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TS若返り傭兵は旅をする  作者: Aa_おにぎり
十三両

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286/440

#286

ファウ・ドライのどこにいても見えるマスドライバー。

その巨体を、ここでは見ることができない。


「…」


監禁された部屋の中でスフェーンはぼんやりと上から差し込む窓の光を観察していた。


『現在、一〇:〇三。太陽の角度は…』


部屋から差し込んでいる直射日光の角度をもとに三角比で計算して現在一のおまかな場所を割り出していた。


「(ルシエル)」

『なんでしょう?』


そこでスフェーンはルシエルに聞く。


「(軍警って、どこまで嗅ぎつけたと思う?)」

『…そうですね』


問われたルシエルは、ジャミング装置によって外部との通信ができない状況で試行する。


『私の見立てでは、スフェーンが人質に値するとなった場合、あと三日。人質として処理されない場合は救助されることはないでしょう』

「(わ〜辛辣)」


残酷なまでにルシエルは淡々と答えると、スフェーンはそれにやや引いていた。


「(それ私だから良いけど、人に言っちゃダメよ?)」

『無論です。スフェーンだからこういう風に答えているので』


ルシエルもその点は弁えていると言うと、今までの長い付き合いから学んでいるのだと言った。


「(なら良いんだけど…)」


スフェーンはそこで椅子から降りると、そのまま部屋をざっと見回す。

正直、監視カメラと部屋を繋いでいる監視カメラの周波数を合わせればインターネットへの介入が可能だ。

無論、量子コンピューター並の計算能力を持つルシエルとスフェーンであれば容易に通信回線を開く事は可能だが、万が一にもバレた場合を鑑みてジャミング装置の無力化も含めた行動は控えていた。


「(はぁ…いっそ狂った人間にでもなろうかな)」

『その際、動作プログラムが面倒臭いので私はやりませんよ?』

「(えー、その時は手伝ってよ〜)」


ぼんやりと椅子に座って足を揺らしながらルシエルと話すスフェーン。

監禁されてから間も無く五日。多分、軍警察の方も身元がわかって本格的な追跡が行われている頃だろうと信じながら天井を眺めた。






その頃、軍警察のDRA対策本部では数名の治安官が集まっていた。


「被害者の身元は運輸ギルド所属の運び屋だ」


そこで治安官は渡された資料を確認する。

運輸ギルドのギルド証には写真が無いので、本人の顔写真は無かった。

代わりに監視カメラに映った映像が数枚載せられていた。


ナッパ服を着ていたと言う理由で運び屋では無いかと推測を立てたある治安官のお陰で誘拐された少女の身元は判明した。今でも彼女の貨物列車は留置線に停まっており、誘拐された日から一度も戻った形跡はなかった。


「運び屋か…」

「子供の運び屋って事だな」

「今時珍しくも無いだろ」


資料を読む治安官等は口々に被害者の詳細を確認する。

特段違和感はなく、優秀な成績を残す運び屋だった。


「スフェーン・シュエットね…」

「間違えて誤射るなよ」

「馬鹿、俺の腕を信じろよ」


部屋ではマーリン・サッチャーも同席しており、誘拐したDRAに厳格な対処を行なっていた。


「追跡の方はどうなっている?」


マーリンはそこで報告を聞いた。


「はっ、現場に残されていた被害者の物品から、現在治安官が順次追跡を行っています」


そこで地図のマーカーを指差す。

運輸ギルドや監視カメラから、彼女が誘拐されるまでの動向は全て把握していた。




手榴弾による攻撃が終わった後、誘拐された現場に戻った治安官は、そこで地面に落ちていたハンカチを見た。


「ん?これって…」


それを見つけた治安官は、ちょうど組んでいた犬の獣人を呼んでハンカチの匂いを嗅がせた。


「言っとくが、俺そんな自信ないぞ?」

「まぁ試しだ。辿れるか?」

「本職呼んだ方がいい気がするがな…」


そこで頼まれた彼はハンカチの匂いを嗅ぐと、そこから人の香りを覚えて地面に近づく。


「スンスン…」


そこで軽く匂いを嗅ぐと、ばっちりと空気中に同じ匂いが残っているのを確認した。


「…当たりだな。辿れるぞ」

「そうか!」


犬の獣人の強い嗅覚がスフェーンの匂いをバッチリと把握すると、そのまま先ほどDRA構成員が吹っ飛ばした裏路地まで向かう。


「匂うぞ」

「よし、そのままお前は追ってくれよ」

「分かったよ」


ガヤから見ると完全に匂いフェチの変態がやっている所業に見えるが、警察犬が到着するまで犬の獣人が追跡を行っていた。




この様な背景から治安官は被害者の追跡を行っており、そこで地下道の捜索を現在は進めていた。


「被害者を辿ってDRAの拠点を割り出しています」

「了解した。では次にDRAが要求をしてきた構成員の釈放についてですが…」


そこで対策本部で治安官達は言う。


「はい。現在、要求のあった構成員についでですが、本人は刑務所にて出所を希望する旨を確認しました」


取引相手の構成員の報告を聞くと、マーリンは口を開く。


「あくまでも取引は最後の手段です。人質の確保ができない場合のみ、交渉に応じます。その時は、必ず本部に報告を」

『『『『『はいっ!』』』』』


そこで治安官達は頷くように返すと、そのまま会議室を後にしていく。


「…はぁ」


そして誰もいなくなり、一人だけになったところでマーリンは小さくため息をついた。


「企業テロ…ね」


そこで彼女は今回被害にあった少女のカメラ映像を見る。

鮮明に映る少女の写真は、顔に濃い色のサングラスをかけているナッパ服姿の子供だった。


「…」


マーリンはそこで少し目を鋭くしてからその資料をテーブルに戻した。






「…じゃあ、本当に裏はないのね?」


エレウィンはそこで、部下からの報告を聞いていた。


「ええ、間違いありません。運輸ギルドで動きがありましたし、何より貨物ターミナルに治安官が増員されています」

「…分かったわ」


貨物ターミナルで網を張って、誘拐された人質が戻ってこないか思っているのだろう。


「監視を怠らないこと。カナリアにもバレないように注意を払うように」

「はっ!」


そこで構成員はエレウィンに頷くと、そのまま部屋を後にした。


「…」


そして一人になったところで彼女は小さくため息を吐く。


「ふぅ…」


そこで彼女はそのまま席を立って部屋を後にする。

施設ではDRAの構成員が次のテロを行うための爆弾製作を行なっており、今度は企業の重役会議を狙うはずだ。


倉庫を通り過ぎ、例の人質を監視している構成員に声をかける。


「状況は?」

「はっ、変わりありません」


そこで構成員の男はエレウィンに答えると、彼女は言う。


「監視のタブレットはそれだけか?」

「はい、ハッキング対策でこれだけです」


男はそう言うと、映像がリアルタイムで映し出される通信機器を見せる。


「分かった」


エレウィンは小さく頷くと、そこで彼女は言う。


「監視任務が変わった。お前は補給隊に転属だ」

「わかりました」


そこで構成員は敬礼で返すと、監視機器をエレウィンに手渡した。


「…」


機器を受け取り、エレウィンは構成員を見送った後に少女を収容した部屋の鍵を開ける。


「よっ」

「またか…」


彼女は部屋で座って本を開いていたスフェーンに軽く挨拶をすると、スフェーンは少々疲れた表情を見せた。


「珍しいね。本なんて誰が渡したの?」


そこでエレウィンは小さな本を開いていたスフェーンに首を傾げると、彼女は言った。


「いや?部屋の隅っこに転がってた」

「え…?」


そこで彼女は『汽車のえほん』を開いており、懐かしそうにページを開いていた。


「懐かしい…昔読んでたっけな…」


スフェーンはそこでその本を懐かしげに見ていた。

子供の頃もそうだが、孤児院にこれをセットで送ったこともあった。


「あぁそれ?確かトーマスの原作よね?」

「そうそう。アニメ化した最初の主人公のセリフが『起きろよ、怠け者!僕みたいにちゃあんと働けよ!』と言った完全にクズ系主人公のそれっていうね」


個人的には初代クズ系主人公はクラシック期のトーマスだと思っていた。(by作者)

そう思うほどに口が悪いし、悪いことをやってバチが当たっている(例外あり)こともある中々の衝撃作。少なくとも今放送したら色々と問題になること間違い無いだろう。

しかもこれを幼稚園の頃から見させていた親もどうかとちょっと思う。こんなの見たら子供の性格捻じ曲がるぞ。


「フグッ、そうだったっけ?」


スフェーンにエレウィンは一瞬我慢できずに吹き出してしまった。


「少なくとも鉄道事故をおもちゃでやり出す奴がいたら、確実にトーマスに影響されていると思う」

「まあ『じこはおこるさ』なんて歌作っちゃうくらいだし」


エレウィンも懐かしいものを見たと思いながらスフェーンに持っていた絵本を見つめる。

ただ少なくともこの作品、結構難しい鉄道用語もガッツリ使われていたりして、実在していた車両や鉄道会社もあったりしてリアリティが高くて面白い。


「懐かしいわね…」


そこで彼女はその絵本を見て、それがここにあった理由を思い出す。


「本当に…」


なぜが残っていた一冊はスフェーンの手に握られていた。


「…大丈夫?」

「え?」


そこでエレウィンはスフェーンに指摘されてハッとなって意識が戻る感覚に襲われる。


「あぁ、すまないね」

「…なんで人質の私が心配せにゃならんのだ」


スフェーンはそこでエレウィンを呆れた目で見ると、彼女はそこで聞く。


「本当よね。どうして人質なのに逃げようとしないの?」


エレウィンはそこで彼女の従順すぎる行動に首を傾げる。

前にも似たようなことをした時、その時は成人の男だったが、とにかく逃げようと部屋で暴れまくっていたのだ。

誘拐されて、暴れるどころか何もせずに大人しくしている目の前の少女は淡々と答えた。


「だって無駄じゃ無いですか」

「…ほぅ?」


地面に座り込んで開いていた本を閉じる。


「だってDRAですよ?危ない組織に連れ去られて、逃げ出そうとして死にたかねえですもん」

「…そう」


エレウィンはそこで遠慮なく言い放ったスフェーンの一言に、彼女の座りすぎている肝や完全外野の感情を感じて少しだけ俯く。


「怖い?私たちの組織が」

「そりゃ、民主主義を掲げてホテルとか市場に爆弾投げ込む奴が怖く無いわけ…」


スフェーンはエレウィンに容赦無く現実を突きつけると、彼女はその後大きなため息をついた。

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