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二度目の明日  作者: 霧雨 けいね
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2頁 サヨナラを言いに

「ゆき」

 パブの2階で嘆息と、貧乏ゆすりをすること2時間が過ぎた。張り詰める力も残ってない空気は疲れと、落胆に満ちていた。

「アイザック、トイレなら角にもあるぞ」

「今夜、決着をつけるしかない」

息を切らして部屋に入ってきたと思えば何を言い出すのやら。

「なあ、せめてレフが起きてからにしないか」

「さっき下にあった新聞読んできた。今夜、7時にユダヤ人が中心のレジスタンスが行動起こす。行くならそれしかないだろ」

 トランクの中から薬莢を取り出す。2ダース半、十分とは言い難い。ウラジミールとセルゲイが持つとして、

「あー、俺のには3発残ってる。あとはお前らで分ければいいだろう」

 慌ただしく身支度を整える。軍服を脱ぎ捨て、古着屋で買ったものに着替える。脱いだ軍服は全てベッドの下にしまっておいた。下手に処分しようとするよりも、こちらの方がばれずらいだろう。3時を回ってから勢いを増した雪は、全てにおいて消極的にさせた。しかし、ろくに金も持っていない以上薄着でもどうこう言うわけにはいかなかった。

 そうこうしているうちに下では、

「特殊警察だ。先ほどソ連の兵士が入店したと聞いたが」

「ええ、2階の向かって左の部屋の5人組です。出来れば穏便に」

「善処する」

「マズイな、警察が出向いてきた。長剣はアイザックのコートにしまっていけ」

「どうする、このまま出ると人数でバレかねないぞ」

「先に俺とアイザック、レフが出る。少ししてデニスとセルゲイは航空帽とコートのフードか何かで顔を隠しながら出てこい。向かいの部屋は誰も誰もいないみたいだから、そっちで待機していろ。大丈夫そうなら、咳を一つする」

「わかった」

 何食わぬ顔で3人が部屋を出る。

「ソ連の軍服を着た5人組を見なかったか?」

「いえ、寒い中ご苦労様です」

アイザックが適当に流し、通り過ぎる。階段を下りながら咳をしたのが聞こえると僕たちも部屋を出る。

 しかし、警官に話しかけられてしまった。僕たちはドイツ語はさっぱりなのだ。声を低くして、濁すように曖昧な声を出し、脇を抜けようとする。だが、肩を掴まれ引き留められた。こうなった以上仕方ない。肩を握る手を背後からセルゲイが自然に抑える。不審に思い警察が手を引っ込めようとするところへ、さっき磨いたばかりの軍用ナイフでこめかみを一突きした。断末魔もあげる間もなく絶命し、倒れそうになるところをしっかりと支えそのまま部屋に置き去る。階段を降りる前に、警官の制服でナイフの血を拭い、ベルトに携える。そのままオーナに顔を見られないように出て、外で待っていた3人と合流する。

「いやあ、危なかった」

「冷静だな」

「そんなことないさ、今でも緊張と興奮でガタガタさ」

「にしても運気がこっちを向き始めたな」

第一関門を突破した興奮と、してやったりという喜びで笑いだす。が、目の前に6人の特殊警察が待ち構えていた。銃口をこちらへ向ける。言葉を交わさずともその危機感に僕らは腕を挙げた。ウラジミールを除いては。

 ウラジミールが一片の迷いもなく、こちらを脅した警官の一人を射殺した。それに圧倒されたのは何もあちらだけではない。そのまま、もう一人の警官の手の甲を打ち抜く。そこでようやく僕らが我に返る。警官達が腰の獲物に手をかけるより早く、腰の得物を投擲する。それらは、怯ませるのには十分な効果だった。一っ跳びで詰め寄り、各々羽交い絞めにする。

 戦意喪失に至らせた後、銃器を奪う。

「これで、少しはマシになったな」

「いやー、昨日までは売国 隠遁生活を送ろうとしていたとは、考えられないよ」

「まったく、少なくともさっきの件を潜り抜けたおかげで自信が出てきたよ」

「でも、こっちが5人だってのにそれより少ない人数で来るはずがないってことぐらい予想しておくべきだったな」

「しかしこれでますます、戦果を挙げなければ、国にも帰れず、居場所は狭まるばかりだな」

「まあ、明日のことは明日の自分に任せるとしても、明日の自分を見出してやらないことには始まらないな」

同日19時 決行の刻

 ナチスドイツ国会に向けて裏路地を駆け抜ける。厚着をしていないからかえって身軽で走りやすい。館で半マイルもないとなったところで、警察車両に出くわした。道は狭く、正面突破は不可能。即座に身を翻し、完璧な連携で屋根に昇る。そのまま、屋上を家から家へ飛び移る。追って、回り込んで登ってきた警官3名にすぐさま発砲し直進する。2,3分後、空にまるで教会の鐘の様な航空機が現れる。

「ウェディングベルにしちゃあ、地味すぎないか?」

機関銃をこちらへ向ける。

「いや、それどころかダイイングベルみたいだぜ」

いうや否や、路地へ飛び降りる。直後、屋根を機銃掃射で吹き飛ばす。

屋根の陰に入るように、全力疾走をする。それを追って、空飛ぶ鐘も来る。

「凄い風だ。全部あれが出してると思うと、ぞっとする馬力だな」

建物の陰に入り、なおかつ外灯も大して無い路地なため、僕たちの姿をとらえようと地表へどんどんと接近してくる。そこで、ウラジミールの出したサインに従い、直角に右折する。引き寄せられた浮遊物は家屋にぶつかり、そのまま地表に叩きつけられて大破した。

「恐ろしいほどに順調だな。けど、いよいよ本番だ」

政府官邸前、レジスタンス軍は突入を始めていた。もう大分酷い有様だ。混戦模様をうかかがって隙が出来たところを割って入る。氷結した石畳を踏みしめ、官邸の扉の前にいる二人を滑り込みながら、斬りつける。官邸の中は思いのほか機動隊があまりいなかった。3回まで順調に上がる。会議室から2階へ降りる階段へ行く廊下で出くわした兵士3人と混戦になる。

「二手に分かれる。俺とアイザック、セルゲイはこいつらを。デニスとレフは先へ行け」

「わかった。片付き次第来てくれ」

「その頃には終わってるだろうよ」

3人は兵士のクォータースタッフと長剣を打ち合い、道を開く。脇を駆け抜け、いよいよヒトラーの避難している最上階へ。


「バカバカしい。あの程度の暴動を未だ抑えられないのか?構わん有機ヒ素をばら撒け」

「しかし、総統兵士も道ずれになってしまいます。ここはもう少しの御信望を」

大臣のその進言にわなわなと怒りをあらわにする。

「こいつを、殺せ。罪状は国家反逆罪だ」

その言葉になんの疑念も抱かず、兵士の一人が、大臣を突き飛ばす。普段は演説を行うこの展望台は高さ10mを超える。悲痛な叫び声をあげながら落下し、地面に叩きつけられピクリとも動かずに死亡した。

「フンっ、貴重な戦用ヘリコプターも無駄にし、たかだか劣等人種共に何をしている。こんな事をしている場合では、ん?」

鉄の一枚扉は鍵を破壊され、蹴破られる。

「何だ?ここまで攻め入られただと」

2人の男は長剣を引き抜き兵士と戦い始めた。が直ぐに、兵士達は剣術でかなわず切り捨てられてしまう。ヒトラーは怯えた側近から無線機を取り、話しかける。

「奴を出せ。少し早いが、試運転を兼ねて無制御で構わん」

引き裂かれるような音が無線機から聞こえた後、僅か10秒足らずで上空にベル状のヘリコプターが現れる。

「また、あれか?」

いや、そこから、高さにして10m以上であろう上空から何かが飛び下りる。それは音もたてずに眼前に着地し顔を上げる。鮮やかなブロンドの髪の隙間から瞳を覗かせ、ロシア語で、こう言った。

「十年ぶりに、()()の(・)()日が来たんだよぉ」

 あまり良いとは言えない紅い服を着たその女が、何故あんな上空から飛び降りて平気なのか、何故共通の言葉で話せるのか、疑念を抱いたが同時に受け入れられる気もした。

「ベクマン=シチェルビナ 総統命令だ、思いっきりやれ」

女はヒトラーの方を一瞥してからこちらを向き直った。

「デニス、お前には言いたいことが色々あるけれど、これで水に流してあげるよッ」

「お前、何を?」

その瞬間猛スピードで接近してきた。しかし、横からセルゲイが発砲しあえなく防がれる。

「ああ、悪いレフ」

「しっかりしろ、くだらない言葉に気を遣うな」

発砲された女は胸部から血を流し石畳の床の上に転がっている。以外にもあっさり終わったな。あとはヒトラーの首をとるだけ...ん?なんだ、あの余裕。と思った途端

「なっ」

射殺されたと思われた女がレフの脚を掴み、立ち上がりざまに腹部に強烈な左ストレートを加える。驚きの腕力で、そのまま衝撃で展望台の壁にぶつかり気絶してしまった。

「何だ...今の?」

にいっと笑いかける。レフのことが心配だが今はこっちが先だろう。素早い蹴りを首を竦めて、2、3太刀浴びせる。悲鳴と共に、手足が転がる。今度こそ終わっただろう。レフのところへ行こうとすると、切断された腕に足首を掴まれる。

「馬鹿な?」

振りほどき、ステップバックする。

「嘘だろ...」

斬られた手足は生え変わり、弾痕もなく銃創が治っている。

「ああーあ、教えてあげるよ、このマジックを。種明かしは簡単。ナチスドイツ極秘ファイルの一つ。極度の独裁政権もこの研究のため。世界に5つとない奇病、オオカミの驚異的な身体能力、宿主強化型レトロウィルス、それらを配合することで生まれた。超自然的な能力(ちから)を持った()()()()()()() それが...私だァ!!」


消失のこの台詞いいですよね

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