大立ち回り。その裏で。「南門の楔」 Ⅰ
いらっしゃいませ~遅ればせながら、ブクマ登録ありがとうございます。
今日は姫様を招いての宴席。
密室にて、昨日の事件の詳細を姫様から聞いた。
勇者の来訪、そしてよりによって、その”勇者”に喧嘩を売るなどと…
その余波で城壁の”魔法障壁”が吹き飛ばされたこと…ふぅ。
今まで、邪魔であった父上には死んでもらったが…状況は最悪だな。
話も終わり、姫と共に宴席へと戻る。皆と合流し、今年のワインを開ける。
「今年のワインの出来はなかなかのようですよ」
「うむ。楽しませてもらってる。」
…ふぅ、ワインが美味い。このまま現実逃避したいくらいだ。
そんな時間もほんのひと時…
「た!大変です!!」
文官が血相を変えて転がり込んできた。
警備?の武官も。
「控えよ。姫様参加の宴ぞ?」
「そ、それどころではありません!街で、街中で狼藉が!衛兵多数負傷とのこと!至急、騎士団、軍の出動要請がありました!」
「なに!相手は!どのような敵だ!」
「判りません。只今斥候部隊を出し、情報を集めております。が、まだ、テクス様への権力の移行が…混乱しています。」
「このような時に……ガルペン、ディシィ準備だけしておけ!姫、申しわけなく。私の不甲斐な 「顔をあげてくれ。緊急事態であろう。我が騎士団も力を貸そう。レリギオ団長準備を」 …ありがとうございます」
「はッ!」
宴会場を対策本部とし、報告が上がって来るのを待つ。
もちろん、酒類は片付けた。
「伝令!敵対人物判明!ミッツと名乗る人族2人と幼い獣人3人のようです!」
はぁ?…。
「どこかで聞いた話なんだが…」
「テクス殿…昨日の御仁だ…例の。」
…なんでだぁ!
一瞬、目の前が真っ暗になる。椅子に座っていなければ無様な姿を晒しただろう。
「…経緯は?」
「…それが…」
「よい!申せ!」
「…衛兵が…獣人の子供に危害を加えようと…」
「は?、その獣人の子供が何か罪を犯したのか?」
「…」
なんだ?この表情は…
「はっきり申せ!」
”がたり!”
立ち上がり、伝令を見下ろす。いらだちが、声を大きくする。
「…いえ…目撃者の証言ではいきなり首に縄を掛けたと…」
”ぐらり”
…膝を着く寸前でガルペンに抱き支えられる。
「…何の落ち度もない子供の首にいきなり縄を掛けたというのか?下手をしたら死んでしまうぞ?」
…これで怒らぬ親はいない…というか”人”はいないな。
「…これがこの街の日常か?」
「「「…」」」
「申せ…」
「「…」」
「伝令であろう。この街の事、知っておろう?」
「「…」」
「…そこまでとは…申せ!申せ…斬る…ぞ。」
”ざっ”
ディシィが跪く、
「私が情報統制をしておりました。罰は…いえ、主を謀かった罪、この首で!」
あ!懐からナイフを!喉に…
”きぃん!”
姫様の抜き打ち一閃!ディシィの手の内にあったナイフが、金属音を放ち飛ばされる。
「よい…それほどまでに。ということなのだな…」
「御意、先代様の御意向が多々あり、治安に混乱をもたらしております。」
「死はゆるさん…私の横に侍り、今の現状、町を建て直せ。よいな」
「…御意」
「エキドレア卿。急いで現場に向かおう。昨日の今日。二日続けて子を害される扱いを受けておる…まにあうとよいが…エキドレアが地図から消えるぞ。」
!そうであった!姫の一声で我に返る。こんな茶番打ってる暇は!
「今より街に行く続け。」
なんてことだ…
用意された馬に跨り、騎士団と共に現地に向う。
「でかいの一発かますぞ!その後…」前方の人垣から声が!
「ちょっとまってくれ!敵対の意志はない!剣を引いてくれ!」
と並走していたレリギオ団長が叫ぶ!
「…了解した。昨日の騎士殿か?交渉はここで?領主館で?」
この男がミッツか?ただの中年にしか…
「ここで良い。そこの者どもは生きておるのか?」
言われて遠方に目を凝らす…
そこは地獄のようであった。両手を肩からなくした衛兵達が芋虫のようにのたうち回っていた。泣きわめくもの。許しを乞うているもの、死人の目でただ、ただ笑っているもの。
皆腰部で縄で繋がれていたが、一人だけ首に縄が回されていた。おそらくこいつが問題の発端であろう。キュっと引っ張りたい気分だ。
傍らに絶望した表情の、腕がはあるが数珠つなぎになってる者達が座り込んでいる。後発隊だそうだ。
その後発隊の隊長は右肩を槍で破壊されそのまま地面に縫い付けられていた。
問われた中年男性が答える。
「さぁ?悪いことにしか使わない腕だ。いらんだろう?斬り飛ばして止血した。後はしらん。」
と。確かに、血は出てはいない。よく見ると焼けただれていた。不快な臭いの正体はこれか…吐き気が。
「であるか。じゃまだ、詰め所にでもぶち込んどけ。隊長格のものはこちらへ。女将すまんが、大きい机と椅子をそうだな、10脚出してもらえぬか。飲み物もあれば助かる。もちろん手間賃は払う。」
ここで話を付けるのもいい。先ほどから衛兵に対する市民の”怒り”の声が聞こえてくる。
「おっさん顔にでてるぞ?」
「めんどうくさい。まじで。お姫様もでてくるぞ?」
不遜な態度も頷ける。もう、うんざりだろう。
「無礼者!この、へぐ!”ずがぁあん”…」
壁に騎士が生えておる…。
「すまないな、この状況を分かってない阿呆で」
蹴りの体勢を維持してる姫様。少々呆れ顔の勇者様方…
テーブルを並べ、テーブルクロスをかけただけの即席の”会談場”ができた。こちらには姫、私、レリギオ団長が座り。ガルペン、ディシィの二人は私の背後に控える。
向かいには、”勇者”二人と、かなり出来る豹系の獣人の青年…少年か?、よく似た二人の狼系の獣人の兄弟?
机の両端に獣人の老人、人族の恰幅の良い女性が座る。
「会談を受け入れてくれて礼を言う。先日も名乗ったが私はこの国の第二王女、リュラータ=フィカス=ノリナという。良しなに。」
すると中年男性が手を上げる。
「先に良いでしょうか?お姫様。私たちは王宮で使うような礼儀を修めていません。ご無礼お許しください」
言葉を遮るのは下手だが、
「礼儀など不要!いわば、戦後の会談だ。立場に上下はない。むしろこちらが敗者のようだ。」
上手いことを言う。確かに戦に負けたのだな。防衛機能も葬られてしまった。
「では、遠慮なく。先ず”あの”領主様のお姿がお見えにならないようだが?この状況で話を進めて良いのでしょうか?」
それはそうだろう。この街の責任者だ。どれ。
「問題ない。父が色々と迷惑をかけたようだ…申し訳ない。」
ここは少しでも印象を良くしておく必要があるな。誠心誠意。
「頭をお上げください。許される所業ではないので。」
だな。人の所業ではない。ぐうの音もでないではないか。
「…うむ。それで父は今朝”病死”していただいた。本人の口からの詫びができない。まぁ、あれは悪いとも疑ってないがな。忌々しい…あ、失礼。私は、テクスティリス=ムーサ=エキドレア、テクスと呼んでくれ。俺が父、サジャックに代わり、ここの領主となる。で、こいつ等が腹心のガルペン、ディシィだ。」
愚痴が出てしまう…
「私はミッツ。しがない商人です。で、」
商人?
「俺はトワ」
「あとは私の息子、雹、ライ。カイ。です。そちらの方がこの街の獣人を束ねるバァルゥムさん、で、こちらの女将さんのサリサさん」
彼らは街の事を訴えたいそうだ。命をかけて…
「で、此度の、経緯、聞かせては貰えぬだろうか。」
と姫。苛立ちを隠そうともせず、ミッツと名乗った男が
「今日は、突然衛兵が現れ、ライの首に縄を掛けました。それを止めようとしたカイをもう一人が”笑いながら”殴ろうとしたとこをトワが止めました。間違いがあると困るので、縄の屑の動きを雹が牽制、その子を縄から救出しました。ここまででなにか?」
「いいや。ほんとうなら…」
「ここで嘘など吐きませんよ?」
”そうだ!””みてたぞ!””前にもあった!”…くそ!
「続きをお願いできますか?」
「では。この屑に”罪状の確認”を行ったところ。理由はないそうです。あえて言うのであれば”獣人の子供だから”でしょうか?懐のナイフが危険と言い。制圧するそうですよ?
で、そこにいる屑が10人を率いてやってきました。開口一番『捕縛せよ』だったので、罪状を聞くと”暴行罪”だそうです。押さえてるだけなのに。”子供たちに対する暴行”について問いただしたところ、”獣人”だから許されるそうです。親子の書類、まだ、”仮”ではありますが…商業ギルド長の裏書もあるものです。これ等の書類はこの街では無効、”仮の親子申請は犯罪”と申されました。真偽を質したところ”そちらの屑の判断で有罪”、剣を抜いて襲い掛かってきました。やむを得ず、反撃した次第です。ここまでは?」
「「「…」」」言葉も出ない。
”そうだ!””当然だ”
「では、とりあえず、落とし前を付けてもらう…いえ、今後の話をしようと領主館に出頭しようとしていたところ、後続隊が到着。出頭するとしたが、立ちふさがったので排除しました。残りの隊員は戦意消失していたので縄で縛りました。で、今ですね。」
「何がいけないんです?獣人でしょう?」
と教会の法衣を纏った3人がギャラリーから現れる。これで機を得た人族至上主義者が声を上げる。な、なんと醜い!これが宗教?あまりにも醜い。
「…あんた?そんなに偉いのかい?」
すさまじい殺気が…坊主共には伝わっていない…英雄のように一部の屑共の声援に酔っておる…
「さがれ!その方らは呼んでおらんわ。聖職者殿、人と獣人の違いは?」
「人は神に愛されております!獣人には神の加護がありません!」
「どのように加護の有無を?今、貴殿にナイフを投げれば当たらないと?」
「私は未熟なので当たりますれば。上位者は」
「…よい!下がれ!」
連行されていく。害悪だな。この国から駆逐したいが…
姫様を見る。表情からうかがい知れない…が…
状況により、正当防衛は、認められる。父上なら無礼打ちとでも言いだすのだろうがな。
罪なきことを明言し、一応の解決を見る。
その後、バァルゥムなる獣人の老人が訴えてきた。今までの惨事、特に差別の現状を語り。衛兵たちの横暴等々。多くの命が奪われてきたと。
そして同じ人族の食堂女将の口から前領主と、衛兵が結託しての悪事が暴露される。無銭飲食なんて可愛い方だ。中でも女性に対する扱いがひどい。犯されるから他の村に逃がす?はぁ?衛兵は、門で止めずに、逃がしたふりをして追跡、誘拐。犯して身代金、最悪殺した例も。同じ人族でこれだ…聞くに堪えん!鑑定石に触らせたらどれだけの罪人が出るだろうか。
それからミッツ殿に、
「あれだけの権力主義者だ。数人の男娼だけで満足できまい。それに違和感…私の子に向けられた目はねじれた愛情ではなく”物”のようだった…。まだ何かあるかもしれない…。嫌な予感がする…
アンタの処の地下牢とか隠し部屋とかあれば探してみろよ…まだ間に合うかもしれないぞ。」
?そう言われてハッとする!
「す、すぐに屋敷を調べよ!、…離れ…離れを!地下もあるやもしれん!急げ!」
まさか、誘拐した子や、攫った娘達を?そして、”モノ”?
今は何もわからない…そして、この後…ああ…何とおぞましいことを…。
そして、ミッツ様は、
「今回の貴族殿の件で覚悟が決まりました。立ちふさがれば…斬り倒してでも進みますので。では」
そう言い残して去って行かれた…
眠るドラゴンを蹴り起こしたか!恨みますぞ父上。
「ふぅ、どうであった。」
幾分疲れた表情の姫様。
「…触れてはいけないものに触れたようでございます。」
「ああ。そうであるな。」
「街の再建、信用の回復に力を入れますよ。」
「ふむ。家長継承の儀、叙任式も盛大に行わねばな。不謹慎だが、貴殿の父上の罪状が出れば出るほど評価も得よう。」
「…お言葉ですが…もう、いっぱいいっぱいですよ。これ以上出たら降爵、いえ、お家断絶ものですよ…」
「その辺りは私も推薦状を認める。心配するな。」
本来であれば…降爵…いや、お取りつぶしだな…
この時は未だ、気楽でいられた…。
本日もお付き合いありがとうございました。またのご来店をお待ちしております。




