大立ち回り。その裏で。「南門の楔」 Ⅲ
いらっしゃいませ~
”冷蔵の魔道具”を確認した後。
さらに奥に続く扉が見える…窓も通気口も無い…銀色の…いや、所々、黒ずんだシミのついた鉄製の扉だ。
「この先は私が確認してきます。私の責任、義務にございます…。」
姫を残し、ガルペンを従え、奥に進む…。
”がこん!””ぎいぃぃぃ…”
”うぐぅええぇぇぇえ!”
猛烈な悪臭…死臭をモロに肺に入れ、その拍子に盛大に戻す…すでに胃は空だが、精神の防衛行動か、胃袋の顫動は収まらない。
暫く吐き続け、落ちついて来たところで先に進むべく、明かりを探す。
手探りで、照明の魔道具のスイッチを入れる。
”パチリ”
後悔した…
そこには何かを引きずった跡が、赤黒い線と共に。それに集る細かい虫…
それと…
”うぐぅぅぅうぇ”
明かりに浮かぶのは小さい、足…手のひら…切断された…
途中、何回も、何回も吐く。
もちろん持参した袋にだ…ここにいる子達に飛沫でも掛けられぬ。まぁ、もう胃液もでないが。
再びの扉…開けたくはないが…
しかし…私自身、多くの死体を見て来た。戦はないが、大きな盗賊団に襲われた村、その盗賊団を討伐、皆殺しにしたことだってある。が、それとは異質…そして、こうまで精神に来るとは…。
盗賊以上の凶行、しかも肉親の手によるものだからだろうか…
”がこん””ぎぃぃぃぃ…”
明かりに、小さい子の腕か転がっている。
…この部屋は特に死臭がキツイ…拷問部屋か…
”うぐぅ”
「テクス様無理は…」
「さがれ。」
「…」
視覚と嗅覚を様々な刺激が襲う!
”うぐううぁぇ”
はぁ、はぁ、はぁ。そろそろ深奥か…!!
「…神よ!」
いや、私の神は、ゼクス教への信仰は今死んだ!
”うぐぅううぅぇ”
小さな子の骨が…死体が…解体され
”うげぇええぇぇぇ”
死体の穴の縁に跪き、頭を下げる。
「すまない、痛かっただろう?辛かっただろう?ごめんなさい。ごめんなさい…」
…急に、気分が軽く?意識が?…どうやら私の精神は限界に達したようだ。
気が付いたら部屋のベッドで寝ていた。深部で気を失ったようだ…
「お目覚めですか?誰か!」
城詰めの治癒師?私の脈を取りながら人を呼ぶ。
「あ、ああ…」
「お腹に優しいものをお持ちしますね」
「ああ。」…
「お目覚め…ですか」
とディシィ。彼もまた顔色が至極悪い。今にも倒れそうだ。
「夢…と思いたい。心配かけたな、あれからどれくらい寝てた?」
「丸二日ほど」
「二日?…そうか。姫は?」
二日か…ディシィの窶れ具合も納得だ。私の名代として指揮にあたっていたのだろう。
「姫はあの後、こちらで風呂に入っていただき、そのままお休みに。今は何とか起きておられます。」
「そうか…そういえば、あの場所は?…燃やしたか?」
「いえ、氷魔法、魔道具で現状維持してます。…あの場所は…すでに人が勝手に手を付けていい場所ではありません。供養が必要かと…」
「そうだな…ふぅ。」
「お待たせしました。」
麦粥か…
「いただこう」
「?テクス様?お祈りは?」
祈り…だと?
「…私の神は死んだよ…」
「テクス様…」
「おいしいな…これは…」
涙が止まらない…
「あああぁ…」
「テクス様?」
「…大丈夫だ。大丈夫。生きていた子には厚い保護を…落ち着いたら…会いたいな…」
「…わかりました」
「頼む。少し休ませてもらう。姫の事、頼むぞ。」
「はい。」
翌朝、食堂に集まる。
「テ、テクス殿!」ん?
「髪が…白髪に」
姫様と侯爵の視線が私の頭部に注がれる。
「ええ、すっかり白くなってしまいました。自分が思ってたより小心だったようです、戦場よりこたえました。」
「テクス殿…」
「さぁ、朝食にしましょうか…」
そういう姫様も…美貌に色濃く影を落とされている。
「ああ…」
食事も済み、サロンで寛ぐ。皆無言だ。
が、昨日考えた、”案”の許可を取らねばならない。
「…姫様…」
「なんだ?」
「勇者様は”あの”王国の怨念、穢された魂、リッチを天に送ったそうですね…。」
「…ああ…マシュー女史の話ではな…良く知っていたな…極秘事項ぞ。」
「まだ、この街にいるとも聞いています。会ってみようと…おもいます。」
「!…。この件が知られれば、貴殿は殺められるかも知れぬぞ?」
「はは。勇者の浄化の炎で死ねるのなら本望ですよ。」
「其の方…」
「許可いただけないでしょうか…」
「ああ。私も、いや、なんでもない。良いだろう…どう転ぶかはわからぬがな。」
「ありがとうございます。」
「処理はどうするつもりだ?」
「氷魔法の使い手、魔道具を用いて低温に保っています。この件も含めて、ミッツ様に相談しようと思います。」
「…そうか。」
「ガルペンは門に書状を。たぶん南門から出立するだろう。いま書状認めるこれを渡すようにと。ディシィは子供たちがこれ以上…いや、現状の維持を最優先に。
金はいくらかかっても構わん。足りねば家宝でもなんでも金に換えよ!」
「し、しかし…」
「よい!彼の子達の屍の上で、安泰にいられようか。かまわぬ。今回会えずとも、アヌヴィアトに赴いてでも会いに行く!そのつもりで用意を!皆たのむぞ!」
「「「はっ!!」」」
「テクス様、商業ギルドの長、アヴェル様が見えました」
「そうか…姫様はいかがします?」
「立ち合おう」
「文を書くので少し待ってもらってくれ。」…
「いやぁ~どうしたのさぁ~。呼び出しなんか珍しい…!?…て、テクス!おめぇーどうしたぁ!何があったんだ?…!…こ、これは姫様、失礼しました。」
「かまわぬ。久しいな。アヴェル。」
「久し振りだね。忙しいところ悪いな。」
このアヴェルという男、この町の色街を代々牛耳る家の当主だ。この町の顔役の一人で、その手腕をもって、商業ギルドのギルド長も任されている。表も裏も知る貴重な人材だ。
私にとっても、若いころから何かと手を貸しくれる。城外の相談役という立場だ。
「いや、かまわねぇ。で、どうしたんだい、いったい?」
「それも含めて話を聞いて欲しい。」
「ああ…心…だいじょうぶかぁ?」
「ああ、最初から話すよ…」
父上の勇者に対する失態、衛兵の失態、その際に大量殺人容疑、その入手先。関係先の情報提供などなど…
腕を組み、私の話を聞いていたアヴェルが口を開く。
「ふぅ。今なら納得ってぇ話だなぁ。他国の奴隷商が多くこの町に来てたんだぁ。書類上は、”あの”王国行だったから止められなかったが…。それに、色街なんかに流れてこなかったからなぁ。不自然に人が増えればすぐに判るってもんだ。
そんな事だから、てっきり通過してるものと思っていたがぁなぁ…ここにきてたんだなぁ。
ギルドにも妙な通行許可証なんかもみつかったんだぁ。副ギルド長がいろいろ手を回してたってぇ訳だ。ひょっとしたら、そいつらわぁ”卸”と”客”だったかもなぁ」
「そうなのか?」
「ああ、そいつらが、ミッツ…ワイン運びのやつにチョンボしてなぁ。それでギルドは今、ひっちゃかめっちゃかさぁ~出るは出るは不正の山さ。」
「ミッツ?父上や、衛兵が絡んだのもミッツだった…勇者か?」
「…」
「よい。こちらは勇者のミッツだ」
「へい、姫様。こちらもでさぁ~品質チョンボ見破られ大騒ぎってさ。」
「その副ギルド長には会える?」
「ああ、大丈夫だぞ。まだ。」
「まだ?」
「ああ、そいつと組んでチョンボしようとした商会…卸があってな…そっちは今頃…。昨日ひんむいて、オーガの近くに放おってきた。」
「おい。」
「散々、俺のぉ顔にドロォ塗ってくれたんだぁ当然だろ。明日つれてくる。にしても、テクス、なんか柔らかくなったなぁ。前はちょっと、とっつきにくい気配があったがぁ。」
「腑抜けてるのだろうさ」
「そうか…い。」
「勇者殿はまだこの街に?」
「どうだろうか…積み込み終わればすぐに帰ると思うぞ?」
「そうか…」
「ん?まさか…話に聞く供養かぁ?殺されるぞお前さん、彼らは”獣人のいない国”から来てるんで、なんの偏見もない…試したわけじゃねぇが、仲居のひとりを獣人にしたんだが、お子ちゃま二人いたしな、何の問題もなかったよぉ。普通だったら小言の一つでもあるってもんだ、むしろ好きなんだろうなぁ。小さいのつれてただろ?あの子ら、ティネルで拾ってきたそうだ。
会って一週間くらいらしいが…あんなに慣れるか?」
「ん?ちょっと待て?そんなに早く?時間が合わない」
「ええ、普通はね。彼ら、走るんでさぁ魔力纏って。ティネルから二日だそうだ。」
「はぁ?」
「だよなぁ~物流がひっくり返るわぁ。脱線した。そんな短期間で狼人族…しかも牙だ…それが懐くかぁ。孤高の狩人族だ。それが”父ちゃん、父ちゃんってくっついて離れねぇ。それに豹人の方も滅多に見ない種族だが、あれも他とつるまねぇ。家にもあと4人獣人の子がいるそうだ。ホントに愛してるんだろうなぁ。」
それで、えらい目に遭ってるんだが…
「「…」」
「どした?」
「いやな、先のトラブルについてだが、全て彼の”子供”に手を出してな…」
「はぁ、子供に手ぇ出されて黙ってる親ぁいねえぞ。しかも、金も力もあるんだ…そんなことしちゃぁ…」
「ああ、ここだけの話だ、この城壁の対魔法障壁を破壊されたよ…下手すれば地図からこの街が消えるとこだったよ…」
「…まじかい」
「うむ。障壁の無いとこに、たぶん、極大魔法を行使されるところであった。私では止められず、もう一人の勇者、トワ様が止めてくれた。」
「な!ミッツさんがかい?勇者はトワ君だぞ?」
「?うん?ミッツ殿は勇者じゃない?」
「ああ、ついでに呼ばれたっていってたなぁ。もちろん異世界人だが…大方、よほどの怒りで、眠ってた力が解放されたって感じか…」
「「…」」
姫と目をあわせる。まさに触れてはいけない者のようだ。
「…で、国はどうするんです?姫?」
「どうとは?」
「城壁とか、魔法とか?状況が大分変ってきやしたからさ。」
「立ち塞がるのも愚策、登用も愚策、力でなぞは国が消える。今まで通りが妥当だと思うが…」
「それなら結構。国で動けば直ぐにいなくなりまさぁ。この世界にかれらの”故郷”はないのですからねぇ。それに、裏書に、うちの”耳長じいさま”が追加されてたんだ。ここに来る前によっぽど良い縁を結んだんだろなぁ。」
「”耳長じいさま?”それは?」
「エルフだ。商業ギルドでも大変力のある人物だが、政治や戦の表に出てくるとこれほど厄介な人物はいない…その正体は、森林国前宰相…」
「流石、姫様そのとおりで。のらりくらりとギルド長をやってますがね、じいさまの裏書はでかいですよぉ、その気になればエルフの精兵を動かせる…この国を追い出されても森林国が受け入れるだろうなぁ。もともとあすこは”勇者の国”なんだから。」
ふぅ…我が一族が国に仇することとなろうとはな。
本日もお付き合いいただきありがとうございました。またのご来店をお待ちしております。




