おっさん…孤児院だけどさぁ…
本日、二本目
受付を終わらせ、マシューさんとこへ。中々帰ってこないトワ君を迎えに来た。
彼の事だ。ヘマはしないと思うが…。ま!まさかぁ!マシューさんに喰われたかぁ!昼間から!
「ミッツさんがいらっしゃいました」
『入ってもらって!』
「毎度おおきに~」
ん?んぉおおぅお!?ガバッとマシューさんに抱き着かれる。酒臭さぁ…あぁ…柔らか~い~いい匂い~おいらをお食べになるの♡大・歓・迎!
鼻をピスピスしてるとトワ君と目が合う…
「「…」」
…なんだよ!
マシューさんを引き離す…惜しい。
「素晴らしい!素晴らしいですよ!ミッツさん!どれだけ儲かるか!ふひひひひひ~」
ふひひひひ~は無いよぉ…美人が台無しだ…
「出来上がってます?」
「味見よ、あ、じ、み!はぁ、こんなに違うものなのね。競りが楽しみだわ!」
「程々にしないと。街の酒代が上がると反乱が起きるぞ?」
「大丈夫よ~街用のは別。そう変わらないわ。一般の飲み屋のは後日別便よ。でも高級店なんかは、美味しいからちょい上げるかもね。ギルドは関しないわ」
「ん?意味不明だの。じゃぁ?」
「このあたりの貴族と高級店向けね。この街と、この街を起点にした町の。儲かるわよ~」
「ふ~ん。美味しいのは正義だけどそんなに出す?」
「特急便の特級ワイン。競りの時には樽ごとに見本を出すの。見ただけでわかるわ。」
ふ~ん。
「あっそ。」
「…商人のくせに感動薄いわね!」
「…運輸業ですので?」
「…今度はエール…いや、ビアもいってもらおうかな…お茶もいいわね…他国だけど…ごっそりと」
「じゃ、帰るけど?」
「まぁ、色々聞きたいことあるけど…当分先ね…ワインを捌かないとね!」
「がんばれ!…っと。そうだ、そうだ。これ、よろしくお願いします」
と養子縁組(仮)を渡す。
「…増えたの?また?」
「ええ。3人、あと馬6頭と魔馬2頭。」
「…わかったわ。馬かぁ」
「今ならお安くしますよぉ~。旦那!。魔馬は、雹とトワ君のだからダメ。」
「気持ち悪いわね…揉み手ヤメ!で、どんなの?」
「馬は軍馬。魔馬は、どでかいバトルホース?と真紅のスレイブニィル」
「はぁ?バトルホースはともかく、スレイブニィル?国王様に献上は…」
「するわけないじゃん。盗りに来るなら相手するよ。こんな国どうなってもかまわないっす。」
「…」
「ここの国王にやるぐらいなら、帝国に献上して貴族にしてもらうさぁ。土地付の。」
「…可能ね…侯爵くらいくれるわ…ううん、お釣りもくるわね…ったく洒落にならないわね…実行しそうで…」
「するけど?子供たち守る為なら。」
「…はぁ、馬鹿貴族が馬鹿な事しないように進言しておくわ…」
「「…」」
顔色が変わるマシューさん。お?いつもの顔だ。
「うん?…そういえば、軍馬だったわね。…手遅れ?」
「ご名答~」
「はぁ。売るなら少し時間をおいてからよ…まったく。気持ちよく飲んでたのに…酔い吹っ飛んだわ」
「はい。味見では?」
理解が速くて助かるわ
「…いいの。で、依頼料の清算はちょっとまってね。色つけられるわ。手持ちある?」
「大丈夫ですよ。では。失礼しますね。」
「ご苦労様、ゆっくり休んでね」
「おっと、親分からの手紙忘れてた…」
渡す。
「親分?アヴェル?確かに。」
「では。」
今日は柔らかかった…ガキじゃあるまいし…ちょい興奮した…夜の店を探さねば!
「時間、まだあるな。教会付近の様子見に行くか。」
「ああ。行こう。」
「父さんさっきの話、トワ兄に。」
「話?」
「ん、ああ。スルガ隊長に聞いたんだ…」…。
「…はぁ?また教会?ろくなもんじゃねーなぁ。地獄に金は持っていけないぞ?…もしやこの街でも…」
「その可能性もあったな!調べてみるか…」
「なぁ、おっさん。孤児院さぁ~」
「なに?」
「…いや、今度でいいや。」
「気になるな!」
「もうちょっと自分の考え詰めてみるよ。」
「…わかったよ。その時は相談してくれ。なぁ。」
…予測はつくよ…トワ君優しいからなぁ。教会の近くまで来た。
「?うん?」
「ちょっと探ってみるわ。にかどぉぅ…さぁ~~~~~ちぃ!」
「…いるのか?それ。」
「…父さん…」
「…い、いいのロマンだよ、ロマン!お?ほんとにいるの…」
「マジ?」
「父さん、僕たち手ぶらだし、大丈夫じゃない?」
「う~ん。旅装のままで小汚いし。行ってみるか?」
「接触してきたり。」
「そしたら聞いてみっぺ。」
小さい教会の門をたたく。
”どんどん”
「こんにちは~」
「あら、お久しぶりです。どうぞ。中へ。」
シスターに招き入れられる。すると、待ってましたと子供達が押し寄せてくる。
「あ!おじちゃん!こんにちは!」
「トワ兄だあ~」
「雹兄遊んで」
わちゃわちゃだ。
「雹まかせた。ちょっとシスターと話してくる。燻製置いてくな。柔らかいのも。」
「はい。任せて」…
「何でも遠くまでいらしたそうで。」
「ええ。依頼で。また子供増えちゃいましたよ!はっはっは」
「独身なのにね。おっさん。」
「うっさいわ!」
「ふふふ、良い縁に巡り合ったのですね。」
「ええ。ところで…。単刀直入に聞きますね。国…町からの補助金、減ってませんか?」
「…なぜそれを?」
「やっぱり。スルガ隊長から聞いたのです。」
「ええ。0になりましたわ…」
「へ?無し?そ、それは?」
「いえ、経営はなんとか。セツナさんがうちの子2人をギルドで使ってくれてますの。給金とは別にマシューさんが寄付してくれました。良く働くと喜んでくれましたのですよ…」
眼をハンカチで押さえるシスター
「へぇ、そんなことが…他の所はさぞや…」
「…ええ。うちでも何人か引き取りました…獣人がいると公金は無くなるとかで…」
「それで人数が…はぁ、ホントふざけた組織だな!」
「おっさん。」
「あ、ああ。失礼しました。」
「いいえ…維持できなくなる前に獣人の子供を紹介してくれる方はまだいいですよ。捨てる所もあるとか。うちも捨てられた子を2人保護できました。間に合ってほっとしてます。」
「そうですか…」
「行政の方はなにも?」
「ええ。」
「おっさん…いや、ミツルさん、いっそのこと、家にひきとらないか?畑だって作れる。森の恵みだって行けるかもしれない。金も短期間で結構溜まったし。」
「しかし…守秘義務、守ってもらうことも多い、自由に街に出ることもできなくなるよ。」
「なぜ?」
「秘密を探るヤツもいるし。言うことを聞かせるのに攫うやつも出てくる…おいら達がいるときならいいが…」
「姉貴が」
「だめ。セツナっちじゃ街が滅ぶ。」
「…だな」
「何の話でしょう?理解が、セツナさんお強いの?」
「いえ、こちらの話です。トワ君の話も理解できるが…拘束するようで…ね。」
「…シスターうちに来ませんか?色々秘密がありますが…畑や森もあるんですよ。もっと迎え入れられますし、捨てられた子だって。
ただ、自由に外には出られませんが…もちろん、中で教育や訓練をして独り立ちができるようになれば外に出ても構わないし、通いでもいいと思うんだ…だから…」
「トワ君…。すいません、シスター出先でちょっと心が削られる事件に関わりまして感情的に… 「おっさん、そんなんじゃない」 …シスターも驚いていらっしゃる。意味不明だよ?トワ君。」
じっと目を見る。そして、ゆっくり。
「落ち着きなさい。」
これで大丈夫だろう?君なら。
「で、でも!」
あらら。思ったより…。確かに良い案だと思うし、後々はそうしたいとも思っていた。が、まだ時期尚早…とも言ってられないか…。運営費0ってなぁ。ふぅむ。
「トワ君の温かい気持ち。ありがとうね。ただ、ミッツさんの言う通り私には理解できなかったのよ…広いとは言っても街中の…」
「おっさん、代わりに説明してくれよぅ。屁理屈得意だろ!」
「屁理屈でどう説明しろと?君はおいらの事をどう思ってるんだい?」
「それだよ、それで!」
「冷静になれトワ。お前らしくない」
「…なんか、ファル思い出しちゃって。ああ、確かに冷静じゃなかった」
「…ふぅ。ファルの名を出すか…。シスター、順にお話しますね。来るにしても来ないにしてもできれば秘密にしていただきたい。」
「ええ。解りました。お話、聞かせていただきましょう。」
「では、あそこは簡単に言うと魔物のいない”ダンジョン”なんですよ。」
あ、2頭いれたな。…魔馬。
「ダンジョン?あ、あそこが?町の真中に?」
「変わったダンジョンでして、気に入った人間と契約して住まわすみたいな。”家”として存在してます。家妖精、あれが魔物の扱いですね。ですので壁も壊せなかった…ダンジョンの”壁”ですから。」
「なるほど。誰も入れない。壁も壊せない。と聞きましたね。」
「それで、我々がダンジョンマスターみたいな感じですね。」
「マスターはおっさんだろ?」
「まぁそこは置いておいて。で、制約がありますが…階層も自由自在。理論上は深く広く作れば街だって作れます。ダンジョン名物、地下なのに平原、地下なのに森林もありです」
「ふふふふ。聞いたことあります。地下なのに平原があって太陽の日差しみたいに明るいところもあるって。」
「ええ、雪山や川なんかもあるようですね。」
「そういうことですか…そこでなら、自給自足が叶うと。」
「ええ。何らかの技能を持った人がいれば…。現在はセツナさんが文字計算を子供たちに教えています。そういった技能などを修学すれば未来も開けましょう。この国じゃなくても獣王国に就職しても良いのですから。」
「…」
「もちろんここにいる人族の子や、シスターみたいに理解のある方は受け入れればいいでしょう。例えば、郊外で抑圧されてる農家一家丸ごと迎えて、農家技能の先生になってもらうとか。ドワーフと親交があるので講師にきてもらうとか。」
「夢みたいな話ですね。」
「ええ。詐欺師みたいですね。ははは。真相はこんな感じ。子供たちには妖精の不思議空間ということで話せばいいと思います。ただ、自由に街には出られなくなります。それと、縁組の機会が減ってしまう。」
「…でも、草原や、森には出られるのでしょう?走りまわったり。未知のものに触れたり…沢山の”感動”があるのですね。しかも、”生きていく技能”…そのような機会を頂けるなんて。
今でも街にそうそう出られません。汚い、臭いなど平気で言われますから…。縁組も獣人ってだけでほぼ0ですよ?私がここにきてミッツさんが初めてですよ。ふふふ。」
「そ、そこまでだったので?」
「ええ、比較的差別がないと言われてるこの国でさえ現状は。人族至上が根深くありますわね。」
「じゃ、じゃぁ、シスター来てくれる?」
「ええ。ご迷惑でしょうが…子供たちが自由を得られるのです。可能性も増えるでしょう。どうしても今までは既定の年齢まで育てて、世間に放りだすことしか出来なかったの。助けることもできなかった…」そういって涙を流す。
「では、一週間後に引越ししましょう。それまでできるだけ普通に生活してください。食糧は?」
「大丈夫です。おかげさまで、まだたくさんありますよ。」
「他に要望とかあれば…」
「神の像をもっていっても?」
「もちろんです。この建物の権利は?」
「街の物です。」
「なら、問題ないですね。」
「はい」
「決行は7日後の深夜。緊急時、こちらの都合で前後する場合もありますが、連絡は入れます。決行当日には様子を見に来ます。」
「よろしくお願いします。」
シスターと部屋をでて皆のもとへ”がぎぼききいい”びきばぎば””がききききぃ”…やってるな。シスター何事かと歩を早める。
「シスターすいません。あれ、干し肉なんですよ獣人とドワーフの好物みたいで。」
「す、すごい音ですね…り、リリー大丈夫なのそれ?」
きょとんとシスター見習い。彼女ももらったようだ。
「え?凄く美味しいですよぉ」
「人族の子はお菓子か。柔らかいのでもちょっと硬いもんなぁ。気が利くね雹。私たちもお菓子でお茶をしましょう。」
「はぁ、大丈夫なのでしょうか?」
「ええ、よく見てください。あの子たちの顔。どの子もああなります。」
真剣に味わってる。ちょい野生。
「はぁ。」
「齧れれば至極の味だそうですよ。人族ではうちのセツナさん以外は無理ですね」
「…おっさん、人の姉貴を化け物みたいに…」
「トワ君、信じられんかもだけど…バリバリやってたよセツナっち。」
「へ?」
「トワ兄ホントだよ…みんなと混じって…セツナ姉って獣人?ドワーフ?」
「…まじか。化け物確定?」
ははははは。そのあとお肉を差し入れして夕食前にお暇した。さぁ、お家に帰ろう。
本日もお付き合いいただきありがとうございました。またのご来店をお待ちしております。




