#271
空をエーテルと言う殻で覆われたトラオムの大地。
テラフォーミングにより星外から持ち込まれた多様な植物や水資源。
一度は全てエーテルの津波で押し流されてしまったが、長い時間をかけて復興しつつあった。
「んあ〜っ!!」
キャビンの中、慣れ親しんだベッドの上でスフェーンは腰を伸ばす。
「腰痛ぇ〜」
そして軽く腰をコンコンと叩いて彼女は体を起こす。
『歳ですか?』
「断じて違うと言っておこう」
ルシエルに反論すると、スフェーンはそこで今の列車の現在位置を確認する。
「今の場所は?」
『目的地まで約二三〇キロ。予定では二時間後に到着します』
「りょーかい」
そこで今は学生ほどの一五〇半ばの身長、スフェーンは学生の姿と名づけた体で今回の仕事をこなしていた。
「流石に今回は仕事にやる気が入るね〜」
『ですね』
ルシエルが頷くと、今回の指名依頼の品を確認する。
『街路樹五〇〇株の輸送ですからね』
「結構大事な荷物だよ〜」
今では十二両という編成数で移動を行なっているこの貨物列車。今はとある都市に向けて線路を走っていた。
するとルシエルは偵察中のドローンが防砂林の中にある熱源を見つけた。
『スフェーン。防砂林に不明な熱源を探知』
「敵かなぁ…」
まあ、今運んでいる荷物からして狙われやすいのは自明の理ではあった。
現在、植林が進められているこれらの耐エーテル性質を有した植物というのは、生物濃縮の究極とも言える植物であり、空気中のエーテルを呼吸で吸収した後、その木が実らせる果実の中にエーテルを溜め込んで育つ。
つまり、植えて育てるだけで近場の空間エーテルを吸収してしまう効果があった。
従来、巨大な空気清浄機を持ち込んでいたのが、これで一気に除染費用が減る画期的な発明であった。
おまけに、一株毎にシリアルナンバーがあるわけでも無いので、闇市に流しても足がつきにくい。
故に利益率の高い、足がつかない商品としては十分すぎ、強盗するにもちょうど良い商品であるのだ。故に植物株を輸送する貨物列車は狙われやすかった。
特に最近、目的地の都市ではこれら耐エーテル植物を大規模に導入することが発表され、その事を知らない野盗はいなかった。
『ドローンの偵察情報、マーキングしました』
上空を飛ぶドローン。被撃墜警戒のために古い光ファイバーケーブルで繋がれたそれは、運転室上部のハッチから繋げられていた。
「あちゃ〜、こりゃ自走迫撃砲だ」
隠れている敵の武器を確認すると、そこで列車の武装区画が稼働して列車は警戒体制に入ると、ちょうど飛んでいたドローンが隠れていた兵士の放った散弾と思われる武器によって撃墜された。
「チッ、来るよ」
『付近のエーテル機関の始動を確認。攻撃を開始します』
前後二両の動力車にある四つの武器格納庫、そのうち二つのCIWSから30mmガトリング砲が迫り出して起動する。
ッーーーー!!
直後、発射される30mmの銃弾は隠れていた野盗に命中すると、それを皮切りに野盗達は襲撃を敢行する。
「続けぇ!!」
そこで森の中から出てくる野盗は多脚戦車やオートマトンなどを有しており、砲撃を行ってくる。
「おっと、オートマトンもいるか…」
『多脚戦車も確認。数二』
「昔に比べてだいぶ減ったものね」
スフェーンは直感的にそう感じると、運転席に座って列車の速度を上げる。
大体こういう時、野盗というのは機関部を破壊して止めるか、走行中の列車と並行して荷物を奪っていくかのどちらか。
今運んでいる荷物ばバラ積みで、植物の背が高い影響でコンテナの上部が開いた特殊な形状をしている。これでもし自分が野盗だったら、やるなら後者だ。
「ルシエル、接近させないで」
『了解。射撃は牽制を中心に行います』
現在二つまで減った複合CIWS。対空ミサイルが装填されて発射されると、一発が追従する一台のオートマトンに命中して爆発を起こす。
「私も出るよ」
『了解しました。列車の運行はこのままでよろしいですか?』
「ええ、頼んだわ」
そこで彼女は頷くと、群青色に変えてモード・アザエルを起動した。
「うごっ」
『失礼』
そしてコックピットに座って機械と接続していた多脚戦車乗りの野盗の脳をジャックすると、そのまま体を奪って戦車を乗っ取った。本人は気絶しているだけなので、死んではいない。
「よし、作戦開始」
そこで接続されていた自分の列車への照準を、同じく追従する同じ多脚戦車に合わせると、
カチッ
そのまま手元の操縦桿の赤いボタンを押した。
ッ!!
直後、背負式の120mm滑腔砲が発射。背部から多脚戦車を貫通すると、燃え上がって撃破される。
『『『『っ?!』』』』
無線を切っているが、確実に動揺した様子を浮かべる野盗達。
それを見て好戦的な笑みを浮かべるスフェーン。
「良いねぇ。じゃあ、やろうか」
そこで再度発砲。砲弾は防砂林を掠めて彼方に飛んでいくと、次に主砲同軸の14.5mm機関銃を発射。
「…よっと」
発射された機関銃は複座式オートマトンに命中すると、一瞬怯んだのでその隙に発砲。過貫通を起こして沈黙する。
「おっと」
するとそこで、多脚戦車の一つがあるオートマトンの30mm銃弾で人工筋肉ごとユニットが吹き飛ばれ、若干姿勢が崩れた。
「っ!やべっ」
すると今までジャックしていた体と機体のシステムに介入が始まった。多分、向こうは中身がジャックされたことを冷静に考えて動いたのだろう。大した奴だ。だが…
「これで仕事は終わり」
野盗の足止めを行うのが主目的であり、列車は随分と遠くに行ったのでスフェーンすぐに遁走を行った。
「っ!?」
そしてその直後、叩き起こされた搭乗員は、自分に何が起こったのか理解できずに困惑していた。
「依頼完了です。ご苦労様でした」
運輸ギルドからの定型文を受け取り、仕事を終わらせたスフェーンは軽く腕を伸ばして運輸ギルド併設のコインランドリーに洗濯物を叩き込む。
「んぁ〜、疲れた〜」
『お疲れ様です』
そこで施設内にある銭湯に向かう。
番台に五〇〇輪硬貨を置き、そのままロッカールームに入ると、着ていた服やらなにやらを全部ロッカーに放り込んで鍵をかける。
そして扉を開けてシャワーを浴びて労働の疲れを癒す。
はるか昔の旧暦の時代、シャワーはおろか風呂にも入らない習慣があったと言うのだから戦慄である。
今の時代、運輸ギルドの大半にはこういう銭湯があり、誰もが身体を洗っていた。
「ふう〜…」
多くの客が出入りをする中、ゆったりと肩湯を受けるスフェーンは顔を少し緩める。
『管理局への申請を行いますか?』
「ええ、お願いするわ」
スフェーンは短く頷いた。
今回の目的地はここタラコマ、沿岸部に存在する港湾都市の一つで、ヴェルヌ大陸南西部における大陸の玄関口である。
そして海峡横断路線ウォーターラインの北側の出入り口でもある。
大戸海峡を海峡横断大橋と海底トンネルで繋ぐこの路線は、途中にある人工島を起点に切り替わっている。
そう、今回もまた。スフェーンは海を超える予定でいた。
向かう先は、海峡を越えた先の押川大陸。予定変更で決めた場所のある大陸だった。
『目的地は変えませんね?』
「ええ、その予定よ」
スフェーンは頷くと、この後に必要な事のリストアップを行う。
『大陸を越える前に列車の清掃と機関の整備、あとは所属管区の移動申請ですね』
「わぁ〜やる事いっぱい」
パッと出たものでこれで、リストアップされたTo Doリストを確認すると、ルシエルは言う。
「ですが、まずは休みましょう。話はそれからです」
「ん、おっけ〜」
そこで銭湯で軽く体を洗い、疲れを癒すと、さっぱりした後に時計を確認してコインランドリーに行くと、そこで洗濯物を乾燥機に放り込んで再度乾燥を行う。
「ふぅ…」
その間、列車の整備・点検を行うための整備工場を探す。
「んん〜、良いところねっかなぁ…」
そこでネットで検索をかけると、大半が鉄道管理局の運営する整備工場を勧めてきていた。
「うーん…」
しかし彼女は少し渋る。確かに、公的機関が運営する工場なので信頼は高い。
だが列車に積んでるエーテル機関が大災害以前のもので、そのことを知られると面倒なことになるのは前に経験済み。
『ノルさんに聞いてみるというのはいかがです?』
「え?でもここほぼウリヤナバートルの反対側よ?」
そこでルシエルの思いつきにやや驚いて聞き返すと、まあ試してみるかというノリで連絡を入れる。わぁ、まじで久しぶりに連絡を取る気がする。
個人番号を入れて数コールすると、連絡がついた。
「あっ、もしもし?」
『珍しいね。君から電話とは』
ノルはスフェーンからの電話にやや驚いた様子を見せる。
『どうしたんだい?借金の返済交渉でもしにきたのかい?』
「ああいや、そっちの方はもう終わるでしょ?」
スフェーンはそう返し、ちまちまと返済を続けている列車の改装費用の事を思い出させられる。
あれから仕事を色々とこなしており、着々と返済を続けており、次の仕事で支払いが完了するほどだった。
『うんうん、支払いをしっかりしてくれる人は好きだ。それで、今日はなんの用事だい?』
「実はちょっと相談があって…」
そこでスフェーンは事情を説明すると、ノルは理解した上で数回頷くと、
『なるほど…今はタラコマにいるのか…随分と遠い場所に行ったね』
「まあね、これから海を渡る予定だし…」
スフェーンの移動距離にノルはいずれ世界一周をしそうだなと思いながら今彼女のいる場所を地図で検索をする。
『ふむ…そこら辺なら、近くに私営の整備工場がある』
「大丈夫?前にこのエーテル機関で面倒なことになったけど…」
『僕の方から連絡を入れておくよ』
「分かった。ありがとう」
『いえいえ、太客と誠実なお客さんには優しいだけだよ。じゃあね』
そこでノルは通信を切ると、スフェーンはメールで送られた場所を確認すると、乾燥機の停止音が聞こえて洗濯物の乾燥を終えて中身を取り出す。
「よしっ、良い感じ」
そこでしっかりと乾いた自分の服を確認すると、カゴの中に放り込んで運輸ギルドを後にした。




