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不断のジャカ  作者: 吉良 善
声を聞くもの
10/92

家族

ポンペスという名の商人を北西にある街ジェルミまで

送り届ける。

背負える程度の荷物も運ぶ。

それが、今回の仕事の内容だった。

商売が繁盛しているようで報酬は良く、

こなすついでに移動ができる。

戦力としては勘定に入らないジャカとヴァッセが

共に行くことを認めてくれたし、食事も提供してくれる。

今のジャカたちにとっては理想的な条件であった。

他に五人の傭兵が付き、ポンペスの部下二人を含めて

十三人での旅路となる。

「王都に行ったとして、本当に黒幕を見つけられるかな」

出発した翌日の午後、林の間を抜ける道を歩きながら

ヴァッセがウォルケンに尋ねた。

捕えようとしてか、亡き者にしようとしてかわからないが、

手の物を差し向けた存在がいる。

ヒルトの言うことが確かならば、

レッドハンドなどというものまでが現れた以上、

国の上層部か軍の関係者の線が濃厚だ。

左遷され一兵卒に等しいウォルケンが、

どうにかできるものなのだろうか。

「わからねえが、向こうが俺らを襲わせたのが

 一度にとどまらないことを考えると

 どこへ逃げても枕を高くはできねえだろう。

 十三年たってからというのも妙だし、

 これはカーンのやり方じゃねえと思う。

 黒幕の正体もだが、俺たち…いや俺か、

 俺が狙われる理由も確かめなきゃならねえ。

 狙いが俺だけだから一人で行くって言っても、

 お前たちは納得しないだろ」

「当たり前だ!

 一人でなんて行かせられないし、俺たちだって

 家を失わされたんだから当事者だよ。

 なあ、ジャカ」

「そ、そうだね。

 みんなで行けば何とかなるよ…

 きっと…

 多分…

 もしかしたら…」

ヴァッセとジャカの言葉を聞き、グレイとゼップは

にやりと笑った。

「二人もいつまでも子供じゃありませんよ。

 自分のことは自分で決められます…

 いや、ジャカはそうでもないか」

「ウォルケンさんは親代わりですから。

 こいつらにとってだけじゃありませんよォ、

 オレたちにとってもです」

「…ジャカとヴァッセはともかく、

 お前らの親代わりはおかしいだろ。

 何で自分とほぼ同世代の息子を二人も抱え込まなきゃならねえんだ」

いつまた追手が現れるかわからない。

そんな状況にありながらも、ジャカは温かい気持ちに満たされていた。

五人が皆、自分たちは家族同然であるという心を共有している。

互いが、互いを思いやっている。

父と母は、無念であったと思う。

謎の男が現れた時、おそらく父は抵抗し、

母は幼いミリウを逃がそうとしたと同時にジャカの存在を知らせぬために、

命の危険が迫る中で判断をしてジャカの名は口にしなかった。

そして、共に倒れた。

さぞ、一人生き残った息子を天から案じてくれていたことだろう。

しかし、今のジャカの姿を見れば、安らかに眠ることができるはずだ。

彼を守り、育て、包む新たな家族が、息子にはある。

「皆、止まれ」

その時、ウォルケンの鋭い声が辺りに響いた。





一行は立ち止まり、ウォルケン、グレイと傭兵たちが

荷物を置き前に出て、ゼップは後方についた。

しばしの間があって、前方の林の中から戦士とおぼしき者たちが

姿を現した。

二十数人という数だった。

中でも、先頭にいる槍を持った男は明らかに格が違う。

大柄な体躯に不敵な表情、そして地毛か染めたものか不明だが

緑の毛を短く刈り込み、模様を描かせている。

その男が、戦士たちを従えて道を塞ぐように前に立った。

「挟み撃ちにしようと思ったんだが、勘がいいな。

 フリード・ウォルケン」

「待ち伏せを受けるとは、俺もずいぶん出世したもんだ。

 名うての戦士と見たが、お前の名は?」

「オレはエレト・ガラテア。

 傭兵業界隈じゃ少しは知られた男だ」

槍を地面にどん、と突き立てて言うガラテア。

まだ若いだろう。

二十代半ばというところで、顔には野心がありありと浮かんでいる。

ウォルケンの後ろにいたジャカは、多くの戦士よりも

ガラテア一人の方が恐ろしく感じられた。

「なぜ俺たちがここを通ることがわかった?」

ウォルケンが問うと、ガラテアはふん、と鼻を鳴らして笑い、

肩をすくめた。

「マイラルまでの途中で街道警備隊に会ったろ。

 あの中に一人いたんだよ。

 お偉いさんの息がかかったヤツがさ…

 そんで、マイラルに入ってからのおたくらの動きも

 見張ってたってわけだ」

「!」

「不殺の天使がおたくらを見逃したらしいが…

 フッ、そういうことかな…

 あいつの言ったことは当たっていたか」

「何を言ってるのかわからねえが、お前たちの狙いは俺だろう。

 他には手を出さねえでもらえるか」

「そうはいかねえよ。

 同行者だろうが通りすがりだろうが、

 現場に居合わせた者は消せってのが依頼者の指示だ。

 それに、オレらの狙いはおたくじゃねえ。

 その二人だ」

「!?」

ガラテアが顎で示したのは、ジャカとヴァッセであった。

思わぬことに、二人のみならずウォルケンも驚いて目を丸くした。

この二人が軍に狙われる理由など、あるはずがない。

「こいつらだと?」

「シュネールでのことは聞いただけだが、

 おたくら兵をいきなり張っ倒して逃げたんだろ?

 そん時、ちゃ~んと話を聞いてそいつらを

 おとなしく渡しときゃ良かったんだよ。

 お偉いさんも無理にさらったり昼間に押しかけたりしねえで、

 できるだけ騒ぎにならないように気を遣ったんだと思うぜ…

 まあ、おたくがわざわざガキどもを連れて逃げたことで

 さらにはっきりした。

 お偉いさんはその二人をご所望だ。

 っつうことで、ウォルケン殿にはこの世からご退場いただいて結構」

「二人をどうする」

「さあな。

 生死は問わねえって話だから、

 面倒そうなら諸共にやっちまうが。

 その方が後腐れなくていいかな?

 逆にきくぜ。

 どうだ」

「悪いがその話には乗れねえ。

 ポンペスさん方、巻き込んじまって悪いが

 とにかくこの場を切り抜けねえことにはどうにもならん。

 手を貸してもらうぜ」

剣を抜きながらそう言うと、ウォルケンはジャカとヴァッセに

少しだけ顔を向け小声で話しかけた。

「お前たちは逃げろ、幸いこの辺りは木や茂みが多いから

 隠れるのもいい。

 ポンペスさんにもそう言え」

「でも…」

「俺たちも戦う!」

「馬鹿言うな。

 お前たちじゃ足手まといだ」

「けど、あんな大人数が相手じゃ…」

「親ってのはな。

 子供のためなら命張れるもんだぜ。

 かっこいいだろ」

ウォルケンは、危機の中にあるとは思えないような

穏やかな微笑みを見せた。

ジャカは、ルフィカでのことを思い出す。

親は、子供のためなら命を張れるもの…

「わかったら行くんだ。

 ウォルケンさんも俺たちも、全力で戦えないだろ」

二人を、グレイが後ろへと押す。

ためらっていると、後方に敵がいないと判断して

前に出て来たゼップがさらに押しやった。

「忘れねえでもらいたいが、一応オレたちは

 腕利きとしてちっとは知られていたんだからな。

 あんな連中瞬殺してやるってえの、

 さっさと行け」

なおもジャカが迷っていると、ヴァッセがその腕を掴んだ。

「行こう、ジャカ」

「ヴァッセ…」

「俺たちがいると、守らなきゃいけないから

 邪魔になるんだよ。

 早くここを離れるんだ」

「わ、わかった」

ヴァッセは戦う力を持たないポンペスとその部下にも

逃げるように言い、ジャカの腕を引っ張って後方へと駆け出した。

その頃には、ウォルケンたちとガラテアらの戦闘が始まっていた。

ガラテアは数人の手下にジャカたちを追うように指示したが、

ウォルケンらの豪快な暴れっぷりがそれを阻んだ。

ヴァッセは、振り返ることなく走る。

ジャカは、何度も振り返る。

やがて、戦う者たちが黒い影のように映るくらいの所まで来た時、 

すでに何人もが地に倒れていた。

そして、誰かがあるいは剣で首を刎ねられ、

あるいは槍で貫かれるのが見えた。

その中に、自分の新たな家族たちの姿もあったように思った。

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