第七話 本気だから
「牡丹さん……」
「誰ですか?」
「村長のお孫さんだ」
「これから経営する会社のことを伝えにきたの。
聖くんのところと、ライバル会社になりそうだから。
あたしの会社は農業だけじゃなくて、酪農もする予定よ。
会社名は、ボタンファームっていうから覚えておいてね」
「決まってよかったな」
「経営が破綻しそうになったら、うちの会社を頼っていいから。
あら……。手伝いのおばちゃんが老人ホームに行ってから困っていなかったのは、その若い女の子を雇っていたからなの?」
「はじめまして。瀬戸蒔菜と申します」
深く頭を下げてから、にこっと笑って挨拶をした。
すると、牡丹さんが私の前に立って顔を覗き込んでくる。
「あなた、聖くんのこと狙ってる?」
「はい……?」
「そんなわけないわよね。……だって、あたしが婚約者だもの」
「えっ!?」
驚くとともに嫌な気持ちになった私は口元を両手で隠す。
「違う。牡丹さんと結婚しないと何度も言ってるだろ」
よかった……。婚約したわけではないんだ。
聖さんがはっきりと断ってくれてほっとする。
「何度断られたって諦めないわよ。
あたしと結婚しないと、この土地がどうなるか分かって言ってる?」
「くっ……」
「聖くんの土地を買い取られないように、あたしのパパが味方になってくれているでしょ。
もし、パパが守ってくれなかったら、ここは高速道路の建設予定地になっていた。
恩があるってことを忘れないでよね」
そんな話は聞いたことがなかった。
「守ってもらっていることには感謝している。
でも、結婚の話は別だ」
「一緒よ。この村には、あたしと聖くん以外に若者がいないもの。
山にいたら出会いがないでしょ?
婚期を逃さないように言ってるの」
聖さんは背後に来て、両手を私の肩にのせる。
「若者なら、もうひとりいるぞ。
俺は、蒔菜のことを大切に想っているから」
その言葉が嬉しくて口元が緩んでしまう。
「はあ!? 付き合いが長いのはあたしだっていうのに!?」
牡丹さんは眉根を寄せて腕を組んでいる。
怒らせてしまったようだ。
「本気だから、牡丹さんと結婚するつもりはない」
「時間をあげるから考え直して。
……ねぇ、あなた。どこから来たのか知らないけど、調子に乗らないでくれるかしら」
嫌味を言いながら鋭い視線を私に向けてきた。
でも、聖さんのさっきの言葉のおかげで平然を保っていられる。
「東京から来ました」
「都会からこのど田舎に就職しに来たですって?
不便だし、寒いし、雪がいっぱい降る……。
厳しい場所だから帰ったほうがいいわよ」
「帰りません。私は自然豊かな場所に住みたくて来たんです」
「変わった人ね。
聖くん、この女に騙されてるんじゃない?」




