#422
水族館を後にし、再び来た道を戻るように西進する二人。
「途中で休憩も挟みながら行く予定だから」
「了解」
後ろから腕を回して身体を固定するサラ。現在二人は次の目的地に向かっている最中である。
「良いわね。都市の規模が小さいとすぐに人気の少ない場所になるんだから」
「それな〜」
スフェーンはそこで国道認定された道路を走っていた。すぐ横には内海があり、太陽が燦々に水面を輝かせている。すでに周りの景色は低い建物が増えてきており、昨日の神社といい、すぐ横に青々とした自然が育つ素晴らしい環境であった。
「でも超々高層建築物とかはできないのね」
スフェーンはそう言い、こう言った自然の森ができるほどエーテル空間濃度の低い地域の、企業が建造する建築物がないことに疑問に思っているとサラはすぐに経営者としての経験でその訳を説明する。
「地盤が弱いのよ。海沿いですぐに山があるから、とても土台が大きくなるそう言う建物は『建てたくても建てられない』って言うのが本当のところね」
「なるほど」
よく理解できたわかりやすい説明に頷くと、バイクは一旦休憩で道沿いにあったコンビニに入る。
「んっ!んん〜…」
軽く腰をトントンと叩いてバイクを降りる二人。
「飲み物は?」
「ご心配なく」
サラはそう言って持っていたホテル備え付けの水を飲む。
「んじゃ、ちょっとこっち買ってくるわ」
「了解。あっ、ホットスナックを買うならフランクフルトね」
「りょーかい」
サラの注文を軽く聞いてスフェーンはコンビニに入ると、少ししてから戻ってきた。
「ほい」
「あら優しい」
コンビニでコーヒーを買い、片手にフランクフルトを持ってでてきた彼女にサラは満足そうに頷く。
「どうせんなことだろうと思ったよ」
スフェーンも苦笑気味にサラにフランクフルトを手渡すと、彼女はそれを持って付け合わせのマスタードとケチャップの入ったディスペンパックをぺキッと折って掛けてから一口目を頬張る。
「ん〜、美味いわね」
「まあ、食べれそうなら良いんだけど」
そんな彼女を見下ろしながらスフェーンはつけていたグローブを外してコーヒーを飲み始める。
コンビニの駐車場で休憩をしながらスフェーンは煙草に火を付ける。
「本当は市内にあるお城に行こうかとも思ったんだけど、階段と坂がきついらしいから断念したのよね」
「そりゃそうよ。そもそもお年寄りに労わった旅程にしなさい?」
「…年の割に元気なんだから良いじゃないのよ」
スフェーンはため息混じりにサラを見る。
昔と比べるとやはり時代の変化だろう、背が縮んでいる。おそらくは椎間板が長年の体の動きですり減ってしまったのだ。
「馬鹿ね。両腕が重いんだから、これでも一部機能を削除して軽量化をしているのよ?」
「でも昨日登り切ったんだから大したものじゃないの」
煙草を吸いながら彼女は昨日の神社で荒地の魔女みたいな状態になりつつも登り切っていたサラを振り返る。
「限界ってものを考えなさい?寿命縮める気?」
「煙草吸ってる時点で長生き前提に生きてないでしょ」
「そりゃ私に禁煙を勧めた医者はみんな先に死んでらぁ」
「強すぎる言葉やなぁ」
サラの自信ある言葉に、苦笑気味にスフェーンは吸っていた煙草を携帯灰皿に放り込んでサラに聞いた。
「食べれそう?」
「…ごめん。無理だわ」
「ん、オッケ」
そしてスフェーンの予想通り、半分ほど食べたところで限界を迎えたのでスフェーンは残りの半分を一口で口に頬張ってからバイクに跨る。
「んひゃ、いきまひょか」
「飲み込んでからにしなさいよ。詰まるわよ?」
死因が窒息死とか、年寄りの死因でちょくちょくニュースで聞く新年の餅関連の事件など目の前で見たくないサラは軽く注意すると、スフェーンは数回間で飲み込んでから返した。
「詰まったらハイムリック法頼む」
「知識ないから無理」
サラは短く答えると、再びスフェーンの後ろに座ってバイクは駐車場を出て行く。海沿いの道路は内海の島々を見せており、その島々にも森があった。
『間も無く長いトンネルです』
「(了解)」
ルシエルの案内でスフェーンは視界の先にトンネルの入り口を見つけて中に入っていく。
視界の先に見える真っ白な空間。ホワイトアウトの可能性を考慮すて自動的に瞳孔が調整をされ、そのままトンネルを抜ける。
「うわぁ…」
その先では一面の海の景色が映し出される。
「綺麗ね〜」
「いい潮の香りがしそうね」
そんな海を見ながら二人はもうこれだけで満足した気持ちになれる。
「あっ、軍警の艦艇」
するとスフェーンがその奥の内海を航行している軍警察の巡洋艦を見る。シルエットとあの巨体だけでどの艦艇なのかすぐに分かるところがサラはやや苦笑していた。
「この内海の反対には軍警の軍港があるそうね」
「ついでに造船所もありますね。昔、資材を降ろしにいったことがある」
「あっ、反対の地域はあるのね」
サラは流石は運び屋と内心で思いながらスフェーンを見る。流石に一〇〇年以上も同じ仕事を続けていると、職員にも驚かれることがあった。
「まあ、まだこれでも言ったことのない細々とした地域が多いんですけどね」
「あら、流石に世界は広いわね」
サラはそう言って、改めて知る世界の広さに苦笑する。
「ええ、とても一回の人生じゃ回りきれないくらい世界は広いですよ」
「そうねえ…」
スフェーンのその言葉にサラは今までの経験からもよく理解した様子で頷く。
「ぶっちゃけ、これだけ簡単に世界中の情報と繋がれると、世界を全て知るなんて無理に近いわね」
「まあ、大災害以前の世界だと『全てを知る』が人類の目標だったって言う話ですけどね」
「私、考古学者じゃないから全く知らないわね」
星全体がエーテルの津波によって飲み込まれ、全てが押し流されて久しい今のトラオムの世界。大災害以前の人類が宇宙に簡単に出られた時代というのは、今もなお歴史の研究対象であった。
「あら、鉄道?」
サラはそこで隣を走る路線を見た。バラストと枕木を使った低等級路線だが、頻繁に使われているのは線路に錆がない路線だった。
「ここら辺を走るローカル線ね」
スフェーンはすぐに地図と路線図を照らし合わせると、その路線と道路がずっと並走しているとわかった。
「あっ」
そして照合を終えて海をよく見ると、スフェーンは思わず声を上げた。
「どうした?」
「あれあれ」
「?」
その異変にサラが聞いたので彼女は声に出して顔をふると、それに釣られるように海辺を見た時、
「ん?おお!」
視線の先の小さな小島。海の上に細い橋が架けられているのが見える。
「あれ?」
「そう」
小島の方にはここからでも神社によく使われている朱色の鳥居が確認できた。
「うわぁ、本当に海の目の前ね」
「ここら辺だと格式の高い神社だそうで」
スフェーンはそう言うと段々と全景が見えてくるその目的地の神社を前にARの誘導に従って道路を入りていく。二輪車専用の道路を使って下まで降りて神社まで向かう。
「止める場所あるの?」
「近くにあるって」
そして海沿いのコンクリートによる護岸工事がなされ、テトラポッドなどが沈められている場所の中、木に囲まれた砂利の敷かれた駐車場を見つける。
「他に参拝者誰もいないの?」
「おかしいなぁ。結構有名な神社のはずなんだけど」
しかし駐車場にはスフェーン達意外に誰も参拝客がおらず、本当にここ有名な神社なの?と首を傾げたくなる人の少なさであった。
「まあいっか。おかでげゆっくりと参拝できそうよ」
「ええ、階段もないから楽で良いわぁ」
サラはまずその一言に尽きると言ってバイクを降りて周りの景色を軽く見る。境内の前で一礼をしてから中に入ると、そこは人っ子一人もいない静かな空間が広がっており、近くを先ほどの鉄道路線があるのか、特急型電車が道路の奥を通過して行くのが見えた。
「あれ?人居ない?」
「見たいね。まあとりあえず参拝しましょうや」
「そうね」
人の居ない神社の境内を歩き、そこでサラが質問をする。
「ちなみにここの神様は何を祀っているのかしら?」
「子供の健康と成長の守り神」
「あら私にぴったり」
「ホンマにそう」
そう言い、サラにぴったりな神社の拝殿前で鈴緒を鳴らして、賽銭を入れて二礼二拍一礼。
「しかし誰も居ないのね」
「これじゃあ御朱印もお守りもあったものじゃないわね」
目の前にはおみくじが用意されており、それを見たサラが聞いてくる。
「おみくじ、引く?」
「え?昨日引いたからダメじゃないの?」
スフェーンはサラに首を傾げながら答える。
「普通おみくじって一年に一回引くものじゃないの?」
「でも別の神社よ?」
「え…でも本来おみくじって今年の運勢を確認するためのものだだから、そう何回も引くって逆に今年の運勢が訳わからなくなりそうなんですけど」
スフェーンはやや早口で応えると、サラはやや呆れた。
「何言ってんのよ。そう言うのは一番運勢がいいおみくじに合わせればいいのよ」
「何て自己中な…」
スフェーンはその意見に表情が引き攣る。
「そう言うのって一番最後に引いた運勢になりそうで怖いんですけど」
「あら、そこは捉え方の違いよ」
彼女はそう言いながらおみくじの箱に小銭を入れて中のおみくじを取る。
「ほら貴女も」
「はいよ」
スフェーンはサラに促されておみくじを取ると、中に入っていたおみくじを開ける。
「「せーの」」
そしてタイミングを合わせて一気に開いた。
「あら中吉」
「私は吉か」
中身を見てスフェーンは考える。
「これ、どっちのパターンかなぁ」
「?」
どう言う意味だとサラは首を傾げると、スフェーンは説明をする。
「ほら、神社のおみくじってこの運勢のところって、
大吉 > 吉 > 中吉 > 小吉 > 末吉 > 凶 > 大凶
大吉 > 中吉 > 小吉 > 吉 > 末吉 > 凶 > 大凶
っていう所とか、半吉とかなんか色々あって正式には決まって無かったりするのよ」
「へぇ」
サラは脳内のへぇボタンを押すと、聞いてきた。
「じゃあ、貴女の運勢は二番手の可能性もあるってことね?」
「まあ、この運勢よりも書いてあることの方がおみくじでは重要なんだけど…」
彼女はそう言っておみくじの下の方を見始めた。




