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カフェ・デート

「翔ちゃん! いらっしゃ~い。……あら?珍しい! 翔ちゃんが彼女(カノジヨ)連れてくるなんて」


 そのカフェに入った途端、野太いけれど甲高い声がした。

 見ると、濃いメイクが剃ってある顎髭にミスマッチの、いかにも「女装」のアラサーくらい……どう見ても「そっち系」の人が、カウンター越しに声をかけてきた。


「マスター、いつもの二つ」

 そう言って、佐伯君は店の一番奥のテーブルに座った。

「ブルマン二つね。オッケー」


 私の目は点になっている。


「さ、佐伯君……。もしかして、佐伯君が女の子に興味がないのは……」

 私の顔から血の気がすーっと引いていく。

「馬鹿! そんなんじゃないぞ」

 佐伯君は、しかし私の疑惑を一蹴してくれた。


「このカフェのマスター、確かに怪しいオカマだけど、店の雰囲気は悪くないし、何より珈琲が美味いんだ。ま、マスターがマスターだから、客の好き嫌いが激しくて、馴染めない客は一度きりだけど、俺は結構居心地よくてね。仕事バイト帰りなんか、必ず寄るんだ」 


 そう言って、フッと佐伯君は微笑った。


 ああ……。

 やっぱり、私。弱いんだな。

 佐伯君のその柔らかい笑顔。


 クールビューティーな佐伯君、普段は滅多に笑わない。

 それが格好いいという女子達も多いけど、私はやっぱり好きな人には笑いかけて欲しいと思う。

 けれどよりにもよってこんなところで、佐伯君の極上の笑顔を垣間見るなんて!


 やっぱり、佐伯君て……読めない……。


「はあい。ブルーマウンテンお二つ!」


 やけにハイテンションなノリのマスターが、シナを作りながらテーブルへ珈琲を運んできた。

「それから、彼女に。当店「アンブラッセ」特製のパルフェ・オ・ショコラを特別サービス!」


 マスターはそう言うと珈琲の隣に、それは芸術的とも言える贅沢なチョコレート・パフェを置いたのだ。


「わ、わああ。すっごい!美味しそう」

「あら。素直な可愛娘ちゃん! さすが、翔ちゃんが初めて連れてきた彼女のことだけはあるわね」

「え? 初めて……?」

「翔ちゃんがウチにはまりだしてから結構長いけど、いつもは一人で来るわよね」

「それ以上、余計なこと言うなよ。マスター」


 佐伯君は殺気すら漂わせたが、

「ふふ。照れちゃって」

 と、マスターは動じる様子もない。

 そして、

「ごゆっくり~」

 と言い残し、マスターはまたそのいかついお尻を振り振り、カウンターへ戻っていった。


「さ、佐伯君! 珈琲冷めちゃう。ああ、でも、パフェも溶けるし……どうしよう?!」

「珈琲飲みながら、パフェも食べたらいいだけじゃないの」

「あ! そうか」

「蒼井って。そういうとこ、ヌケてるよなあ」

「ひどーい!」

「そういうとこがいい。って言ってるんだよ」


 佐伯君はそう言って、珈琲(ブルマン)に口をつけた。

 私はボン!と顔から火を出し、そんな彼の何気な一言に一喜一憂しながらも、まずは薄くスライスされているバナナの攻略に取りかかった。


「ああ!美味しい~! 佐伯君! このチョコパ、絶品だよ!」


 極上のアイスチョコレートに種々のフルーツが惜しみなく盛られているそのパフェは、ボリューム満点な上、見目にも作り手のセンスの良さが感じられる。


「で、珈琲は? これもマスター特製のブルマンなんだけど」

「え。うん! 美味しいわ」

「嘘だろ。蒼井。絶対、この珈琲の味、わかってないだろ」

 ばっさりと切り捨てられ、

「うう。だって、私、紅茶党なんだもん。紅茶のことなら、淹れ方から葉の種類までなんでもわかるわよ」

 と、ムキになって応戦した。


「これからは珈琲も少しは飲んでくれよ。俺との会話に困るだろ」

「だったら、佐伯君も紅茶のこと、ちょっとはベンキョーしてよね?」

「蒼井がレクチャーしてくれたらな」

「勿論!」


 満面の笑みで応えた。


 ああ、美味しいチョコレートパフェに珈琲。

 その上、あの佐伯君と二人きり。

 もしかして「夢」なんじゃないのかしら。


 まさか、ここで夢オチ……?!


 急に不安になった時、


「夢なんかじゃないぞ」


 と、佐伯君が言った。


「え、え?……私、口に出して何か言った?」

 まるでまさしく心の内を読んだかのような彼のその一言で、私は心臓が止まりそうなほどびっくりした。


「顔に書いてあるんだよ。蒼井の場合は。紅くなったり、青くなったり」

 くっと笑いを噛み堪え、彼は言った。


「変わってるよな。蒼井」


 片頬をつきながら、佐伯君は笑んだ。


「変わってるかな。……私」


 でも、私は急にシュンとなって、俯いた。

 それはまさしく、普段から友達にもよく言われる私のコンプレックスの一つだったからだ。


「いいんじゃね。みんな一斉に右向け右!の世の中で、一人くらい左向いておろおろしているような奴がいても」


 そう言うと佐伯君は、

「俺にもくれよ」

 と、私の右手から細長い銀製のスプーンを取ると、半分溶けかかっているチョコレートアイスを一口すくい、ぱくっと舐めた。



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