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二百九十五話 陰気臭い像たちでした!?

先ほど拙作の別作品の話を間違って投稿してしまいました……申し訳ございませんでした。

 俺がピッケルを振るうのを横目で見ながら、リシュは顔を青ざめさせていた。


「土と岩が、消えていく? 異空間ってなに?」


 目を丸くするリシュ。


 今となっては大袈裟な反応に感じるが、俺も最初は驚いた。


「インベントリっていうのがあるんだよ。大魔法とは違うけど、すごい力だよな……」


 リシュは恐る恐る俺に尋ねる。


「ノストル山でも、この力を使ったんだよね?」

「ああ。もともと塔に坑道なんてなかったのを、これでつなげたんだ」

「聞いてはいたが、こんな力だとは……」

「地味だけど、俺はとても気に入っているよ」

「とても地味とは言えないと思うけど……」


 リエナとフーレは感慨深そうな顔で首を縦に振る。


「久々に、ヒール様の力に驚く人を見たね」

「見慣れてしまいましたが、普通では考えられない力ですもんね」


 そう話す二人もピッケルを振るい、俺ほどではないが大量の岩を削っていく。


「いや、二人も普通では考えられない力だと思うけど!?」

「従魔には紋章の力を分けられるんだ」

「えっと……リエナさんとフーレさんは本当は魔物だったんだっけ?」

「まあ、詳しくはまた今度説明するよ」

「う、うん。しかしすごい勢いだね」

「ああ。だけど、これだけ掘っても何も反応がない。いや」


 最近は掘ったあとの音の響きを聞き分けられるようになった。おそらくだが、この先に空間があり、そこで音がこだましている。


「どこかに繋がる──っ」


 岩が砕けると、目の前に空間が現れた。


「通路、か」


 繋がった場所は、石造りの通路。取り立てて特徴のない、灰色の石材で組み立てられている。


 俺は通路に降りると、慎重に周囲を確認した。


 フーレが言う。


「前と後ろも遠くまで続いている。一本道の途中に出たみたいだね。松明も何もかけられてないみたいだけど」


 つまりは普段使われていない通路──そうとも感じなかった。


 リエナも異変を察知したのか床を指で撫でて言う。


「埃がほとんどない。外と完全に遮断されていたなら別ですが、定期的に掃除されているようにも見えますね」

「いずれにせよ、警戒は怠らないようにしないと。まずは前か後ろどっちに──」


 俺が言うと、マッパは小さな石を床に何個か落とす。それから、耳に手を当てた。


 音の響きで前後どちらが遠いか広いかなどを調べているのだろう。


 マッパは腕を組んで少し迷った様子を見せたが、やがて後ろを指さした──と思ったら、前方を指さし直した。


 フーレが困ったような顔で言う。


「自信なさげだね?」

「仕方ない。目標が何なのかも分からないんだから」


 俺はそう言って、前に続く通路の先を見つめる。


「別に間違えても引き返せばいい。とりあえずは前を進もう」

「そうしましょう。私は後ろを警戒しながら進みます」


 リエナの声に頷き、俺は前方を進み始めた。


 自分たちの靴音だけが響く通路。やがて前方に響く靴音が返ってくるのが早くなってくる。


 やがて目の前に見えてきたのは、重厚な黄金の扉だった。


「魔力は感じられない──金か」


 オリハルコンやヒヒイロカネではない。マッパも扉を優しく撫でて、こくこくと頷いた。


「こ、これだけの黄金を使った扉──どんなとんでもないものが、この向こうに……」


 リシュは額から汗を流し、身構える。


 とてつもないものが、この先にある。これだけの黄金の扉を見れば、昔の俺もそう感じたことだろう。


 しかし、この扉自体も向こうも魔力の反応がない。大した脅威になるものはなさそうだ。


 フーレが小声で呟く。


「ヒール様、なんか残念そう」

「こら、フーレ。魔力の有る無しが物の価値を決めるのではないですよ」


 リエナの言うとおりだ。

 事実マッパも扉の彫刻を興味深そうに観察していた。


 目を凝らすと、草木や花など、自然を感じさせる意匠が刻まれている。


 複雑な紋章を取り入れた今の煌びやかな王国の様式とは少し異なる気がする。かといって、今まで訪れた地域や地下で見てきたものとも違う。


「ともかく、油断せずに入ろう。何かの仕掛けで魔力が出てくる可能性もある」


 そう言って、俺は扉を押した。


 後ろから空気が扉の向こうに吸い込まれていく。


 扉を完全に押し開けると、そこには広大な空間が広がっていた。


 小さな村がすっぽり収まるような円形の空間。見上げると、ドーム状の天井が見える。床と壁は白い大理石でできているようだった。


「像がこんなにも」


 リエナの言うとおり、空間にはいくつもの黄金の像が立ち並んでいた。


 無造作にではなく、無数の像が何重もの円陣を組んでいるように鎮座している。像はどれも、体と顔を円陣の中央へと向けていた。


 そして、彼らの正面の先、円陣の中央には……


「ひとりだけ、剣を掲げているね」


 フーレの言うように、中央には鎧を着て大剣を高く掲げた大柄の男の像があった。


 リエナは推測するように言う。


「立派な……もしかして、この国の租王の像でしょうか?」


 サンファレスを建国した王。その周囲は、王国の臣民。ここは地下墳墓か何か──そうであれば宮殿の下にいかにもありそうな場所だ。


「あの中央の像を見れば何かわかるかもしれない。何が起こるか分からないから皆、離れないでくれ」


 俺がそういうとリシュは俺の腕を掴む。


「リシュ、そんなに掴まなくても」

「し、仕方ないじゃん。皆にはなんか見えているみたいだけど、私はこの松明の明かりが届くところしか見えないんだよ?」


 俺とリエナたちは【洞窟王】の力で特に問題なく周囲が見える。


 だが、リシュの目には像のひとつが映っているかも怪しい。


「ごめん。ともかく、中央に向かおう」


 そうして俺はリシュと並んで、像の中央へと向かった。


 リエナとフーレは像を観察しながら言う。


「周囲の像、どれも異なっていますね」

「同じような服着てても、顔や髪形、体型も全然違うね……って、あれゴブリンじゃない!?」


 フーレが指さす方向には、確かにゴブリンと思しき像があった。


「ゴブリン!?」


 リシュが怯えるように俺の腕を強く抱き寄せる。


 フーレは慌てて答える。


「あ、ごめん、リシュさん。ゴブリンの像、ね」

「フーレの言う通り……間違いなく、ゴブリンの像ですね。というより、他にも」


 リエナの視線の先には、オークやコボルトなど、他の魔物の像もあった。いや、ドワーフやエルフと思しき像すらある。


「なぜ、こんな場所に魔物の像が……」

「サンファレスって、皆魔物大嫌いなのにね」


 リエナとフーレは首をかしげる。


「昔は、そうでもなかったのかもしれない。とりあえず、中央へいこう」


 そうして俺再び中央の像を目指し歩き始めた。


 マッパは像を叩くと思ったが、意外にも静かに像を眺めながら歩いていた。


 そうして俺たちは中央の像の台座へと到達する。


「精巧な像だが、どことなく質素な感じだな」

「王冠とか、そういうのがないからかな。王というよりは、戦士に見えるね」


 リシュは像をそう評した。


「黄金でできているのは変わらないようですね。しかし、こんな立派な像をこんな地下に閉じ込めておくなんて」


 リエナの言う通り、これほどの像はむしろ見せびらかすのが自然だ。祖王は立派な人物だったと語り継がせることができる。


「初代サンファレス王なのか?」


 実のところ、サンファレスの建国には謎が多いというか、分かっていないことが多い。王都がいつ創建されたかも不明だし、小国時代が長かったことは知られている。それがいつの間にか、優秀な紋章を持つ王族が多数生まれたことで、ここまで超大国にのし上がった。


 もともと、この大陸はバーレオン帝国が初めての統一国家だった。バーレオン大陸という名の由来は、そこから来ている。


 初代サンファレス王も、もともとはバーレオン帝国の一領主に過ぎなかったであろうと歴史家は言っている。もちろん、今の王国でその説を主張すれば不敬罪で死刑だ。


 ともあれ、サンファレスはバーレオンから大陸の覇権を奪い、サンファレスは大陸の覇権国に、そしてバーレオンは小さな公国へと没落した。


 サンファレスと王都が特別だったとすれば、バーレオン大陸の中央にあった、という点か。


 そんなことを考えていると、フーレがあっと声を上げる。突然だったせいか、リシュが肩を震わせ俺の腕をぎゅっと握った。


「今度は何!?」


 その声になぜかニヤニヤしているフーレが答える。


「あ、リシュさん、ごめんごめん。台座のところに文字があってさ。ただ、読めなくて」


 俺はフーレが指さす場所の前へと歩く。


「これは……今のバーレオン文字ではないな。古代バーレオン文字だ」


 今となっては全く使われない。


 しかし、サンファレスを含むバーレオン大大陸全土で現代でも使われるバーレオン文字の祖なので似ている。


 王族や貴族など古代の本を読めるものからすれば、そう解読は難しくない。俺も読める。


 俺とリシュは自然と声を揃えて台座の文字を読み上げる。


「我、世界唯一の守護者にして、唯一の生者になりし者──バーレオン!?」


 台座には、そのように記されていた。

 ほかに文字は見えない。


 フーレは首をかしげる。


「じゃあ、この像はサンファレス王ではないってこと?」

「初代のサンファレス王のお名前が、バーレオンだったのでは?」


 俺は首を横に振る。


「いや、初代サンファレス王の名前はそのままサンファレスだ。これは多くの文献にも記されている。そしてバーレオンの名前を付けるのは、王国でも周辺国でも、今のバーレオン公国でもあまり一般的じゃない。大陸名や文字名だと弄られるからな……」

「では、この像は……」


 俺は首を縦に振る。


「バーレオン帝国の初代皇帝、バーレオンだろう」


 リシュは困惑するような顔を見せる。


「な、なぜ、バーレオン皇帝のものがここに」

「サンファレス王国が成立する前に建てられたのかもしれないな。ここはバーレオン帝国の支配下だったのかもしれない」

「なるほど……でも、確かバーレオンって」

「ああ。バーレオン帝国は最盛期までは、共和制だった。俺たちが帝国とか初代皇帝と呼んでいるだけで、実際は長、ぐらいの立場だったと言われている」


 リエナが思い出すように言う。


「王都に入る際にヒール様がおっしゃってましたが、バーレオン帝国はもともと人と魔物を含む全種族の共生を実現していたのですよね」

「それ、レイラさんも言っていたような? レイラさんもその時代が理想だって」


 俺は頷いて答える。


「その通りだ。今のシェオールや古代のヴェルーアみたいに、多種族がともに暮らしていた。レイラもバーレオンをそんな国に戻したかったんだろう」

「皇帝がいるが共和制……なんだか、今のシェオールそのものですね」


 リエナの声は少し震えているようにも聞こえた。


 偶然の一致か。そしてバーレオンの帝冠と帝笏は、レイラが俺たちに預けている。


 フーレはさらに思い出すように言う。


「というかさ……レイラさんがシェオールに来るときに乗ってきた船の旗」

「バーレオン公国──帝国の旗か? そういえば」


 バーレオンの旗は、赤地に金色の木の紋章。


「金色の木──それが世界樹を表しているとしたら」

「この像の人も、世界樹と関連していたってこと?」


 フーレの言葉に俺は答えられなかった。


 世界樹はかつて、世界中に生えていたのを俺たちは知っている。


 一方のリエナはさらに続ける。


「黄金の薔薇の種子といい、関連性は確かに強そうですね。うん? どうしましたマッパさん?」


 リエナはマッパが近くの像を指さしていることに気が付く。


 ゴブリンの像。その台座にも名前があった。


「ベル、ダン?」


 俺が読み上げると、リエナとフーレは顔を見合わせた。


「ベルダンって、ベルダン? 私たちベルダン族だけど」

「しかも、ゴブリンの像。なんとなくですが、この像の顔、私の父や祖父と顔が似ている気がします」


 リエナは少し声を震わせて言った。


 だがマッパはさらにコボルトらしき像を指さす。その台座の名を俺は読み上げた。


「……ティベリス」


 さらにオークの像を指さすので、読み上げる。


「ゴーフェル……カミュたちコルバス族と同盟を結んでいた陸のオークの部族名だな。と、コルバスもいるのか」


 マッパの指した別のオークの像の台座には、コルバスと記されていた。


 俺は他の像の台座を見る。


「人間のは、今もある国や地域、あるいは消えた国家の名前と同じ名前が記されているな」

「ということは、ここの人や魔物たちは」


 リシュの問いに俺は頷く。


「今のバーレオン大陸の国や部族の祖である可能性が高いな」


 リエナは感慨深そうに言う。


「この像たちを見るに、本当に昔はバーレオンでも人と魔物が手を取り合って生きていたのですね」

「ああ、これはそれを証明する像になるな」


 フーレもしみじみとした顔で言う。


「いいねえ……バリス様がいたら、素晴らしい!! って泣いて大喜びしたかも。だけど」


 フーレの言いたいことはわかる。これではただの歴史遺産の可能性が高い。


 俺たちが見つけたかったのは、大陸中にまたがる装置だ。


 俺はマッパに訊ねる。


「何かの装置だと思うか?」


 マッパは腕を組んでしばらく考えるが、首を横に振った。


「そう、か。となると、本当に黄金の像、というだけか」


 しかしマッパは首を縦に振らない。


 やがて木の棒で、魔法を放つような絵を描き始めた。


「魔法? 装置じゃなくて、魔法か何かの類だと?」


 マッパはこくりと頷く。しかしそれが何の魔法かまではわからないようだ。


 フーレが残念そうな顔で言う。


「マッパでも分からないなんて。でも、魔法なら、四方の装置を使って魔力を供給して──みたいなこともできるよね」

「そうだな。油断はできない」


 俺が言うとリエナが頷く。


「特別な場所であるのは間違いないでしょう。それに、少し引っ掛かることが」


 リエナは改めて、バーレオンの像の台座に目を向けた。


「我、世界唯一の守護者にして、唯一の生者になりし者……守護者という語は、いろいろな為政者がよく使う枕詞みたいなものだが、生者というのは聞かないな」

「唯一の生きた者……生きていることが、特別なのでしょうか」


 リエナの問いかけを聞いてリシュが体を震わせ俺の腕を再び強く掴む。


「生者になりしって……バーレオンって、そもそももう死んでいるんじゃないの?」

「人間だろうからな……しかし、確かに妙な言葉だ」


 どういう意味かまったくつかめない。


 そんな中、俺はあることが気になった。


「そういえば、サンファレスはいるんだろうか?」


 俺が言うと、マッパが新たな像を指さす。


 というか、マッパのやつ古代バーレオン文字をすぐに解読したんだな……今のバーレオン文字と似ているとはいえ、たいしたものだ。


 そんな風にむしろマッパを少し恐ろしく思いながら、俺は新たな像を見る。


 神殿の巫女を思わせるようなローブを着た、華奢な女性の像。ちょうどバーレオンの真後ろに立っている。


「これが、サンファレス……」

「美しい方ですね……ですが、なんでしょう」


 リエナは顔を覗き込みながら言う。


「……どこか、泣いているような」


 サンファレスの顔には、確かに涙のあとのようなものがあった。たまたまとは思えない、明確に涙を思わせる筋が刻んである。


「本当だ。というか、他の像も結構寂し気な顔をしていない?」


 フーレの言うように、像はどれも悲し気な顔をしていた。


 ベルダンのように雄たけびを上げるような勇壮な顔の像はそれなりにあるが、無表情や笑顔の者はひとつもない。


「ベルダンたちにしても、どこか空元気のように見えるというか……」


 勇気づけている者と、悲しむ者たち。まるで、誰かを送り出すかのような光景だ。


 フーレが苦笑いを浮かべる。


「すっごく陰気臭い雰囲気……」

「もっと別の言葉があるでしょう、フーレ……」


 リエナが苦言を呈すると、リシュが口を開く。


「でも実際、そんな雰囲気だよね……いずれにしても、造られた目的がよくわからない像たちだけど」


 何か特別な装置とは思えない。何のために造られたかもわからない。


 だが、俺はサリアの言葉を思い出す。


「父は、バーレオン公国に向かったと言っていた」


 何かの偶然だろうか。しかし、よりによって、なぜバーレオンなのか。


 父がこの場所を知っているなら、やはりバーレオンに何か──うん?


 俺は少し離れた場所に魔力の反応を感じた。


「誰かいる──皆、気をつけろ」


 俺は魔力の反応があった場所に目を向けるのだった。

出店宇生先生が描く本作コミカライズ最新話が更新されています!


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https://comic-walker.com/detail/KC_000396_S/episodes/KC_0003960004500021_E?episodeType=first

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