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第112話 幻想と希望

 ゲミュートの千紫万紅せんしばんこうはマリシャスの体を真っ二つにする。

 しかし、ゲミュートは何か違和感を覚えていた。


「―――ッ!!斬った感触がない……!!」


「そうよ」


 ねっとりした声がゲミュートの耳に届く。

 その声は意外にも至近距離からだった。

 ゲミュートはマリシャスの妖艶な声に一瞬迷った。

 しかし、ゲミュートは剣をマリシャスの声がした自分の真後ろの方向に刃を向け、ぶった斬る。

 その剣はマリシャスではなく空を裂いた。


「……っ!?」


 そして、気付くと先程真っ二つにしたはずのマリシャスの死体が消えていた。

 次の瞬間、「フフフ」という不気味な笑い声が四方八方から聞こえてきた。

 一体ではない。

 それは、無数に居たのだ。

 霧のようなモヤの中から無数のマリシャスの姿が現れた。


 ―――絶望。


 一体でもかなり厄介なのにそれが無数に存在する。


「な、なぜだっ!?」


 ゲミュートは思わずそう口にしてしまった。


「気づいてないの?」


 無数体のマリシャスがそう同じことを言ったのでゲミュートには二重あるいは三重などと重複して聞こえてくる。

 その声はとても不気味かつ不可思議な現象のようだ。

 そして、「気づいてないの?」というマリシャスのセリフで一つの疑惑がゲミュートの頭をよぎる。

 それは、ゲミュート自身での確証はない。しかし、そう考えざるを得なかった。

 限りなく究極に近いその回答は、すでにゲミュートは『夢』を食らっているということなのだ。


「信じたくありませんね…」


 既に、何分たっただろうか…ゲミュートの頭はそれでいっぱいだ。

 ゲミュートはマリシャスの『夢』にやられる複数の兵士ですでに『時間が関係する』という一つのデータを得ている。

 もし、仮に45分が経過していたのだとしていたら既にそれは、死を宣告するタイムリミットでしかない。

 残りの15分あるいは1分か。

 その瞬間、ゲミュートは脱出について吟味する。


 一つ、『夢』の中ではマリシャスに対してダメージを与えられない。

 二つ、中から解除することはできない。


 ―――詰みか。


 ゲミュートがそう思った時だった―――


「大丈夫か?」


 ゲミュートはその声の主を探ろうと顔を上げた。

 そこにいたのは漆黒のロングコートに白髪の頭をした男だった。


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