第七話 同行者
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この話の登場人物
小山三郎義政:下野国の牢人。北条家絡みの仕事で藤枝を目指す。
山本勘助:駿河に居る隻眼の牢人。三郎とは旧知の仲。三郎に強引についてくる。
「してお主、どこへいくつもりだったんじゃ?」
怪訝な表情を浮かべる三郎を気にせず山本は言った。
さて困った。普段は単独で動いていたから山本の手を借りることも何ら問題はなかったが、今回は北条も絡んだ話であるから迂闊に仕事の内容を話すわけにはいかなかった。
また、船での移動が難しいとなっただけで、現状活動に行き詰ったわけでもない。いまこの状況で山本が割り込んでくるのは正直迷惑だった。
「船でも乗るつもりだったのだろうて、おおかた駿府やその先に用事でもあるのであろう。」
三郎は表情を変えないように努めた。本当に勘のいい男だ。
変に対応しても面倒になるだけだと思い、三郎はきっぱりと山本の助力を断ることにした。
「あぁ・・・山本殿、今回は申し訳ないが・・・。」
「ん?あぁあぁ、分かった分かった、皆まで言うな。仕事の内容を話せぬのであろう?心配するな!わしは口が堅い!」
三郎の言葉を遮り、山本は胸を張って自信満々に言い放った。
「いや、そうではなく・・・。」
「なんじゃ?わしの助けは不要か?」
「まぁそんなとこで・・・。」
きっぱり断るつもりが、山本の調子に飲まれてぐだぐだな物言いになってしまった。
「いったい何の仕事かわからんが、わしの手は借りておいても損はないと思うぞ?」
「損得ではなく、一人でも問題ない程度の仕事なのです。申し出はありがたいですが、お気持ちだけで・・・。」
事実、三郎に頼まれている仕事は今のところ人に会いに行くだけだ。無関係の牢人の手助けは必要なかった。
「たぁーっ!お主、頭は良い割には使い方を知らん奴だのう!もうちっと頭を回さんか!!」
山本は急に口調を荒げて三郎のことを非難した。
「おそらくはお主の仕事は北条が関係しておるのであろうが、なぜお主に新しい旅装束や着物まで用立てて使い走りをさせていると思うておるのだ?」
「・・・・」
三郎は答えなかった。
「いままでの使い走りなら、そんな用意など不要であろうに。ということは、いままでの使い走りとはわけが違うということくらいはわかるであろう。」
確かにその通りだ。そんなことくらいは三郎でもわかっていた。ただ、それ以上深く考えてもいなかった。
「そしてこの今川での騒がしさ。ただ事ではないのは一目瞭然。このあたりを縄張りにしておるわしからすれば、異常なことくらいすぐにわかるというもの。そんなときに、普段とは違った出で立ちのお主が居ったのだそ?。すぐにどこぞの侍の手伝いでもしておるのだろうと思うたよ。お主は最近相模にいるらしいからの。北条絡みであるとは容易に想像がつく。」
山本は腕組みをして威張るような態度を見せた。
「そして、北条の仕事を手伝っていると思われるお主が来ているいまこのときに、今川領内で騒ぎが起きている・・・。誰でも怪しいと思わぬか?。・・・お主・・・、状況がわからぬまま進むつもりでおったのか?。よそ者のお主に、何が起きているのか調べることができるのか?。」
「それは・・・。」
三郎は口ごもった。図星でもあった。
「お主は口下手な律儀者じゃ。北条の手を借りて駿河に来ている牢人が、そのあたりのことを器用に立ち回れるとは思わんがのう・・・。」
言い返す言葉もなかった。そして、否定をしなかったことで自分が北条と関係して駿河にいることも認めてしまったようなものだった。
「まったく、わしが世話を焼いてやると言っておるんじゃ。ありがたく受け取らんか。」
「・・・・わかり申した。お願いいたしまする。」
三郎は観念して山本の助力を得ることにした。
「分かればいいのじゃ。そうと決まれば、そら行くぞ。何があったのか調べにの・・・。」
山本は表情を柔らかく崩すと、足取り軽く道へ躍り出た。
遊びではないのに、何がそんなに楽しそうにしておるのやら。三郎はそのあとをついていくしかなかった。
二人はまず街道に出るべく歩き出した。街道からは一路西へ、駿府方面を目指すことになる。どこに向かうとも伝えていないのに、山本は足取り早く三郎より前を歩いていた。
「山本殿、山本殿!お待ちくだされ。」
三郎も歩調を速め山本に追いつかんとし、その背中に話しかけた。
「んん?」
山本は振り向きもせず返事をした。
「いったいどちらへ?」
三郎は行先を告げていない。西へ向かうのは間違いないが、山本は迷いなく歩いていた。
「まずは何が起きているか調べねばならん。今川で何かあったとすれば、牢人風情は警戒されるやもしれぬが、侍どもが商人たちを追いかけていたとなれば、我らのような牢人は警戒の対象とは違うやもしれぬ。」
相変わらず山本は振り向きもしない。三郎はようやく山本の斜め後ろまで追いつき、半歩後ろをつき従った。
「駿府の近くの商人に知己が居る。その者なら何か知っておるかもしれん。まずはそこを尋ねてみようと思う。」
「・・・・・」
三郎は黙ってうなづいた。
「あの商人らをとらえに来た侍たちを見ただろう?」
「えぇ。」
「具足を付けた者もおれば、袴姿のままの者もおった。よほど急ぎで追いかけてきたのであろう。」
「はぁ。」
「ただ捕らえるだけなら、下の者だけ走らせればよい。袴姿の侍は今川の直臣かもしれん。だとすると、外に情報が漏れぬよう、しかるべき者が追ってきたと考えてよかろう。」
「なるほど。」
三郎はただ頷くしかなかった。山本はあの短時間でよく物事を見ているものだと思った。
「つまり今川家中の、それも極めて中心か、それに近いところで何かあったとも考えられる。」
「今川家の中心・・・。」
「あくまでも可能性のうちの一つじゃ。」
今川の現当主は氏輝である。三郎からしたら、今川家のことなどほとんど知らず、当主と名前が知れ渡ったわずかな重臣しか知らなかった。
かなり若いうちに当主の座について、今の歳も二十代であったはずだ。
その家中で何かがあったとすれば、確かに大事かもしれない。三島で別れた北条の一行も駿府へ向かっていたはずである。おそらく自分らよりも先行していると思われた。
目的地の藤枝はまだまだ先である。とにかく今は少し前を歩く山本を頼るしかなかった。
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