第十八話 社長と歓迎
朝ご飯を食べたあと、準備をしているうちに会社に行く時間になる。
会社は聖さんの家から車で二十分くらい掛かるところにあった。
軽トラックには二人しか乗れないから、聖さんが二回送迎することになった。
私は玲司さんの次に送ってもらって会社に行く。
事務所に入ると、玲司さんが机に座って眉を寄せていた。
数枚の紙を眺めてペンをくるくると回している。
「うちの会社って、入社テストがありましたっけ?」
「テストではなくてアルバイト雇用契約書だ」
「誰にも許可を取らないで採用してるけど、あとで怒られたりしないよね?」
「反対する人はいないと思う。俺が社長だからな。
書類を書いたら、事務員の蒔菜に渡してくれ」
「聖って社長だったんだ……」
玲司さんは驚いた顔をしながら大きく瞬きをしていた。
就業時間になってから、聖さんは作業場に従業員を集めた。
うちの会社では、新人が入るたびに集会を開いて紹介する。
十人の高齢の女性と男性の前に聖さんと玲司さんが立つ。
「こちらの方は、今日からアルバイトとして働くことになった風間玲司さん。
やる気があって、体力もある人です。
これから共に働く仲間として温かく迎えていただけたらと思っています」
確かに、イノシシから走って逃げることができたのだから体力があるんだろう。
聖さんが紹介したあと、玲司さんが一礼して挨拶をする。
「道の駅を放浪して、ご迷惑をかけてすみませんでした。
皆さんの力になれるように努めますのでよろしくお願います」
従業員たちは笑顔で大きな拍手を送った。私も同じように手を叩く。
「若い人が入ってきて嬉しいわ」
「頼りになりそうだね」
「分からなかったら、おじちゃんたちになんでも聞きな」
早速、玲司さんに向けて温かい声が飛び交う。
私が入社した時もこんな風に迎えてもらったから懐かしくなる。
玲司さんは目を丸くして信じられないような顔をしていたけど、うちの会社が明るいのはいつものことだ。
挨拶が終わったあと、私が玲司さんに仕事を教えることになった。
「ここにある野菜をダンボールに詰めるんです。
傷をつけないように丁寧に扱ってくださいね」
簡単に説明してから手本を見せる。
ダンボールを組み立ててから、ビニールで梱包された数種類の野菜を詰めた。
「楽な仕事だね。任せてよ」
玲司さんは自信満々に言ってから、野菜を次々と入れていく。
「あれ……。蒔菜ちゃんがやったみたいにダンボールが閉まらない」
「順番があるんですよ。
あと、小松菜の上にじゃがいもを置くと潰れてしまいます。
重たい野菜を下に、軽い野菜を上に置いてください」
「分かった。やってみるよ。
それにしても、立派な野菜ばかりだね。山菜まである」
「すごいですよね。この限界集落には、美味しい野菜を作る達人が沢山いるんですよ」
「知らなかった……。
聖の作った料理が美味しかったのは、野菜を大事に育てた農家さんのおかげでもあるのか。
ん……? この小松菜のラベルに聖の名前が書いてあるけど」
「それは聖さんと私が育てた小松菜です。
甘くて青臭さが少ないって聞きますね」
「他人事みたいに言うね。
蒔菜ちゃんも食べたことがあるんじゃない?」
「小松菜は苦手なので食べたことがなくて……」
「せっかく夫とふたりで育てたんだから、一口だけでも食べてみなよ」
「夫じゃなくて彼氏です」
「ふたりとも楽しそうに話をしているな」




