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TS若返り傭兵は旅をする  作者: Aa_おにぎり
十三両

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285/440

#285

「やられた…」


ファウ・ドライ市内のアパートの一室、ドゥールランド共和軍の捜査本部となっているアジトで、捜査にあたっていた治安官が拳を机に叩きつける。


「壊れるわよ」

「…もう壊してますよ」


机を叩いたアンドロイドの治安官は、自身の右手に異常を検知して警告文が視界に映し出される。

思わずそうしてしまうほど、その治安官は憤っていた。


「人質を作ってしまうとは…」

「申し訳ありません」


そこで尾行を行っていた私服治安官が頭を下げる。

尾行に失敗し、その上市民一人を人質に取られたことは、軍警察の信用問題に関わってくる問題だった。


「既にDRAから声明も出ています」


そこで彼等はDRAが公開した映像に映る一人の少女を見る。


「彼女が?」

「ガンカメラとの特徴も一致しています。まず間違い無いでしょう」


そこに映る灰髪長髪の少女。

紺色のナッパ服を着ており、治安官のカメラとの相違点は防弾チョッキを着ているかどうかである。人を拉致して人質にするDRAの最近のやり方は企業のみならず、市民からも不安の声が上がっていた。


「人質の映像は顔を隠して身元をわからなくしてあります」

「…CGね」

「はい、恐らく別で顔のデータをとっているでしょう」


そして映像では、DRAの構成員は一度も人質に触れておらず、人質も頭で落ち着いて微動だにしていないので、これがCG映像である事を直ぐに彼等は把握した。

そして人質となった少女はただの市民であり、人質としての価値は低い。だが守るべき市民である以上、対応しないわけにはいかなかった。


「これでは、人質のいる場所は分かりません」


別で顔のデータをとってしまえば、別の場所で撮影ができるのでどこに人質がいるのかは不明である。


「至急、人質となった少女の身元解析と居場所特定に残量を尽くして。また彼等からの要求であるDRA構成員の釈放に関しては厳格な対応を」

「「はっ!」」


そこでこのテロ組織を担当するマーリン・サッチャー少将は、鋼の女傑と謳われた鋭い視線を治安官達に向けた。






====






「おい」

「っ…?」


軽く頭を小突かれ、寝転がっていたスフェーンは目を覚ます。


「…」


その長い髪を軽く振ってから声の下方を見ると、


「飯だ」

「…どうも」


男が黒パンと水パックを持ってスフェーンを見下ろしていた。

食料を持って来たのかと脳が理解すると、体を起こしてその二つを受け取る。


「…」


食糧を届けに来た男はそのまま受け取った黒パンを齧り始めるスフェーンを見た後に部屋を出た。

ここはDRAのアジトの一つ。薄暗い施設の中を歩いていると、廊下である女性が男に聞いて来た。


「どうだ様子は?」


その質問に男は軽く首を左右に振った。


「何も、恐ろしいくらい落ち着いてやがるさ」

「そうか…」


女性はそこで男が人質として連れてこられた女性を思い返す。


「ったく、なんであんなガキを連れて来たんだ…」

「軍警といい交渉材料だろう?」

「どうだかな」


軽く肩をすくめて男はその場を後にすると、残った女性はそのまま男の来た道を通って部屋のドアを開ける。


「…誰?」


部屋では人質の少女が初めて見た顔に首を傾げていた。


「初めまして、お嬢さん」


その女性はぱっと見十代後半の容姿で、妖艶な肉体を薄らと見せる女性。一番上からコートを羽織っていた。

裏若い見た目をするその女性は部屋に置かれていた椅子を手元に手繰り寄せて座り込む。


「君、名前は?」

「…普通そう言うのって、貴女から自己紹介をするのでは?」


スフェーンは話しかけてきた女性に首を傾げ、同時にやや怪訝な目線を向ける。

するとその女性は軽く笑った。


「はははっ、そりゃ悪いね」


短く笑った後、彼女は自己紹介をした。


「私はエレウィン・グリフィス。まあ、この組織を率いている女と思ってくれればいいわ」

「…」


名前を聞き、即座に検索をかけたルシエルは彼女が軍警察の指名手配犯に指定されている事を把握し、同時にピンボケはしているが写真付きの賞金首であることも把握した。


『エレウィン・グリフィス。二代目司令官にして現DRA代表を勤めており、現在指名手配中。賞金額は二万五〇〇ウィールです』

「(わ〜、とんでもねえや)」


まさかの賞金首にスフェーンは内心軽く絶句しながら、相手が言ったのだからとスフェーンも自己紹介する。


「貴女は?」

「スフェノス・ククヴァヤ。一応、しがない運び屋です」

「運び屋?…なるほど」


現在、DRAの人質としてこの部屋に収容されている彼女は、一日中監視カメラによる監視が行われ、一日二回の食事が与えられている。

そこで監視をしていたエレウィンはスフェーンの壁を叩いたり、差し込む日光に腕を上げて影を見ていたりと、不思議な行動をとる彼女に少し警戒をしつつも、子供らしいよくわからない行動として処理していた。


「仕事でこの街に?」

「そうですよ。買い物に出た先でこの有様です」


スフェーンは少し表情を悪くしてエレウィンを見る。

彼女の顔から3Dデータを撮る際に、同時に金属反応の探知も行ってサイボーグ化しているかどうかの検査を行った結果、右目に反応があり、義眼である事を把握。そのため外と通信できないように分厚いコンクリートとジャミング装置を取り付けたこの部屋に放り込んでいた。


「返して下さい」

「無理に決まってんでしょ」


すでに映像は公式のサイトに映像を載せた。要求は現在収容されているDRA構成員の釈放。まだ反軍警察の色合いを強く残しているファウ・ドライでは、軍警察は慎重な行動を取らざるを得ない。

ネットの反応を見ると、人質を取った事に対し軍警察への批判もちらほらと出ていた。


「畜生、この後優雅に飯食うはずだったのに…」

「あら残念ね」


直後、エレウィンの顔面に黒パンがスパーキングされる。


「ぐほぁっ!?」


スフェーンの馬鹿力で投げられ、硬い外殻を有した黒パンは正確に顔面に命中し、エレウィンは軽く鼻を赤くした。


「いったぁ〜、何すんのよ!」

「ふんっ」


軽く鼻が曲がったのではと思いたくなるほどに強烈な打撃を受けながら、ちゃっかりぶつけた黒パンを地面に落ちる前にその手に持っていたスフェーンは鼻を鳴らした。


「勝手に人を誘拐して監禁したからだよ」

「…そう」


すると部屋を監視していた監視カメラの映像を見ていた構成員が銃を持って部屋に入って来た。


「リーダー!」


恐らく黒パンを投げつけたのを見たのだろう。彼等は銃口をスフェーンに一斉に向けた。


「待て」


しかしエレウィンは片方を上げて制止させた。


「しかし…」

「構わんさ。大した事じゃ無い」


エレウィンはそう言うと、構成員達は渋々と言った様子で銃口を下す。


「子供を射殺する程、我々は堕ちるのかね?」

「…申し訳ありません」


銃を下ろした構成員達はスフェーンを睨み付けたが、彼女は意に返さない様子で黒パンと水を胃袋に入れていた。


「ただ力をつけられるのは困る。量を減らしておけ」

「はっ!」


そこで数名の構成員は返事をすると、そのまま部屋を後にする。


「まあ軍警と話が終わるまでは大人しくいていてくれ」

「あぁそうですか」


不満げな表情を隠さない少女にエレウィンは微笑むと、部屋の扉を閉じた。




DRAのアジトは郊外近くのマスドライバーの長大なレール下の、かつての点検設備を管理する建物にあった。

整備施設の倉庫ではDRAの武器倉庫があり、爆弾の製作や武器弾薬が保管されていた。倉庫の警備は二脚自走タレットが巡回しており、7.62mmガトリング銃を二丁備えていた。

倉庫には他にも装甲車やオートマトン、歩兵戦闘車や装甲兵員輸送車の姿も見受けられた。


「リーダー」

「何だ?」


倉庫を歩いていた彼女に一人の構成員がな話しかけてくる。


「軍警と企業の定時報告だ」

「…分かった」


現在、少女を人質にとったDRAは構成員の釈放と現在の政府政党の解散と総選挙を要求していた。

彼等は現在の政党は企業の献金によって誕生した民主主義であり、現在の政党政治は偽りの企業支配であると叫んでいた。


南北戦争以前は企業連合に対する攻撃やサイバー攻撃を仕掛けていた企業レジスタンス。彼等の目的は企業の抑圧的支配からの市民階級の解放と民主主義政治の勃興だった。

大災害以前にトラオムを支配していた統治機構が行っていた民主主義政治を甦らせ、統一政体による国家創設と世界平和を実現させる。その信念を持って企業との戦いを挑んできた彼等は、南北戦争勃発時の建国ブームによって次第に下火となっていった。


「それで、向こうの動きは?」

「軍警察は相変わらず街中を駆け回ってあのガキの身元特定に喘いでいる。企業の連中は…まぁ、多少PMCが嗅ぎ回っているが、今のところは」


しかし民主主義とは言え、企業の推薦する議員以外の立候補は資金面という形から厳しいものがあり、派手に広告をガンガン打って企業の組織票を回収する今の政党にかつての企業レジスタンスは敵うはずもなかった。

一部の企業レジスタンスは政党を作り、熱心な政治活動を行い、念願の民主政治が叶ったと仕事に励んでいたが、DRAのように政党を作らず。あくまでも『本当の民主主義政治』を求め闘争を続ける者たちもいた。


「そうか…」


エレウィンは報告を聞き、倉庫の隅の作戦室で一考する。

スフェノス・ククヴァヤという少女は自らを運び屋と言った。運び屋というのは、ここ最近では急速にその数を減らしつつある職業だ。

傭兵という仕事が組織化されていっているのと同様、運び屋も組織化により個人営業による運送を行うことは減ってきている。


「…運輸ギルド近辺の監視を増やしなさい。治安官の動きを確認して」

「了解しました」


現在は数を減らしている運び屋。しかしゼロではないので、彼女は詐称を行っている可能性を拭えない。

詐称をしている場合は、その本性を暴く必要があった。


「(全く、面倒な子だことで…)」


そもそも人質を取ったと言っても彼女は大して使えない一般市民。軍警察が対応する可能性はあるが『人質の安全』を担保するかどうかは不明だ。


「(こうも扱いに困るとは…)」


従順ではあるが、やること言うことが不可解な少女を前にエレウィンはため息を漏らした。

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