送還の儀 「南門の楔」 Ⅲ
いらっしゃいませ~ゴールデンなお休み始まりましたね。それにしても寒い!
…領主室、アヴェルと向かい合って座る。周辺の人払い済だ。小声で
「アヴェル。消音結界石は?」
「あるぞ。これでも一応はギルド長だぞぉ。展開!で、どうしたぁ。」
懐からあの帳面を出す…ミッツ殿に託されたものだ…
「やはり…あったかぁ…」
流石だな…
「…貴殿は”こちら側”かな?」
「さてねぇ?御領主には悪いが…そっくりそのまま返させてもらうわ…こっち側か?と。…で、観ても?」
「ミッツ殿から託されたものだ…解析はまだだが…」
この男は信用できる。
「王族がいる…と。」
鋭いな。
「…姫には内容を確認したら、見せられるようなら見せる事になってる…」
「ふうぅむ…見せられなかったら変に察するだろうしぃ、最初から見せるのもありかもねぇ。」
「どこまで近しいかで判断しようと思っている…王、王妃以外なら…見せるつもりだ…」
「なるほどねぇ~」
すぅうと手を伸ばすアヴェル。帳面を押さえる。
「これを見れば… 「ああぁ、解かってるさぁ。信用しろとは言わねぇさぁ。」 …」
ぱらぱらとめくる…
「ふむぅふむぅ…いろいろな暗号が見えるなぁ~。これなんかギルドの暗ご…!…」
「いかがした…」
「…」
パラり。
「ふぅむ…むむ。」
「いかがしたと」
あせる…一体何がわかったのか!
「ああぁ、知り合いが何人かいてねぁ。領主様には接点のないやつらでさぁ。ふぅ。それ以外はわからんなぁ~いちおう、調べて信憑性を確認しないとなぁ…解読するには軍部の暗号屋かぁ、おジジに見せるしかないなぁ…ミッツ殿、トワ殿ならわかるかもしれねぇえなぁ。」
…そうだ、鵜呑みにしてはいけない…王族を貶めるものかも…その場合は我が一族は反逆者だな…
「勇者様達が?」
「勇者様は特別なskillがあるんだぁ。こっちにきて、こっちの言葉ぁ普通に理解してんだろぉ?」
「…そうか!」
なるほど
「そう、どんな古い”言葉”でも理解できるんだぁ、それに頭の回転も悪くない…二人ともに賢者を名乗っても問題ないくらいさぁ。」
「…そうか、だが、彼に”こっちの世界の問題だろう?こっちの世界の人が解決しろ!こっちに回したら国ごと消してやる!”って取れる言葉をもらったよ」
「彼らしいねぇ。それで姫様かぁ?」
?…うん?
「姫様は関係なかろう?」
「神の声だよぉ。あれには正直…いや、いい。で名指しで警告されただろう…天啓ってやつだぁ。」
「ああ。」
「奇跡…見ちまっただろう…今までの…障壁破壊やら、剣の絶技やら、人知を超えた送還の儀式…どれもおとぎ話…それ以上だぁ。何より、ミッツ殿の“やさしさ、甘さ”を見ちまったぁ…トワ様なら問題ないが…なぁ。」
「確かに甘いと思うが…」
「彼らの国は平和そのものらしい。もちろんいざこざや殺人もあるが、一つの民族、こんなちっこいナイフを持ってるだけで衛兵に拘束されるようだぞ?」
と手のひら位を示す。
「そんなもの…どうやって身を…」
「国民すべてが高い教育、魔物もいない、財布落としてもそのまま返ってくる国だそうだぁ。」
「…」
「彼も笑いながら、こっちは、平和ボケにはきつい世界ですよ~なんて言ってたなぁ。我らが夢見るのは”平和ボケ”なんだろうなぁ。
ああぁ、横道にそれたがぁ、姫様は確かに聡明で、賢い…だが”女”だぁ。国の危機だと言われたら?世界の危機だと言われたら?それが自分たちのみの都合でも…な。」
ああ、国民の危機だから…家族の危機だから…助けを求める?誰に?決まってるな…
「なまじ接点があるだけ頼るだろうさぁ”勇者”にぃ。自分の国の兵士を使わず…頭を使って回避の努力をせずになぁ。簡単に自分の”体”一つでどうにかしようとするだろう。」
「そこまで…」
「そういったものさぁ”王族”なんて、”お貴族”なんて、それに”勇者”ってのもさぁ。絶対戦力。諸刃の剣ってことなのによぉ~だから、近づかせるなよぉ。ミッツ殿は根本から甘々だからなぁ。絶対。」
そういった考え方…国を思えば!か。
「天啓じゃ、姫が必ず何かする…で、彼らが死にかけ、多くの物を失う?家族を亡くす?とにかくだ。で、新たな力を得る。国なんか破壊できるほどのなぁ。”しっぺ返し”ってことは、この国、広くは人間国家に…」
ミッツ殿がこの国に絶望したら、トワ殿も従ったら…
「それは…」
そう、まるで…
「そうだぁ…本物の”魔王”だ。」
「…」
「これなら、神からの警告、天啓になる…どうだぁ?」
理解出来てしまう…此処までのことにならな…楽観はできない、人族の地位の降下は彼の望むところだろう、教会…存在しない神の狂った教義の破壊。
これも…我が城は浄化されたが、これからの事を考えると…むしろ懸念が増えたな…
”とんとん”
「テクス様、姫が客室でお持ちです。」
「ああ、行く。」
あの状態では湯浴みも必要だっただろう
「じゃ、俺はぁ 「立ち合わぬのか?」 …いいだろう。付き合おうかい。」
「失礼する、姫、体調はどうですか?アヴェルもよろしいか?」
「ああ、湯浴みで凍てついた体の芯も溶けたようだ…心配かけたな。アヴェルか?かまわぬ」
「それは何よりです。ただいま、気付けに強い酒を用意していますので…」
蒸留酒が届く…小さいグラスに注ぎ皆で煽る。酒精で体の芯が燃えるように熱くなる。
「ふぅ。して、彼らは?」
「彼らはぁ、うちの宿で休憩後、直ぐに出立するかと…」
「!礼もせぬのに。なぜ、引き留めぬ」
「彼に言われたでしょう。押しつけになりますぞ…」
「だが、しかし。今から追う。準備 「なりませぬ。押しつけが、押しかけになるだけです。好印象は得られませにぞ。」 …しかし!」
「それにぃ。彼らはティネルまで2~3日で走破するとか?普通の馬じゃ追いつけねぇ神馬でもなきゃ、無理だぁ。」
「くっ。」
「それに…はっきり言わせてもらう。姫様には今後一切、ミッツ殿たちに近づかないで欲しいんでさぁ。元々”姫”と、勇者様といえ”平民”接点は無い訳だぁ」
「それは!」
「おっと、召し抱えるとかわぁ無しだ。無理だ。それに…”天啓”身に染みただろうぅ、彼の神が、名指しで警告してきたんだぁ。この意味解るだろうがぁ。」
「…」
「そう、わがまま言わねぇで忘れなぁ。なにもなかったぁ。」
諦めていないな。あの目は…こりゃ、アヴェルの予想通りになりそうだ。
「私もアヴェルに賛成でございます。」
「!テクス殿、その方まで。」
「そもそもはこの”領地内”の事。ご協力は感謝しています。不遜ではございますがこれ以上の口出しはご遠慮いただきたい。」
「テクス!」
「罪科を問われるのであれば謹んで受けます。ただ、”天啓”を忘れぬよう。強く警告させていただく。」
「…もうよい…解かった。そなた達の言う通りだ。軽率な行動は控える。彼の神に睨まれておるのだからな。」
「ご理解いただきありがとうございます。」
「ああ、忘れることなかれ。だぁ」
「で、テクス殿例の…」
「姫!このようなところで軽々しく!」
「す、すまぬ…」
アヴェルも知らないふりして演技している
「なんのはなしですかい?」
…だと。
「この件も当分お忘れください。」
「しかし!」
「軽々しく扱わぬよう。そういったものです。それに私に一任されてます故。」
「…わかった。」
「それでは私はこれにて失礼します。ギルド内もゴタゴタしてますので。」
アヴェルが帰っていった。そのあとも例の件や勇者様に触れることなく話も終わった。良かった?のか一抹の不安が残るが…疲れた…思考がまとまらぬ…今日は休むか…。
そうはならなかった…召喚陣…悪魔を呼ぶための召喚陣が発見されたと…秘匿するか、破壊するか…我が一族が監視することとなった、例の事件と関係してるのであろう。こうやって教会に近しい”領主”を立ててたのかもしれぬな。さて、どうしたものか…
なぜ私が、”彼の神”の声は今も私の体の芯から冷やす…
蒸留酒をあおる。テクスも、アヴェルも今後一切関わるな。という。
姫ぞ私は。レリギオの忠誠は私にではなく王国にあったようだ。しかもご丁寧に盗賊の首も撥ねていきよったわ…侯爵位を持つもの…当然であるが…信じていた。
自身で己の騎士を探してなぜ悪いのか!トワといったな、容姿、素養、剣技共に文句は無いだろう。
”平民”だぁ?”召喚勇者”であろう、身分も問題ないはずだ。騎士団長、ゆくゆくは私の…?…何を考えておるのだ?私は?…トワに心を動かされたのか…。
会えない…関われられない?そんなこと…そもそも、あれは”神”か?いや、間違いはない。が…彼も私の事を思っていたら…王族になれると知ったら…いや、彼らにしてみれば何の価値もないであろう…私も…無価値?いや、新しい故郷、帰る場所…になれる?いや、……自分で否定すればするほど…。
恋しいのか?いや、また否定…あの奇跡に当てられたのか?いや、なぜあのような慈悲のある目で子供を見る。
私にはきつい視線で…獣人ぞ?…私は一体?どう、なったのだ?取りあえず、一筆認めよう。ミッツ殿は…父上より上ぞ?ないな。むしろ恋敵のような…
「ふえ~~~~~~くしゅん」
「でけえ、くしゃみだな。ジジくせえなぁ」
ほっとけ!
「町は噂話でもちきりさ!」
「ないな。ライ達の様子も見ておこう。風邪移されたらたまらん。」
いいお兄ちゃんだな…噂話だよ!絶対!かわい子ちゃんの!
本日もお付き合いいただきありがとうございました。この後、もう一本ございますのでご来店をお待ちしております。




