第五話 ふたりで食事
「もしかして、山菜が苦手か?」
「食べたことがないんです」
私は肉なら何でも食べられる。でも、野菜が苦手だった。
「そうか。今朝、うちの山から採ってきたんだ。
旬のものだから美味しいぞ」
料理に自信があるのか、微かに笑って勧めてくる。
聖さんの笑顔は、爽やかで優しいし、かっこいい。
顔が好みのタイプだから遠慮することができなかった。
「いっ……、いただきます……」
きっと、野菜のように青臭いと思う。
タラの芽の天ぷらを恐る恐る口に入れて、ゆっくりと食べる。
噛んだ瞬間に口の中に独特の味が広がった。そして、目を見開く。
「美味しいっ……!
ほんの少しだけ苦味を感じますけど、独特な香りがあっていいですね」
「醤油も合うけど、塩をかけるともっと旨くなるぞ」
言われたとおりに塩をかけて食べてみる。
しょっぱい味とタラの芽の独特な味がいい感じに混ざり合う。
「確かに会いますね。ご飯と食べるのもいいかもしれません」
次は、わらびが入った炊き込みご飯を口に運ぶ。
「これもいける……!
優しい味の炊き込みご飯ですね。
わらびって苦いイメージでしたけど、ほんのり甘さを感じます」
「口に合うみたいでよかった」
誰かに作ってもらった料理を食べるのは久しぶりだ。
もちろん、誰かと一緒に食事をすることも……。
「こんなに美味しい料理を作れるなんてすごいですね」
「自分で作った料理を褒めれることがなかったから照れるな」
顔を赤くする聖さんを見て私は微笑んだ。
いい人そうで安心した。
「料理の仕事をしているんですか?」
「農家だ。あと、会社も経営している」
「つまり、社長ってことですか!?」
「ああ。畑作業をしながら、この集落に住む農家たちが作った野菜を販売している。
有り難いことに全国から注文の依頼がきてな。
おかげで、田舎に住んでいてもやっていけるんだ」
「野菜の宅配があるっていうのは聞いたことがあります。
料理に使っている野菜も自分で育てたものなんですか?」
「その味噌汁に入っているねぎは俺が育てたものだ」
「ねぎってすごく辛いイメージでしたけど、これは甘みがあって食べやすいですね」
野菜が苦手ということを忘れてしまうくらい聖さんの料理は美味しかった。
薄っすらと湯気が立つ味噌汁を飲むと、何もかも失って傷ついていた心がじわりと温かくなった気がした。
食事を終えたあと、聖さんは布団を敷いてくれて、冷えないように電気ストーブも用意してくれた。
次の日の朝になって、聖さんが車で寝ていたことを知る。
私のことを考えてそうしたんだろう。
もし、助けてもらわなかったら朝を迎えられなかったかもしれない。……聖さんは命の恩人だ。
そして、バスに忘れた財布を取りに行き、無事に帰ることができた。
聖さんとたくさん話をして仲良くなったから、別れる時に少しだけ寂しさを感じた。
ひとりで過ごすようになってからも忘れられなかった。




