#268
スクラップヤードと言う狭い場所で縦横無尽に駆け回るのは、地元の孤児。
「くそっ!」
「アイツ…!!」
子供を追いかける様は遥か昔の捕物を彷彿とさせる。
「撃て!」
「え!?し、しかし…」
追いかけていた男の一人が言った言葉に、金的の痛みを引きずりながら追いかけていた別の男が若干狼狽えた。
「チップの所在さえ分かればどうでも良い!」
「…」
男は言うと、自分の持っていた拳銃を一瞥した。
「早く!」
すると既に叫ぶ男の手の中には拳銃が握られていた。
「チッ…」
あまり血を流したくはなかったと内心思いながらホルスターに手を触れた時、
『大丈夫だ』
二人のつけていたインカムに別の声が入ると、スクラップヤードの影からライトが照射された。
『俺達に任せな』
それは民間用に安全上の取り付け義務を有されたオートマトンのライトだった。
「っ!!」
ライトが点灯し、エーテル機関が動き出す音と共にスクラップヤードに民間用に偽装されて置かれていた二台の軍用オートマトンが動き出したのだ。
いきなり目の前で動き出したオートマトンに、ヨークは驚愕した表情で思わず目を見開く。そしてオートマトンはバックパックに25mm自動小銃を備えていた。
「不味いっ!!」
ヨークは慌てて足場にしていたスクラップの山を降り始める。
大きく腕を振るって、オートマトンの鋼鉄の手が振り下ろされると、スクラップの山に突っ込む。
「うわっ!」
咄嗟に避けたはいいが、オートマトンを相手にどうしようもない状況。ヨークは予想外の敵の出現に驚愕していた。
「くそっ、やっぱりオートマトンを潜ませてやがった!」
「やっぱり企業のクソどもは汚ねえぜ!」
スクラップヤードを見回せる港湾管理局の建物の屋上で狙撃班は毒吐く。
強力な338口径の消音器付き精密狙撃銃を装備する彼らは、スクラップヤードの捕物をスコープ越しで見ていた。
「先に追跡者を片付けろ。射撃用意」
「いつでも」
「問題無し」
測距儀を覗き込み、風向きや風速、気温や湿度などの気象観測データを狙撃手の視界と連動する。
「どこでも良い。この口径なら、生身の人間は制圧できる」
「それに今回はマグナムです。一発で仕留めてやりますよ」
そう意気込むのは軍隊上がりの狙撃手だった。
基本的に、狙撃には軍用と警察用のに種類のマニュアルが用意されている。
軍に必要な狙撃スキルというのは敵との戦いであり、敵戦力の喪失が最優先となる。
交戦距離が長い分、的は人体全域であり、どこに当たっても基本問題はない。
逆に警察に必要な狙撃スキルは一発で確実に制圧する必要がある。
交戦距離が軍とは比べて圧倒的に短い代わりに人の急所、俗に言う脳幹と呼ばれる場所を撃ち抜く必要があった。
なので極めて正確性の高い狙撃能力が求められた。
「諸元入力良し。射撃準備完了」
「いつでも射撃行けます」
そして今回はどちらかというと、軍用の狙撃が求められる場面だった。
「撃て」
ッ!ッ!
観測手の命令で狙撃手二名は銃の引き金を引くと、ヨークを追いかけていた二人の男はそれぞれ腹部と右足を撃ち抜かれた。
「ぐあっ!」
「ぎゃあっ!」
腹部を撃たれた方は着弾と同時に赤い鮮血を地面に散らし、足を撃たれた方は循環液が飛び散った。
「目標一・二、命中!」
軍用のマニュアルで、これほどの至近距離ということで一発で制圧を完了した狙撃班。
『くそっ!狙撃手か!!』
一撃で二人やられたのを見ていたオートマトン乗りは、バックパックから25mm自動小銃を取り出した。
「っ!」
「嘘だろ!?」
その行動に狙撃班は軽く驚くと、狙撃位置からオートマトン乗りは近場の狙撃地点足り得る場所となる港湾管理局の主屋を狙いに定めた。
そして照準を合わせると、銃口を向けてきたオートマトンは発砲した。
ッッッッッッ!!
直後、港湾管理局の建物に25mmの銃弾が飛んできた。
「馬鹿かあいつ?!」
「伏せとけ!サーマルで狙い撃ちだぞ!」
観測手が測距用望遠鏡を柵の下に片付けてから怒鳴った。
オートマトンも大まかな照準で撃っているので、鉄筋コンクリート製の建物に数発が命中するだけで終わっているが、
「こんなの通報案件だぞ」
「先に埠頭を封鎖して正解だった…」
「あーあー、やりすぎだ…」
第二埠頭は大規模なスクラップヤードであり、夜間の間は安全上の問題から通行が制限されている場所でもあった。
直前にこの埠頭に繋がる道路は道路封鎖をしたことで、放たれた銃弾が住宅街に落ちるという悪夢のよう事態にはならなかった。
「これ、後で始末書書かされますかね?」
「今それを言う場合か?!」
25mm弾の銃声が響く中、呑気にこぼした狙撃手に観測手は呆れも混ざった驚愕した様子で聞いていた。
すると銃声が一度止み、そこですぐに彼らは25mm自動小銃の弾倉が切れたと理解する。
「撤退だ」
「「了解」」
なるべく生き残った機材を持てるだけ持って彼らは建物からの避難を行うと、オートマトンのいるスクラップヤードの方から軽い銃声が聞こえた。
「別働隊が動き始めたか…」
いつもはライルの指揮下で動く為に少々新鮮味を感じつつも、『治安官らしい仕事』に彼らがほくそ笑んだ。
「対象の確保を優先するぞ」
狙撃を確認した別働隊はすぐに動く。
撃たれた二人のPMC兵の確保を行い、情報の収集を行う。
「強化外骨格にも気をつけろよ」
事前の情報にあった敵性勢力の有する武器を前に注意を促すと、自動小銃を持った数名の治安官がスクラップヤードに突入をする。
頭上を駆け抜けている25mmを見てある治安官がぼやいた。
「ひぇ〜、敵さん本気だな」
「それだけ追い詰めている証拠だ」
同刻、対象の事務所と家を強制捜査のために軍警察の部隊が突入を行っていた。事務所と自宅双方に本人の姿は確認されず、事務所で対応したバーナードもアンドロイドの偽物であることが既に分かっていた。
「行くぞ、バーナード本人の居場所を吐かせるのに必要だ」
「りょーかい」
治安官は不敵に笑うと、スクラップヤードに飛び込んで行く。
二台のオートマトンはヨークを捕らえようと稼働し、狙撃も相待ってスクラップヤードは半ば戦場の様に化していた。
「うわっ!?」
ヨークは振り下ろされたオートマトンの腕を動きをしっかりと見てから避けると、顔のすぐそばを弾き上げられたサイボーグの腕が掠めて行った。
『くそっ』
『すばしっこい奴だ!』
超至近距離で捕物を繰り広げる二台のオートマトンと一人の子供。旗から見ればいっそ滑稽にも思える様な動き方をしていた。
「っ!」
オートマトンの動きの隙をついて股下から抜けて再びスクラップヤードに逃げ出したヨークに、オートマトンの一台が発煙弾を発射する。
「熱っ!」
放たれた発煙弾から放出された白煙。白燐弾を使っているので激しい熱が彼を襲った。
『逃すかぁっ!!』
フードを被って熱から逃げたところ、視界が遮られたことでオートマトンは好機と見てヨークを掴みに掛かった。
「っ!」
そして伸ばされた腕がヨークの腕を掴みかけた瞬間、
カンッ!
甲高い金属がぶつかった音が聞こえた途端、オートマトンの腕がもげた。
「っ!!」
『なっ!?』
唐突なことに困惑するが、その直後にヨークは体を掴まれて煙幕の中を連れられる。
「全く…白燐弾を使うとか正気かよ…」
「っ!?兄ちゃん?!」
するとスーッと展開していた光学迷彩が切れて姿を現したロトにヨークは驚きながらも顔を見た。
「フード、外すなよ」
「あっ、あぁ…」
脇に抱えられ、スクラップの山を軽々と飛ぶロトに二台のオートマトンは25mm自動小銃を向ける。
ッ!ッ!ッ!ッ!ッ
軍用で、予備弾薬も十分にあるPMCのオートマトン。その銃弾はスクラップの山を穿つ。
「飛ぶぞ」
「ああ…」
鼠小僧の様に子供一人を抱えてスクラップの山を飛ぶサイボーグの出力に驚き、ヨークはロトを見上げる。
程よくオートマトンが煙幕を焚いてくれたことで二台のオートマトンはサーマルも使えなかった。
「ヤク達は!?」
「今、捕まえた奴から情報を聞き出しているよ」
ロトは拘束した二枚の記憶情報の解析結果を待っていた。
ヨークもいい結果が来る事を願いながら一旦目を閉じた。
「でもオートマトンが…」
「問題ない」
ニヤリと笑うロトの顔は邪悪に満ちており、それを見たヨークが絶句するほどには口角が上がっていた。
「…ジェロさん」
そこで短く呟くと、スクラップヤードの側の水路に浮かぶ一艘の艀から一瞬閃光が瞬くと、
ゴォォン!
重々しい金属同士ぶつかる鐘のような音と共に二人を追いかけていたオートマトンの一台に大穴が空いた。
『っ!?』
軟鉄製の弾頭はオートマトンの複合セラミック装甲と圧延鋼板によって潰れるように変形して止まると、オートマトンは着弾時の反動で後ろにのけ反りながら倒れた。
『全く、とんでも無い珍兵器を摑まされたものだ』
洋上の艀では、一丁の長銃身を持った旧世代のオートマトンが立っており、持っていた銃のレバーを倒して鎖栓を降ろすと、薬室からこれまた古い繊維プラスチック製薬莢が排莢される。
コックピットの画面には、オートマトンのカメラが最大倍率で映している映像があった。
「次弾装填」
音声認識でオートマトンは足元の57mm砲弾が握られると、薬室に装填される。
七〇口径のこの57mm砲は、オートマトンの開発初期の頃に作られた速射砲を改造した代物で、単発式のフォーリングブロック方式の化石レベルで古い武器だった。
そして砲弾が装填されると、ジェロームは赤い操縦桿のボタンを押して発砲。コイルガン用のジャケットすら装備していない古すぎる装備だった。
ちなみに銃自体はアイアンサイトでのキロ単位狙撃なので、割と非常識な狙撃である。
衝撃波で艀近くの水面が波立ち、発射された弾頭は再度進行してきたオートマトンに命中する。
『命中』
無線でロトが伝えてくると、そこで再び薬莢を排出して使い古されて黄ばんだ薬莢が転がる。
『流石ですね』
「なに、この距離なら簡単に命中させられるさ」
『旧式オートマトンで、レーザー測距も弾道計算機もない武器で、古い火薬式の銃で、しかも足場も不安定でよくキロ単位狙撃ができますよ』
よく噛まずに言えたなとロトは思い、ジェロームは後ろの櫓を左右に動かすと、艀をスクラップヤードに向けて移動を始めた。




