#261
ッーーー!!
エンジンの轟音が鳴り響き、二重反転ローターがゆっくりと等加速で回転を始める。
エーテル機関特有の高速運転時の骨笛の音を響かせながら陸軍基地から二機の攻撃ジャイロダインが離陸準備を進めていた。
航空部隊の編成としては最小となる二機一個編成の巡回部隊。目的は野盗の摘発と路線監視である。
臨検の場合、ここにクアッド・ティルトローター一機が付いてくる。
今の世界最大の大半を支える鉄道、その鉄道路線防衛の為に軍警察は鉄道管理局からの委任を受けて長年にわたって鉄路防衛を担っていた。
『こちら草橋06、離陸準備完了』
『草橋04、離陸準備完了』
『こちら管制塔、草橋06、草橋04。離陸を許可する』
ジャイロダインはローターの回転数を上げると、離陸を開始する。
元々ジャイロダインは固定翼機と回転翼機を足して二で割ったような構造を持っている。
上部の二重反転ローターが回転をすると、二機のジャイロダインはテーパー翼の下にロケット弾ポッドと対戦車ミサイルを懸下していた。
ローターを外せば、垂直離着陸能力を失う代わりに攻撃機としての能力を最大限発揮することとなる。代わりにヘリコプターとして運用する場合は積載量が大幅に減っていた。
南北戦争中にはこのテーパー翼のハードポイントに傷病兵をくくりつけて搬送すると言う、割と珍兵器じみた運用もされていた。
『火器管制、問題なし』
『CP、こちら草橋06。これより巡回を開始する』
通常を『空飛ぶパトカー』とも呼ばれる機体は離陸をしていくと進路を変更して路線警備に向かった。
『撃ぇっ!』
ッッーー!!
洋上では陸奥型戦艦の「加賀」「赤城」の二隻が砲撃を行う。510mmの火薬併用型の電磁加速砲を用いて砲弾を放つ。
南北戦争を介入後一年で終結させた事実は、軍警察の権威を一気に高める要因となった。
今まで、この口径のエーテル・カノンは開発されてこなかった為、356mm口径のエーテル・カノン以外のE兵器を軍警察は有していなかった。
そして現在、艦隊は洋上にて訓練を行なっていた。
『撃ぇっ!』
ッーーー!!
そして高雄型巡洋艦の「青葉」「阿武隈」以下四艦が目標である島に向かいエーテル・カノンの砲撃を行う。
戦中・戦後にかけて大改装が施され、対空砲の換装・増設や新型砲塔への換装、機関出力の強化などを行なった第五次改装を終えた巡洋艦戦隊。そこから放たれる無数の光線が目標である小島にある射撃目標に命中すると、命中箇所が爆発を起こした。
戦艦の砲撃は先の戦争時でもその威力を十分に発揮しており、上陸作戦成功のきっかけを作った。
砲撃目標の小島の上空では偵察機が緩やかな旋回飛行をしていた。
『大鷲01より旗艦、ただ今の射撃はーー』
高高度核爆発により、広域的な長距離通信を封じた影響で、光ファイバーによる有線通信という前時代的な通信方法に限られた影響で、砲兵達の着弾観測などに大いに役立っていた。
また無線封鎖による艦隊内通信が発光信号で行われたことから、改装時に新たに投光器が取り付けられていた。
「順調だな…」
「ええ、あの戦争のおかげで軍警察は息を吹き返しましたぞ」
上空を戦闘爆撃機が通過し、誘導式の演習弾を投下していくとその演習司令官は満足げにそう呟いていた。
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「おーらーい!」
その場所は、鉄道有数の難所とされる碓井峠。現在そこでは489系の前にEF63電気機関車二両、後に二両のED42電気機関車の、計四両の電気機関車が連結作業を行なっていた。
ガシャンッ!!
重い金属音が鳴り、手慣れた様子で自動連結器が列車と接続し、軽く前後に動いて外れないかの確認作業を行う。
「連結完了!」
「了解、出発用意〜!」
作業員達が赤緑の旗を回しながら作業を終えると、そこですでに乗降を終えていた乗客たちに発車ベルが鳴り響く。
「ピーッ!!」
濃紫色の制服を羽織る鉄道管理局の駅員は笛を鳴らすと、列車の扉が閉まってゆっくりと補機連結を終えた編成は峠区間を登り始める。
「…」
その車内で、ジェロームはパソコンを開いていた。
長い事列車を乗り換えての旅を続けており、旅行に出た当初に列車強盗に出会した時は骨が折れたものだと思った。
周りには様々な乗客が乗り合わせており、峠区間を前に携帯電話を取り出す者もいた。
二本の線路の間に敷かれたギザギザとしたラックレールに最後尾に連結された電気機関車が歯車とかみ合わさって列車を峠区間に押し上げる。
どちらも峠区間用に配備された機関車であり、ここを通る列車は必ず補機を連結して運行する必要があった。
「…」
急勾配の坂を登りながら、その線路脇で作業中の事業用車を見る。見ると植林を行っており、新しい耐エーテル性を持った新たな苗木を植えていた。
急速に広まりつつあるその植物は、生物濃縮によってエーテルを木の実に集めると、その実を落とした。
軍警察の研究者が遺伝子操作によって開発に成功したと言われており、緑を復活させる一環として路線近くの防護林として植えられていた。
峠区間を登ると、前方のEF63がブレーキングをしながら坂を下っていく。
どちらかと言うと、この区間で補機を付けるのは下りでスピード超過を起こさせないブレーキ車としての役割が強かった。
「峠を越えたか…」
坂道を降りながらジェロームは窓の外を見る。
峠を越えた先の駅で列車は補機を外すと、反対のホームには機関車待ち地の列車が停車し、そこを115系電車が補機を付ける事なく通過していた。
「着いたか…」
そこでジェロームは切符の確認を行うと、停車した横河駅に下車する。
下車をすると、他の切り離しを終えた列車が走り出し、補機をつけた別の列車が坂を登り始める。
常に休む事もなく、一日中稼働しているこの峠区間は特に今日は盛況だった。
「なるほど、基底トンネルの集中工事か…」
迂回を促す張り紙を見て納得する。普段、この区間は基底トンネルを通過するルートが取られるが、その基底トンネルが集中工事を行ってい影響で半分の路線が使えなくなっていた。
だから混んでいるのかと軽く納得し、ジェロームは混んでいる横河駅を歩くと、目的の場所に着く。
「おっ、あったあった」
視線の先、ホームの中の売店で飛ぶように売れているのは駅弁だった。
『峠の釜飯』
ここら辺でも…いや、多分世界的に見ても有名な駅弁である。ホームでは駅弁を持った職員が停車中の列車に近づいて販売をしており、止まっている列車の窓を開けて弁当を売り捌いていた。
ジェロームはさっそく列に並んで駅弁を購入すると、それを持って列車の窓口に向かった。
「切符を一つ」
「行き先はどちらですか?」
窓口で受付を行うアンドロイドが聞くと、ジェロームは行き先を伝えるとそこでいくつかの会社が運営する同駅に停車する列車を見た。
最近では、旅客・貨物問わず会社の統合と大規模化が進んでいた。
大規模な旅客会社は政府による買収を経て『国鉄』へと変わり、国内の鉄道運行の管理を統括するようになった。
「ルプシアル国鉄の二等車を」
「畏まりました。アイロニーまでの切符でよろしいでしょうか?」
「ああ、それで」
そこで受付で切符の発行を行う。
「一ウィール一二〇輪です」
言われた通りの金額を出すと、受付から切符が渡される。
大体の二等車は指定席版三等車。切符を受け取り、ジェロームはその列車が来るホームに移動をする。
電光掲示板にはどの番線にどの列車が来るのかが記され、直前まで分からない。だから改札前は大勢の人で行き交い、同時にカートレインに車が乗せられて行く。
「…」
ジェロームは電光掲示板を時折見上げながらホームで待っていると、列車接近のアラームが鳴った。
『間も無く、特別列車が通過いたします。黄色い線の内側に入りーー』
数度の警告の後、轟音と爆煙を撒き立てて水冷エーテル機関車と連結した装甲列車が走り抜ける。
構内最高速度の時速一一〇キロで走り抜けていった迷彩柄の二〇両編成の列車は走り去っていった。恐らく野盗討伐の為なのだろう、増結した二両のコンテナ貨車にはオートマトン格納用のコンテナが積まれていた。
「…ふっ」
昔を思い出し、あんな化け物相手に果敢に挑んだ野盗に哀悼の意を示す。
まさか思うまい。弱みを握られていたはずの自分が、逆に弱みを握っていたと言うのだから。
後の調査で、装甲列車に襲撃した部隊は後にサブラニエの支援を受けていたことが分かった。
装甲列車の与える心理的な恐ろしさと言うのは身に染みてわかる。逆に後ろを装甲列車で守られていると言うのは恐ろしいほど士気を高める。
155mm砲の砲撃とレーザーの攻撃は動く要塞に相応しい能力を有していた。
そして本来は補機が必要であるはずのこの碓井峠区間を、補機なしのノンストップ運行を成し遂げた時点で、あの機関車は何らかの改造を受けているのだろうかと推測を軽くしてしまう。
「特別列車か…」
ジェロームはそこで装甲列車が通過した後に、本来の列車である高速列車が進入して来る。
ここが始発駅なので、多くの乗客が列車を見て待合室から移動を始める。
「ふぅ…」
国鉄級旅客鉄道会社の特徴である動力分散方式の列車は戦後、一気に車両統一のために大量発注を行なっていた。
『ルプシアル国鉄ロッソ・ルプシア24号。アルバニー経由、春米行きは、間も無く出発致します』
車両に乗り込み、席に座ったジェロームは早速駅弁の封を切った。
「おぉ…」
陶器の窯の中には鶏肉・ごぼう・椎茸・筍・うずらの卵・栗・杏子・グリンピースが敷き詰められ、その下には薄口醤油の出汁で炊かれた炊き込みご飯が入っていた。
「いただきます」
早速割り箸を割ってジェロームは駅弁を食べる。
車内にはジェロームと同じく、釜めしを食べる乗客が多く、皆が皆満足げな表情をたちまち見せる。
こういう駅弁の文化だけはどうか廃れないでほしいと願うジェロームだった。




