとしない、不気味で執拗な金属音ジャラジャラ

歩く。通路は延々と続いているように思えた。一歩一歩が拷問のようだったが、この苦難の道の最果てに「飯」があるという微かな希望だけが、僕たちを一歩前へと進めていた。

永遠とも思える時間の後、僕たちは外の空気に触れた。そこは、丘の斜面に掘られた一種の地下室だった。前方のはるか遠くに、巨大な屋敷がそびえ立っている。重々しく、威圧的な建造物だ。僕たちはさらに歩き、敷地の一部を横切って、何もない場所にぽつんと佇む古びた木小屋へと向かった。

その小屋の中に押し込められる。そして、男が口を開いた。

「ここで休んでいろ。飯を運んでくるよう指示してくる」

男は出ていき、背後の扉を閉めた。再び沈黙が降りてくる。しかし、今度はあの爆睡男がその静寂を破った。

「腹減ったぁ! この飢えはもう限界だ!」

トントン!

頼りない扉から音が響いた。全員の視線が、パニックに染まって入り口へと向かう。

看守ではなかった。――メイドだ。彼女は両手で豪華なトレイを抱えていた。トレイの上には、湯気を立てる大鍋のスープ、5つの小さな器、そして5つの大きな田舎パン。

メイドは部屋の中央まで進み、泥の床の上にトレイを置いた。彼女は僕たちを見つめ、その瞳には慈愛に満ちた躊躇いがあった。

「お給仕しましょうか、子供たち? それとも、自分たちで分ける?」

誰も答えない。一言も。蚊の羽音さえ大音量に聞こえるほどの沈黙。代わりに、僕たちの腹の虫が激しく自己主張を繰り返す。

幸いにも、メイドは察してくれた。彼女はお玉を手に取り、迷うことなくスープを注ぎ始めた。その手つきは驚くほど優しく、まるで母親のようだった。自分の子供の世話をするかのように、細心の注意を払ってそれぞれの器を満たしていく。

捕らえられて以来初めて、この凍りついた小屋に人間の温もりが差し込んだ。空気が和らぐ。ほんの少しだけ。だが、僕たちにとっては十分すぎた。

言葉を交わすことなく、僕たちは器とパンをひったくった。そして、貪り食った。むさぼるように。感謝を込めて。この質素な食事が、まるで王の晩餐であるかのように。

メイドは僕たちが食べ終えるのを静かに待ち、新鮮な水を差し出してから、空の器を片付けた。

食事が終わると、猛烈な疲労感が襲ってきた。僕たちは小屋のベッドに横たわった。――隅に配置された3段ベッド。その光景は、孤児院の寝室を痛烈に思い出させた。僕は本能的に一番下のベッドを選んだ。指の激痛のせいで、梯子を登ることなんて考えられなかった。スプーンを握るのすら戦いだったのに、自分の体重を引き上げるなんて……到底不可能だ。

僕たちはすぐに眠りに落ちた。数時間の深い眠り。

ドンドンドン!

再び扉が鳴り響いた。僕は跳び起きた。一人が扉を開けに行く。今度は屋敷の管理人だった。あの、僕たちを地下室から引きずり出した男だ。その顔は険しく、威圧的だった。

「全員起きろ。外へ出ろ。今すぐだ」

もう一人の少年が僕たちを急き立てる。爆睡男は、相変わらず眠りから引き剥がすのが不可能だった。

「早く来い!」男の苛立った声が外から響く。

誰も答える勇気がない。しかし今度は、一人の少女が恐怖と苛立ちの限界に達し、決断した。彼女は爆睡男に近づき、強烈な平手打ち(ビンタ)を浴びせた。そいつはようやく目を覚まし、呆然とした顔をした。僕たちは全員外へと走り、看守の前に整列した。

男は忌々しそうに僕たちを睨みつけたが、すぐに居住まいを正した。

「よく聞け」その声は鞭のように鋭く響いた。「俺の名前はアジ・ジョウ・ウェイン。この領地の総大将だ。ここでは、お前たちの命は俺のものだ。生かすも殺すも、俺が決める」

その言葉が周囲の空気を凍らせる。僕たちの顔には恐怖、絶望、そして無力な憎しみが混ざり合っていた。将軍はそれに気づき、わずかにトーンを落として言葉を続けた。

「大人しく俺の命令に従っていれば、ひどい目には遭わせん。ついて来い」

僕たちは重い足取りで彼の後ろに従った。彼は立ち止まり、大きく腕を振って地平線を指し示した。

「この広大な土地が見えるか? ここを完全に開墾し、将来の農地として耕してもらいたい。この広さは正確に20万平方メートル。この領地の『西区』だ。お前たちでここを5つの等しい区域に分けろ。一人あたり約4万平方メートルの責任を持ってもらう」

彼は僕たちを整列させ、体格や見た目を基準に、大きい順から小さい順へと並べ替えた。

「お前は今日から『1番』だ。そこの爆睡男、お前は『2番』。お前は『3番』。そして後ろの小娘二人が『4番』と『5番』だ。1番は第1区域、2番は第2区域を担当しろ。以下同じだ」

彼は一拍置いた。

「苗木の定植は3ヶ月後だ。それまでにこの土地をしっかり耕しておけ。仕事場については以上だ。次へついて来い」

絶望感を募らせながら、僕たちは彼の後ろを歩いた。この領地の広大さを証明するかのように、かなりの距離を歩いた後、石と木でできた巨大な建造物の前に到着した。

「ここが作業場だ。お前たちが使う道具が保管され、製造されている場所だ」

内部は、これまでに見たものと同様に巨大だった。大部分が資材の保管に使われ、もう一角は製造エリア――職人たちが慌ただしく動く近代的な鍛冶場となっていた。

保管エリアを通り抜け、鍛冶場へと案内される。僕たちは再び番号順に整列させられた。数人の看守が、奇妙な器具を手に僕たちに近づいてくる。

ウェイン将軍が近づいた。彼はついに、僕たちの頭を覆っていた麻袋を剥ぎ取り、足首と手首の鎖を解放した。奇妙な感覚。あまりにも微々たる自由。

「服の襟を下げろ。鎖骨のあたりまでだ」彼は命じた。

僕たちは従った。剥き出しになった肌に、小さなポンチと黒いインクのタンクを備えた奇妙な機械が近づけられる。――機械式の刺青タトゥーだ。

「これがお前たちの識別番号クラスターだ」

将軍が告げると同時に、機械が鋭く規則的な音を立てて作動し、鎖骨のすぐ下の肌に数字とアルファベットの羅列を刻み込んでいった。

1番:FDN2O03

2番:FDN2O04

3番:FDN2O05

4番:FDN2O06

5番:FDN2O07

「次は、手のひらを上にして出せ」

鍛冶場の男たちが5人、前へ進み出た。彼らが長いやっとこの先に挟んでいたのは、地獄のような高温で真っ赤に熱せられた鉄 of 塊だった。

刹那、パニックが僕たちを襲った。本能的な恐怖。恐怖の嵐が列を吹き抜ける。悲鳴、号泣、必死に後退しようとする足掻き。僕たちは暴れたが、増員された看守たちが僕たちの体を背後からガッチリと押さえ込み、固定した。

火の粉で肌を焼かれた男たちが近づいてくる。僕の手を狙う鉄印が見えた。――反転した『3』の数字。ウェイン将軍の所有物である証。それが僕の肉体に永遠に刻まれようとしている。

馬車の中で棍棒に殴られ、かろうじて癒えかけていた僕の手の甲に、その熱鉄が押し当てられた。

世界が、燃えた。

「あああああああああああああ!!!!」

喉を引き裂くような悲鳴。それは僕の声ではなく、死に瀕した獣の断末魔のようだった。痛みは皮膚の下に一瞬で張り巡らされた炎の蜘蛛の巣だった。すべての神経が焼け付く糸となり、骨の髄まで熱い衝撃波を伝播させていく。あまりにも純粋で、絶対的な苦痛。視界が白く染まり、あらゆる思考が消し飛ぶ。

体全体が激しく痙攣する。涙の隙間から左を向くと、少女たちの姿が見えた。彼女たちの顔は言葉にできない苦悶で歪み、もはや人間のものではない、苦痛の仮面のようになっていた。彼女たちの悲鳴は鋭く、突き刺さるような高音で、鍛冶場の騒音を圧するほどだった。一人の少女――4万平米の過酷な運命を背負う『5番』が、苦痛に耐えかねて、糸の切れた人形のように床へと崩れ落ちた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ