#426
基本的に運び屋という仕事は危険な仕事であると、最近の世間の評価ではそうされている。
都市間を走り、その道中で野盗や強盗から狙われて襲撃を受ける。その分、利益率が低いのも危険な仕事と思われる理由だろう。
「どうぞ」
「ありがとう」
操車場の着発線に停車をして、そこで準備を行うサダミ。隣の臨時ホームには会社からやってきた弾薬車からアンドロイドが先頭に連結をした戦車搭載車に積載した八輪装輪戦車に主砲の焼尽薬莢の76mm砲弾を受け取って車内の弾薬庫に搭載していく。
「弾種はどうしますか?」
「多目的対戦車榴弾と近接信管付きを多めに。まあ戦車の可能性も考えて装弾筒付翼安定徹甲弾も頂戴」
「了解しました」
そう頷くと、アンドロイドはトラックの荷台から弾薬をサダミに渡してくる。
スフェーンが勤めている御用達品の確認を行う会社は、独自でPMCを保有している企業であるのでこうした武器に関しては全面的な支援が受けられた。
「今回は立食形式のパーティーとなります」
その後ろでは燕尾服やメイド服に身を包んだ従者達がメモ帳を片手に確認を行う。
事前にこの操車場で必要な食材や人員を乗せて出発予定であり、この後に旅客駅に向かう予定である。スフェーンも運転士として彼らの話に混ざって確認を行う。
「パーティーに参加されるお客様は二〇名。途中停車は三回。出発駅と到着駅は同駅で、時刻表は…」
彼らはそこで今回のパーティーの予定の確認を行うと、スフェーンはそこで言う。
「今回は秘密裏に行われるそうですが、襲撃の可能性を鑑みて防護装備を準備しました」
「承知しました」
執事は頷くと、他の従者達も一様に同様の反応を見せる。その後ろで厨房車に料理人が食材を乗せたカートを車内に積載していく。車内では汚れや埃が無いかなどを清掃員が全て確認をしていた。
「外装に問題ありません」
「連結器は?」
「異常なし」
列車は展望車以外はほぼ二階建てとなっており、車内は独自性の強い構造を有している。しかし人数と秘密裏に行うという要望から護衛の兵士は居ない。ただし、ここにいる従者達全員が従軍経験者であり、尚且つ不老者であるのでスフェーン達の事も長い付き合いから知っていた。
「では各自持ち場に」
最後に執事が締めると、従者達は列車に乗り込んでいく。
「ふぅ、終わった終わった」
「お疲れ」
会議を終え、スフェーンは疲れた様子で戻るとそこでは弾薬を積載し終えたサダミが機関車の密閉された運転室のドアを開けていた。
今回の依頼に合わせて機関車は丁寧に清掃をされており、登ってきた太陽の光に合わせてボディが反射して光る。
「どう?」
「まあいつも通りって感じね。少なくとも向こうも襲ってくるだろうと思って全員従軍経験者ばかり揃えてる」
「じゃあ、確実に理由があるわけね」
「むしろこの面々で襲われないわけがないでしょう…」
そう言い、彼女は今回のパーティーに参加する名簿リストを見て苦笑する。
「国立先進技術研究所の職員と支援団体である企業の役員。その役員だって、その世界じゃあ重鎮扱いだ」
「獣人や不老者もいるわけか…」
「まあ、多分襲ってくるには自然主義者あたりじゃない?」
リストを見てそう思うと、次に二人は編成に組み込まれている装備品を確認する。
「今回は偽装型も連結ですか」
「社長が『自由にお使いください』ってさ」
「なるほど。まあ先生にはそう思うわけか」
そこで彼女は先頭で警戒車代わりの自家用車の砲塔を回す。
「気をつけてよ?」
「流石に大丈夫よ」
普段は会社に預けているこの車両。以前に同じ理由で別の車両を買ったのだが、半ば詐欺まがいのパチモンを掴まされたことがあり、それは今もカフェの車庫に眠って時折、迷惑野郎対応で出動することがあった。
「主砲は国連軍のミサイル艇と同じ主砲」
「コイルジャケットも積んでいるから、まあ旧式戦車くらいならぶち抜けるわよ」
そこで次々と従者と物資が乗り込んでいくのを確認しながら彼女は連結した列車を見る。
「とりあえず装甲車は支援砲撃ね。二人とも頼んだ」
『了解』
『分かりました』
装甲車の中にはロボットが既に積載され、ルシエルとシエロが操作できるように準備されていた。
『こちらは準備完了しました』
するとヘッドホンから連絡が入ったので、スフェーンは頷いた。
「了解しました。定刻通りに出発します」
そう言い、二人は機関車に乗り込むと列車は信号が切り替わるのを待って出発線に移動を行う。
====
その頃、とある駅にジョンは立った。
「またスフェノスさんに文句を言われるんですか?」
その横で呆れたため息をついているのはユウナ・キュリー。ジョンと同じ研究者であり、助手でもあった彼女は獣人初の不老者として界隈では著名な人物であった。
「何を言うか。正式な依頼をして、相談をしてからの決定だった。無理強いをしたわけではない」
場所は首都郊外にあるターミナル。頭端式ホームと複数に重ねられたプラットホームは高床車用のホームで、王都の西側から来る国内路線に対応している駅である。
「で、今回のパーティーにいくら積んだの?」
「ふむ、それほどの金額ではないな。ウィールでとりあえず支払いを済ませたら、二人とも頷いてくれた」
「…多分、あのカフェ一年分の利益でしょうね」
彼の反応を聞き、すぐにユウナは察した様子でため息を吐く。
「さて、予定通り出発したと聞いているからそろそろ到着する頃合いだろう」
彼らの今いるホームは王侯貴族が使用するラウンジと直結しており、ホームには最初にこの夫妻が訪れていた。最初に列車に乗り込み、招待客を主催者は全員が出迎える。それがこの国の文化であり、他の国だと主催者が一番最後に訪れて挨拶をしていく場合もあったりすると言う。
目の前のホームは落下防止のホームドアが展開されており、列車のドアの位置合わせて移動する方法であった。
『間も無く、列車が参ります。安全の為、白い線の内側にーー』
すると自動放送が入り、『列車が』『来ます』とホームドアの上の画面が点滅する。そして遠くから聞こえてくる独特な骨笛の音が響きながら、あらかじめ予約を入れていたホームに列車が進入する。
列車は先頭に装輪戦車が搭載された貨車を押し、チョコレート色の機関車はエーテル機関の音を立てながらホームの車体の位置で停車する。
「時間通りだな」
流石だと内心で感心しながら二人はホームドアが開くのを確認すると、中から連結された客車の乗降口の観音開きのドアが開いて中から従者達が現れる。
「さて、行こうか」
「分かりましたよ」
そこで二人は早速準備の整えられた列車に乗り込んでいく。
駅に到着をした後、スフェーンはすぐに客車先頭の一号車に入って確認をする。
「どう?」
一号車は二階建て構造の武装車であり、中には二台のオートマトンが直立で格納されていた。
「第五世代機だからそれほど問題ないわよ」
中でサダミが機体の調整をしながら頷いて顔を上げる。その傍には30mm自動小銃が用意されており、キャニスター弾を発射する127mmアンダーバレルショットガンが取り付けられている。
「いつでも出せる?」
「問題無し」
彼女はそう言い、自分が乗る予定のオートマトンを見上げる。
最新型と違い人工筋肉などを一切使わないショックアブソーバーやスラスターが多分に使用されている機械。
「まあ、今回は支援砲撃もあるから問題ないでしょう」
仕事の内容からしてまず襲われることを前提に動いている二人。
「ドローンは?」
「禁止区域出たらすぐに飛ばす。軍用のいい奴を」
「了解」
今回走行するルートは比較的森林の多い場所。野盗が隠れるにはうってつけの場所である。あらかじめ参加者にはその可能性を説明した上で武装を装備していることも伝えられている。まあそれを聞いて数名が参加を辞退したと言う話もあるそうだが、できれば全員参加を辞退してほしかったなぁと言う本音が漏れかけた。
今回は列車の景観も兼ねて合造車を操車場に預けており、二人の休憩場所は二号車の従者達が休憩をする部屋である。
「出発時刻は?」
「三時間後。まあ暖機運転していても問題ないくらい」
「了解」
隣で30mm長銃身自動小銃を立て掛けているのを見上げて二人は格納庫で煙草を吸う。
「よっと」
狭い格納庫で、スフェーンは開放済みの座席に座ると、自動的にコックピットに椅子が迫り上がってハッチがロックされる。そしてコックピットでは多数の画面が起動し、頭部のセンサーとカメラが彼女の付けている軍用ゴーグルに映し出される。
「頭部も良さげね」
『また壊して怒られるのは勘弁してよ』
「知らんて。一回戦闘したらどっかしらは摩耗するんだからさ」
そう言い、プログラムの微調整を行うスフェーン。煙草を吸いながらの作業である為、もう予め会社から喫煙車が貸し与えられていた。
「センサー感度もっと下げて」
『了解しました』
「バランサーはもっと左に〇.…二くらい傾けて」
そしてシステムと接続をしたことでルシエルに頼んでオートマトンの調整を行う。そして微調整を終えてコックピットを降りると、サダミが質問をした。
「ROEは?」
「二型かなぁ。路線上に事前通知なしの探知があったら攻撃しても良いと思う」
スフェーンはそんな推測をしながら依頼主にメールで聞いてみた。すると他の招待客の対応中なはずなのにすぐに返事があった。
『明らかに武装しているのがわかる場合は、事前通告の後の対応で許可する』
思っていた以上に緩めであったので、スフェーン達は少し安堵する。
「先制攻撃はできないけど」
「基本的にダメよそれは」
サダミの呟きにスフェーンは言うと、連結していた貫通扉が開いて従者の一人が話しかけてきた。
「あと少しで全員が乗り込みます」
「了解です」
従者の報告を聞き、サダミは懐中時計を取り出して時間を確認した。
「思ってたより早いわね」
「まあでも、スジはもうあるから予定通りにしか動けないけどね」
そう言い、煙草の吸い殻を片付ける。




