第80話 いいなぁ
とりあえず、ダツサラやしのぽんのダンジョン関連の動画を見てみた。
だが、以前自衛隊のおっさんの背後から覗き見た時のと似たような事をしている動画と、ひたすらに魔物を倒してどれだけレベルが上げられるかや、クラスを選んだ際に得たスキルを披露したりする動画しかまだなく、ダンジョンを創る上で参考にはならなそうだ。
動画を作るのにどれだけ時間がかかるか知らないが、字幕やBGMとか入れてたりするので、最短でも丸一日はかかってるんじゃないか?
まだリニューアルした3階層をお披露目してから、数日も経っていないから、動画の数が少ないのは仕方がないかもしれないな。
「ダツサラやしのぽん以外に誰か面白そうなのは……」
そう呟きながら他のおすすめ動画を確認していくと、スクロールしていく指が、ふとあるサムネイルの前で止まった。
タイトルは──
〝【初見攻略】罠もギミックも全部楽しむ! ダンジョンで全力で遊んでみた〟
サムネには明るい笑顔の女性冒険者が、宝箱の前でピースしている姿。
背景にはカラフルな魔法陣やスライムが跳ねている。
「……いや、こんな魔法陣やスライムはないんだが」
そもそも魔法陣は蛍光灯の光みたいな昼白色で、スライムは基本透明なんだが、まあそれはいいか。
それよりも他の動画が〝戦闘〟や〝効率〟ばかりを推している中で、この動画だけは明らかに〝遊び心〟を前面に出してるな。
気になってタップすると、軽快なBGMとともに動画が始まる。
『やっほー! 今日はね、最近できたばっかりのダンジョンに遊びに来たよ!
ここ、魔物や罠があってめちゃくちゃ面白いって噂なんだよね!』
2階層は訓練所であって、遊び場じゃないが?
確かに最近だとアスレチック感覚で来る奴の方が多いんだが……。
画面が切り替わり、冒険者が落とし穴に落ちていく映像が映し出された。
『ちょっ、きゃあ!? あ〜ビックリした!』
いや、落ちるな。
本来のダンジョンなら落とし穴の底に槍とか仕込まれてて、下手すりゃ死んでるぞ。
訓練目的だからクッションが敷き詰めてあって無傷なだけなんだぞ?
続いて、他の罠や出てきたスライムを指で突いてる画が流れていく。
「……楽しそうにしてるな」
思わず口から漏れた。
見てると、自分も2階層で探索したくなるような気分にさせられそうな動画だった。
動画は最後に、俺が極たまに仕込んでいた宝箱を見つけ、満面の笑みを浮かべる冒険者で締めくくられた。
『いや〜、ここはまた来たい!
みんなもぜひ遊びに行ってみてね!』
「……こういう方向性もアリか?」
2階層をもっとアスレチック寄りにして、3階層との差別化を図る……いや、微妙か?
ちょっと思考が迷走しだしたかな。
人寄せにはいいかもしれないが、負の感情を回収するにはいまいちな気がするから微妙なところだ。
お化け屋敷風にすればいけるかもしれんが、一応2階層が訓練所であることを考えると、あまり変な方向性には走れないんだよな。
「ん? いや、この動画はダンジョンを紹介する上でどうなんだ?」
おすすめ欄にさらに気になる動画が表示されていたが、その内容があまりにも変で首を思わず傾げていた。
〝【検証】ダンジョンの酒場で、一日過ごすのにいくつ魔石がいるのかやってみた〟
「ダンジョン帰りに一杯とかなら分かるが、そんな入り浸るような場所じゃないんだよなぁ」
〝酒場〟が魔石を対価にその魔石の価値に応じたお酒一杯分と交換できる場所ではあるので、使い方の説明をしてくれてると思えばこの動画もアリと言えばアリなんだが、ダンジョンの紹介という意味では創った側からしたら釈然としない気持ちにはなる。
「だが、これも俺のダンジョンの楽しみ方の1つか」
こういった動画で1人でも多くの人間が俺のダンジョンに興味を持って来てくれれば、負の感情エネルギーの回収もはかどるというもの。
さて、他にはどんな動画があるかな?
そうしておすすめ動画を見て気になったものをチェックし続け、結局その日一日はダラダラと動画を見るだけで終わってしまった。
参考にはなったが、時間を有意義に使えなかった事に罪悪感や無力感を感じるなぁ……。
動画は時間を決めて見ないといけないと強く実感した。
◆
≪中原茉奈SIDE≫
「いいなぁ」
わたしはスマホで動画を見ながら、ポツリと独り言をこぼした。
ほとんど動かないまま病院のベッドに横になっていたせいで、膝がじんわりと重い。
今日はいつもより悪い日だ。
朝から関節が熱を持っていて、歩くとズキッと痛むから車椅子のまま過ごしている。
若年性特発性関節炎。
小学2年生の頃から中学生になった今でもずっと続いている病気。
この病気のせいでわたしは満足に走ることができず、酷い時には1~2カ月病院に入院することになったりする。
そんなわたしとは対照的に、画面の中では元気いっぱいの冒険者のお姉さんが、落とし穴に落ちて笑ってスライムをつついてはしゃいでいる。
「……いいなぁ、こういうの」
胸の奥が、少しだけきゅっと縮んだ。
わたしだって本当はこんなふうに走り回りたい。
体育の授業で全力疾走したり、友達とはしゃぎ回ったり、階段を駆け上がったり──そんな当たり前のことが、わたしにはできない。
病院の白い天井を見上げるたびに、「またここか」と思ってしまう。
退院してもしばらくするとまた関節が腫れて戻ってくる。
薬が効いてる時は普通に歩けるのに、効かなくなると立ち上がるだけで涙が出るほど痛い。
その繰り返し。
わたしの現実はつまらない。
だから異世界ものや魔法が使える現代ものの小説が好きになった。
ページをめくれば、痛みなんて関係なくどこにでも行ける。
魔法で治せる世界ならわたしも走れるのに。
「……ダンジョン、行ってみたいなぁ」
現実に現れた本物のダンジョン。
動画で見るたびにダンジョンに行きたい気持ちが溢れてくる。
「ホント、いいなぁ」




