第124話 試練終了直後
≪中原茉奈SIDE≫
「魔物が消えた!?」
突然見渡す範囲の全ての魔物が突然いなくなって驚いていたら、すぐに天の声が頭に響いてきた。
『試練は終わりだ。
此度は特例により壊れた建造物等の復元が行われるが、次はない』
その声とともに、破損していた建物や車などが淡い光に包まれ、光が霧散した後には無傷の状態で現れた。
「うわっ、本当に直ってる!?」
以前のような日常に戻るためには、どれだけの日数がかかるか分からないほど荒れ果てていた街が一瞬で元通りになっていることに、わたしや周囲の人達は驚き騒いでしまった。
さっきまではこんな風に騒いでいたら魔物から奇襲を受けることもあったのに、今はそんな事はなく、周囲からは人の声だけで戦闘音が一切しないので、本当に試練とか言っていたのは終わったんだね。
「やったー! スマホもいつも通り使えるようになった!」
「壊れてる物が戻ってるってことは、まだローンが20年残ってる我が家も戻ってるってことだよな!」
「はい、もしもし。え、壊れた設備が戻ったから今から出社して仕事しろ? マジですか……」
一部暗い表情の人もいるけど、おそらく身内や友人が被害にあったのかもしれない。
こちらに背中を向けてトボトボと歩きだしたその後ろ姿には悲しみを感じるよ。
「壊れた物は戻ったって話だけど、人に関しては何も言わなかったね」
さすがに死んだ人までは何もしてくれないのかな?
わたしが夕莉さんと詩織さんに少しだけ含みを持たせてそう言うと、夕莉さんはそっと自分の腕をさすった
「でも、怪我した箇所は治ってましたわ。腕に軽い擦り傷があったはずなのですけど、綺麗になってますもの」
「た、確かにそうだけど、身体が急に重くなる感じがしたから、アバターから生身になっただけじゃないかな?」
詩織さんの言う通りだった。
魔物がいなくなったあと、ママとパパのいる避難所に戻ったんだけど、そこでは傷が治っている人と、治らず残っている人がいたみたい。
軽い怪我を治さずにいたのは、マスターさんがくれたと思われる〝ポーション(弱)〟は、戦っている人を優先することになっていたから。
もっとも、その人達も〝ポーション(弱)〟を節約する必要がなくなったから、それで傷を治せていたけどね。
でも、傷が治っていた人にはある共通点があって、それは一度でも魔物を倒したことがあるということだった。
ダンジョンの外でもジョブの力を使う事ができたし、試練が始まった瞬間からアバターに切り替わっていたんだろう。
生身にジョブの力を得たんじゃなかったということだね。
試練が始まった後、初めて魔物を倒した人もアバターに切り替わったから、怪我をしている人が少なくて済んだんだ。
「他の地域で死体が消え、本人が出現したという情報がSNSにあがってるみたいですわ。嘘情報を疑いましたけど、似たような情報がいくつもあがってますから本当みたいですわね」
「た、多分、ダンジョンで一度死亡してもその場で復活するルールが適用されてたんだろうね。
本来なら死んだらすぐに復活するけど、試練の最中だったから特殊なルールで試練後に復活するようになっていたのかも」
「どんなルールでも問題ないよ! 生き返ったのならいいことじゃん!」
わたし達の住んでる地域じゃ死者は少なく、しかも到底魔物と戦えそうにないお年寄りしか犠牲になっていないので、生き返った云々の実感はまるでないけど。
「ですが死者の多かった地域では生き返った人間はかなり少ないらしいですわ。そのため、ダンジョンに対する恨み辛みを吐いているとか」
「せ、せめて魔物を一度でも倒したら生き返れるって、前もって教えられてたらよかったのにね」
確かにそれならダンジョンマスターへの恨みは少しは軽減されただろうけど、多分こちらに伝えるのは無理だったんだろうな。
試練が始まる数日前、マスターさんがこちらに何かを伝えようとしてたけど、何を言っているのかさっぱり分からなかった。
おそらくマスターさんの方でも強制的に情報規制させられたんだと思う。
そんな人間に味方しようと動いてくれたマスターさんだけど、人によってはそのマスターさんにすら恨み言を言っているのだから、坊主憎けりゃ袈裟まで憎いとはよく言ったものだね。
マスターさんが大量に提供してくれた〝ポーション(弱)〟を他の地域にも配ったというのに、そんな態度はあんまりだと思うけど。
そんなふうに思ってることを2人に話すと、2人は頷いてわたしに同意してくれた。
「私達の地域にあるナオト(仮)のダンジョンはダンジョンコアを破壊すると罰則がありますし、今回の件で被害は他よりも少なかったですから、ダンジョンコアが破壊されることはないでしょうが、しばらくは非難の声はありそうですわね」
「マ、マスター様は物資の提供をしてくれたけど、その恩恵を受けていない人にとっては関係ないからね。
そのせいで、そのうちダンジョンに恨みを持つ人とダンジョンで遭遇するかもしれないのが嫌だなぁ……」
遭遇するかは分からないけど、唯一会話ができるマスターさんのところに直接来るのは有り得そうだね。
はぁ。気持ちは分かるけど、他のダンジョンのことでマスターさんを責めるのは止めてほしいなぁ。




