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第十五話 放浪する男

 軽トラックから降りて聖さんについていく。


 放浪していると噂されていた男は、道の駅の建物の前に座って胡坐(あぐら)をかいていた。


 見た感じ、二十代~三十代前半の人だろうか。


 襟足まで伸びた黒い髪、柄の主張が強いシャツを着ていて、左の耳にはピアスをしている。


 男は絶望してるように肩を下ろしていて、がくんと首を曲げていた。


「なぜこんな時間に道の駅にいるんだ」


 腕を組んだ聖さんは冷たい口調で話し掛ける。


 すると、男はゆっくりと顔を上げて、生気のない目を私たちに向けた。



「腹が減りすぎて……、何も考えられない……」


 力のない掠れた声。本当にお腹が空いているんだろう。


「軽トラックに常備している羊羹があります。持ってきますね」


「いつの間に用意していたんだ……」


 持ってきた羊羹を男に差し出すと、「ありがとう」っと言ってから勢いよく食べ始めた。


「美味い……、美味い……! 生き返る……!」


 どれだけの時間食べていなかったんだろう。


 たった数分で二十個の羊羹をぺろりと平らげた。


 食べたあと、男は私を見て深く頭を下げる。


「あなたはオレにとって女神様だ。

 拾う神がいるって本当なんだなと思ったよ」


 元気を取り戻したのか、男の表情と声が明るくなっている。


「じゃあ、俺は捨てる神になるか。

 帰るぞ、蒔菜」


「女神様の名前は蒔菜っていうんだね。

 しっかりと覚えておくよ」


 聖さんはむすっとした顔をして、男に背を向けて歩き始める。


「ちょっと待ってください。

 彼をこのまま放っておくのは危険です。

 とりあえず、話だけでも聞きませんか?」


「確かに危険だな。蒔菜に変な虫が近づいたら大変だ」


「もしかして、その虫はオレのこと?」


 そういう意味ではなくて、クマやイノシシと遭遇したら危ないと言いたかっただけだ。



「一昨日からこの辺で放浪していると村の人から聞たんですけど、なぜそうしているんですか?」


「叔母さんの家に行く予定だったんだ。

 でも、訪ねたら売地になっていて……。

 長年連絡を取っていなかったから、引っ越したことに気づかなかったよ」


 この限界集落では空き家が増えている。


 すぐに買い物に行ける便利な街に引っ越したり、老人ホームに行ったり、家の跡継ぎがいなかったり、理由は様々だ。


 久しぶりに近くの道を通ったら、家や土地が売りに出されていたとかよくあることだった。



「諦めて帰ろうとした時、イノシシに追いかけられてね。

 全力で走っていたら、肩に掛けていたバッグを落としてしまったんだ。

 逃げ切ったあとに残っていたものは、背負っていたこれだけ」


 男が片手に持って見せたのはウクレレだった。


「家なし、車なし。そして、彼女と金なし!

 いやあ、すべてを失ったよ」


「誇って言うようなことではないな」


「さっきから冷たいことを言うね。

 蒔菜ちゃん、この人、ドライだと思わない?」


「彼は遠野聖(とおのひじり)さん。ドライじゃなくてクールなんですよ」


「聖っていうんだね。

 オレは、風間玲司(かざまれいじ)。よろしく!」


 玲司さんは、ウクレレを弾いてポロロンっと明るい音を鳴らす。



「このまま道の駅で野宿するつもりなのか?」


「一刻も早く野宿する生活をやめたいんだけど、金がないからどこにも行けないんだ。

 落としたバッグにスマホを入れていたから、助けてくれる人や行く宛もなくてね」


 似たような状況になったことがあるから共感する。


 呆れた顔をした聖さんは、ふうっと溜め息を吐いた。


「まったく……。困ったやつだ。

 蒔菜、車に乗ってくれ。……帰るぞ」


「えっ……。玲司さんを置いていくんですか?」


「俺の軽トラックには二人しか乗れないだろ」

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