出立!またなぁ!ビルック!
今日は恒例となりつつある宴の日。思えば身内のパーティだったはずだが…むぅ。まぁ、細かいところは置いておこう。招待される連中も貴族とはいえ、獣人族に理解のある人(表向きはね。)だし。
今日は立食形式かな。気兼ねなくできるのでありがたい。どうしてもコースだと堅苦しいからね。
うむ。…流石ミディさん。会場には素晴らしい皿が並ぶ。色とりどりのオードブル。トワ君の放出品か?恐らくバジリスクのブロック肉のローストが鎮座する。
が、勿論、本日のメインはトゲカニ(巨大花咲ガニ)だ。料理用と丸焼き用を進呈した。
ミディさんの予測通り、焼花咲ガニを見てマリアさんが卒倒寸前だったし。なぜか、おいらが”ぎろり”と睨まれた。
マリアさん…睨むなら、両手に持ったカニの足…返してほしい。…と思ったものだ。
公爵様方も大いに楽しまれただろう。公爵の御友人という方も紹介されたが…ま、こちらからは干渉はしない。
例え、この国の王でもね。あちらも軽い挨拶程度。場をわきまえていらっしゃる。が、お忍びとはいえ、村の外に駐留している”軍隊”はどうにかしてほしいものだわな。バレバレである…
「いやぁ。ミッツ…殿。今日も素晴らしい宴じゃな。」
「ライル様、楽しんでいただいてますか。」
「勿論じゃ。ここに離れを造ったのは大正解だな。今回のトゲカニ…これまた素晴らしいもの。まさか食する日が来るとはの。珍しい食材もだが、大衆魚、雑魚の類も素晴らしい一皿に仕上げる、ここほど美味の物を出す店はあるまい。」
「大おじ様、本当に美味しいですね!こんなお店が我が国に。」
アーサー君も大はしゃぎ。
「うむ。楽しかろう?美味いものは心を豊かにする。アーサーも十分に…ぅうん?そういえば、このままミッツ様の所に行くのであったな…うむ…わしも行きたいのぉ。」
「勉学に行くのですよ。大おじ様。…でも、”食”も楽しみです!」
「うむうむ。色々と経験してくるといい。帰って来た時にワシに聞かせておくれ」
「はい!」
『次の料理が上がるわよぉ~』
ニッキさんの声が響く。お?何かな?
「大おじ様行きましょう!」
アーサー君がライル様の手を引き料理の方へ。
「うむ。では、ミッツ殿失礼しますぞ。」
「ええ、楽しんでください。」
…。
ふぅ。本当に盛況だなぁ。ライル様の招待客もこの国の重鎮たちだろうなぁ。よくもまぁ集めたものだわ。
遠目に調理をするビルックに目を向ける。気に満ちている。充実してるのだろう。ここに連れてきてよかったなぁ。その姿が見られただけで満足だ。
”ちょいちょい”うん?服のすそを引くのは、言わずと知れたチェルシーちゃんだ。
「ミッツ様。生のウニってお持ちですか?」
「うん?どうしたんだい?」
「大おじ様が 『あんなもの食えるのか?』 とお認めになりませんの。私が美味だと言っているのに。ですから、食べさせてびっくりさせたいの。」
「ふ~ん?ライル様が?何でも食べるチャレンジャーだが…」
出したものは何でも頂く、美味の探究者といっても良い御仁だが…
「ううん。もう一人の。あれ。」
チェルシーちゃんの指さす方…ああ…そういえば、こちらさんも大おじ様に当たるのだわな。国王様…。目が合い、ぺこりと頭を下げる王様。
「…了解。でも、好みの別れる食材だよ?」
「…大丈夫。私が奇麗に食べる。」
「はい。解りました。お嬢様。ふふふ」
「私も手伝う!」
早速と”収納”から、バフンウニに似たウニを。形は似てるが、此奴は真っ赤だ。…アヴァロン様もどうせ食べるだろうから、5個。”洗浄”を掛けて割る。
うんうん。旬があるのかわからんが、よく発達した卵巣だ。こっちの色が薄いのは精巣か?
内臓と、海藻の切れ端を洗い流し、チェルシーちゃんに手渡す。そこに銀のスプーンでチェルシーちゃんがすくいあげ、グラスに。キラキラと美しいオレンジ色の宝石のようだ。
「うむ…奇麗だな…」
「美味しそう。」
…だね。よだれ出そうだな。チェルシーちゃん。ウニの美味さ知ってるからなぁ。この子。
ついでに、魔法で氷を出して、蒸留酒の水割りを。と。
「いやぁ、チェルシーが無理を。」
「そうです?その割には止めなかったように見えますけど?アヴァロン様。」
「いや?は、ははは。あの甘味、旨味…海の香り…思い出しちゃってねぇ。」
「…お父様の分はありませんよ。」
「んなぁ!」
「ふふふ。さぁ、どうぞ。ウニの卵に当たる部位です。ワインより、蒸留酒の水割りが合うと思います。」
「いやはや、どうも、お手を煩わしたようだ。」
「いえいえ。このような事なら。」
「…そうであるな。」
「大おじ様。難しい話はまた今度。これが、美味なるウニにございます。海岸線の村々で安価で買えるのですよ。」
「そ、そうか?美しい色であるな。これが卵…か。どれ…」
恐る恐る、オレンジの塊に銀の匙を刺しこむ王。そして少量を掬い、口にする。
「…ふむ?…うむ…なるほど。なるほど…」
再びオレンジ塊に。ぶすりと、山盛りに。王のお口にも合ったようだ。
「そんなに取ったら、私の分が無くなります!」
「…父様の分は…」
「最初からありません!大おじ様!私も!」ふふふ。
「うむ。この水割りと言うモノ…なるほど。面白いな。料理の邪魔をせぬ。気に入った!」
「ええ。相性もあまりに気にせず楽しめます。この辺りの特産の果実の果汁を入れても楽しいですよ」
炭酸があれば…サワーにできるのだが…マジで考えよう!
「なるほど。面白い…」
「寒い時は、お湯で割ればいいんですよ。ねぇ、ミッツ様。」
「そうですね。そこに、『梅干し』入れたり、海藻のコンブを入れたりと。スパイスを入れてもいい。」
「ええ。研究しますよ~。確か、カイエン様は。」
「うむ。その日の気分によって、水、氷、お湯…と。梅干しも良いですな。最近はこればかりですよ。」
シブいから…カイエンどんは。
「…して。ミッツ…殿。楽しんでおられるかな?」
「ええ。もちろん。この国には世話になってますよ。」
「そうであるか…」
…ま、この辺りが潮時だね。お国の話は。
アヴァロン殿が不憫だから、もう少し、ウニを剥いてあげようか。
…。
さて。今日は出発の日。ここでライル様、アヴァロン様両公爵と別れることになる。アヴァロン様は王都経由で帰るそうで、王都まではライル様と同行するという。うちの護衛隊も付いていくから安全だろう。
おいら達はこの足で、蝶村、懲りずに海に沿って北上して帰るつもりだ。海産物と真珠などの素材。スラミのおやつも取れよう。
「それではトワ殿、ミッツ殿。また会おうぞ。」
「トワ様、ミッツ様。今回もありがとうございました。大変楽しめましたわ。マリアもご苦労様。」
ライル様ご夫妻の挨拶を受ける。
「はい。また。その時まで。ご健康にご注意くださいませ。」
「トワ様、ミッツ様うちの子供達の事、よろしくお願いします。」
「はい。確かにお預かりします。」
「父上。精進してまいります。文も出します!」
「お父様、お気をつけて!」
「チェルシー…」
…あっさりとしたものだ。アヴァロン様の方が泣きそうだわ…
「それでは出立いたしましょうか。ライル様。」
「うむ。アルス殿、手間をかけるな。ではまたな。」
「じゃ、元気でなぁ!また会おう!ライルのおっさん!アヴァロンさん!」
「出立!」
”がらがらがらがらがらがら…”
アルスどんの号令で、馬車が動き出す。もちろん、うちの馬と馬車を貸した。快適な馬車旅を送れるだろう。
「ふぅ。行ったか…。トワ君ライルのおっさんって…まったく。」
公爵様だぞ。
「ミッツ様、この度もありがとうございます。商会も関係強化が出来ましたわ。それと、古の遊具、チェスの復活…」
「いえいえ。お世話になってますし。チェスについてはヴァートリーと、公爵様のところで詰めておいてよ。アヴァロン様も直ぐに動くと思うから。」
「はい。解りましたわ。道中、お気をつけて。」
「んじゃ、俺達も行くか…。ビルック頑張れよ。」
「はい。トワ兄」
「ミディさん。皆様、ビルックの事お願いします。」
「あら、いやだ。もうとっくにお願いされちゃってるわよぉ。」
「ええ。もう、我が一家の一員だわ。安心して。」
…かえって心配なのだが…いや、言うまい…
「父さん。僕は大丈夫。御身体に気を付けて。」
「うんうん。またそのうちに遊びに来るからね。」
「ほれ、泣く前に行くぞ。おっさん。蝶村まで急ぐぞ!」
「おう。じゃあな、ビルック。」…。
「…はぁ。」
溜息コキコキ、街道を疾走する。ま、すぐに来れるさ。
「ほれ。気合入れて走らねぇと、コケるぞ。おっさん!」
「うん。…やっぱり、”ゲート”の設置は必要だと思うよ。」
「新しい魔石拾ったらなぁ。」
鬼…落ちてないわ!そんなもの!
「しかし、本当に逞しくなられていましたな。」
「うん。そうだね…」
「おっさん、子供もいるんだ。気合入れろ。」
「おう。」
そうだ。アーサー君やチェルシーちゃんを託されているのだからな。気合入れよう!
「アーサー君。チェルシーちゃん。どうだい?親元を離れるなんて初めてだろう?」
「ええ。寂しい…。不安もありますが、学業への関心の方がおおきいです。レブランティも居ますし。…大丈夫です!」
「大丈夫ですわ。どうせ、父様。何時も居ませんし。」
おふぅ。女の子の方がドライだなぁ…レブランティさんは身の回りの世話にと、付いてきたメイドさん。年の頃30台中頃だろうか…メイド兼、教育係という感じだな。
「別にお父様いなくても大丈夫ですわ。ミッツ様もトワ様もいらっしゃいますし。」
しっかりしてるからなぁ。この子…
「うん。まぁ。何だ…しっかり勉強してね。うん。」
「「はい。」」




