第104話 冒涜
「はーい!」
インターフォンが鳴り、私は玄関へと向かう。
「お久しぶりね」
「お久しぶりです」
今日家を訪ねて来たのはエリスさんだ。
その横には少し目の細い、胸の大きな女性(初対面だけど、多分この人がミノータさんだろう)。
それと――
その後ろには超絶イケメンがいた。
「……」
並のアイドルなんて裸足で逃げ出してしまいそうな程の美貌。
その姿に私は思わず見惚れてしまう。
「初めまして、気高き翼ギルドのアーサー・エクスルーラーです」
「おお、完璧に見とれてる感じっすね。アーサーは見た目がいいから、気持ちは分からなくないっすけど」
「あ、い、いや、そう言う訳じゃ……」
図星を差され、思わずしどろもどろになってしまう。
ミノータさんは細い目をしてるんだから、余計な事には気付かないで欲しい物である。
「ミノータ。そう言う余計な茶々は止めなさい。あたし達は今日、お礼を言いに来たんだから」
「う……申し訳ないっす」
「い、いえ。気にしないでください」
SSSランクダンジョン『タワーディフェンス』に参加する為、ギルド気高き翼は日本へとやって来ていた。
攻略自体は来週なのだが、色々調整などもあって、彼女達は1週間早く来日している感じだ。
そして今日、彼女達がわざわざ私の家に尋ねて来たのは、アルティメットスキル【聖なる戦乙女の守護】の事でお礼を言う為である。
「ミス憂。貴方には感謝しても仕切れない」
アーサーさんが光り輝かんばかりの笑顔でそう言って来る。
普通は比喩表現なんだけど、彼の場合冗談抜きで輝いて見えてしまう。
やっぱ真のイケメンは凄いわ。
「貴方のお陰でピナー様がSSSランクに成長できました。本当にありがとうございます」
アーサーさんが横に動くと、その背後からヴェールを被ったシスターっぽい小柄なお年寄りの女性が姿を現し私に頭を下げる。
「ありがとうね。お嬢ちゃん」
「ああ、いえ。そんなお気になさらないでください」
彼女の名はピナー・アルトリウス。
世界に異変が始まった初期に覚醒した、世界最高齢の攻略者。
年齢は90歳を超えてるらしいけど未だに現役だそうで。
しかも最近私のヴァルキリーの効果もあってか、SSランクの壁を越えてSSSランクに至ったそうだ。
「立ち話もなんですし、どうぞ中に入って下さい。ちょっと手狭かもしれませんが」
エリスさん達に家の中へ入って貰う。
来るのが分かってたので、直前に掃除はばっちりだ。
最近ぴよちゃんが成長期なのか、抜け毛が酷いからこまめに掃除しないと羽だらけになっちゃうのよね。
ほんと困っちゃう。
「おお!ぴよちゃん少し大きくなったっすか!?」
「ほんとだわ。それに前よりスリムになってる」
エリスさんとミノータさんが、少し様変わりしたぴよちゃんの姿に驚いた。
まあそれも無理はないわね。
以前は完全にボールみたいな見た目をしてたのに、今は少し大きくなって鳥とボールの中間っぽいふんわり系フォルムに変わってるんだもの。
「ふふふ、女子三日坊主じゃい!」
「ぴよちゃん。それを言うなら男子三日あわざらばよ」
女子三日坊主だと、ただの怠け者の残念な女の子である。
成長とは対極もいい所だ。
「そうそう、それじゃ。まあよい!よくぞ来た!ならば捧げよ!!」
(訳:マヨネーズ寄越せ)
「ぴよちゃん……」
尋ねて来たお客さんに早々に自分の欲求をぶつけるとか、本当に厚かましい子である。
「ふふふ、ちゃんと持ってきたわよ」
「あ、ちょっと待て!まさかこの前の冒涜品ではなかろうな!」
エリスさんが鞄からマヨネーズを取り出そうとすると、ぴよちゃんがストップをかけた。
どうやら前持って来てくれたイギリス産じゃないかと警戒した様だ。
美味しくはないけど、妥協しないから食べないって宣言してたし。
しかし冒涜って……
「安心しなさい。同じ轍は踏まないわよ。ちゃんと日本について買って来たから」
「ならば良し!さあプリーズ!」
取りあえず……ぴよちゃんがエリスさんからマヨネーズを貰ってる間に、私は振舞うお茶の用意を進めるのだった。
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