異常事態発生!緊急配備急げ!どこ行ったんだ?クソオヤジ!「南門の楔」
いらっしゃいませ~
「遅いな…もう一度、伝令を使い位置の確認、再度書状を届けよ」
「はッ!」
「父上はどうした、当主として、居てもらわねばならぬぞ!」
「はい、直に到着との先触れが来ております。」
「わかった、厨房のほうはどうか!」
「滞りなく」
「うむ、今日は”烈火姫”の慰労会だ。ぬかるな。」
「はい」
今日は第一王女、リュラータ姫を招待しての宴だ。
かの王女、可憐であられるが、内は苛烈!ここ一週間、騎士団”紅蓮の騎士”のみで野戦演習を行っている。野宿、食材も現地調達と私では耐えられまい。
「大変です!テクス様!」
そう、私はテクスティリス=ムーサ=エキドレア、ここの城主の長子だ。
「いかがした?」
駆け込んできた技官に問う。こんなに慌てた様子…初めてであるな。
「城壁が!対魔法障壁が、破壊されました!」
はぁ?建国以来、難敵を撥ね退けてきた城壁ぞ!
「な!なに?誠か!どこから侵略ぞ?」
姫…?
「いかん!姫が城壁外におられる…姫を狙った襲撃?いや、この城の障壁を破壊するなど魔術師大隊をもっても不可…いやしかし…」
「テクス様!」
「ええぃ!とにかく一級防衛配置!第一騎士団に姫の安全確保を!伝令、偵察を全て出払え!状況次第では住民避難を発令!情報は逐次!」
「「「「はッ!」」」」
これであとは大局をみれば…
「どの方向からかは分かっているのか?」
「いえ…王都に馬をだしますか?」
「うむ、障壁は国家防衛の要、知らせぬ訳にはいくまい!念のため同じ文面で3馬だせ!」
「はっ!」
「逐次、情勢も判ろう。早馬隊は招集、待機を!」
「「はッ!」」
…ふぅ。状況次第では緊急連絡で知らせるか。
「誰かある!父上はまだか!」
「はい…未だ行方が…昨日より近くの村の視察とか…」
「こんな時に…」
父である現当主、サジャックは少々こまった人物だ。貴族主義に凝り固まった老害と言ってもよい。無礼打ちで果てたものが何人いようか…。視察?はん、人を人とも思わぬ男だ。権力を笠に好き勝手やっているのだろう。
此度の責任をもって首になっていただくか…。ついでに、側室、その子も…父同様貴族主義者だ。この街には必要なかろう?親殺し?ふん!性欲に支配されたゴブリンかオークのようなものだ。
…その血が俺にも流れてると思うと…死んだ母上の血で相殺、浄化されたと思いたいわ!
「…ガルペン、ディシィ!」
「「はッ」」
この二人は私の頭脳と腕だ。
「此度の件、父上が間に合わねば…」
「「はッ!」やっとこの日が」
「まだ、早いわ。それにしてもどうなっておるのだ?それに、この城壁の術式の復旧は叶うのか?」
”城壁結界”管理担当技官に問う。
「はい。同じ術式は同城塞都市にありますので復旧は可能かと。ただ…」
「ただ?申してみよ!」
「はい。核の魔石が割れてでもしたら…」
「どうだというのだ?」
「復旧は出来かねます。」ふぅ…
「交換すればよかろう?魔石など…」
「…エンシェント・ドラゴンクラスの特上魔石です。そうやすやすと…」
?はぁ?いまなんと?
「ど、え、そ、その方、今、エンシェント・ドラゴンと申したか?」
「…はい。王城に予備があるのかはわかりかねますが…当代でドラゴンを狩ることのできる英雄など…かの王国が召喚した異世界の勇者ならば…」
「その前に、ドラゴンの姿自体、見なくなって久しく。存在自体確認されていません。過去に勇者様に倒されたもののみと思われます。」
ふぅぅぅ…民間には出回ってはおるまい。金策ともに頭の痛いところよ。
「恐ろしく高価であろうなぁ…」
「はっ!おそらくは。」
ふぅ。
「た!大変です!」
ったく!今度は何だ!
「今度はなんだ!侵攻か!」
「…いえ…当主様と書状が…届きまして…」
「父上?何をしてたのか!さっさと連れてこい!」
「…それが」
「なんだ!」
なんだと申すか!
「ええぃ!解るように説明せよ!」
「ま、先ずは、書状を!」
「テクス様…」
いさめるように俺の腕に手を置くガルペン…。
「わかったわ!ここに。」
封蝋を見る…王家の紋章?姫様か?ふむ…
「な。な?な!!…なぁー」
皆が見守る中、恥ずかしながら己の驚愕の叫びが響く。
「「テクス様!」」
「ぼ、防衛配置、解除…至急以外の、者は休め。王都に馬を…侵攻はなし。と。」
「「はッ」」
「ガルペン、ディシィ、これを読め…」
「では「…」」
…。
「なんと。」「まさか…」
「で、拘束されておるのだな?」
「は、はっ!」
「…そのまま、北の塔に閉じ込めよ!こちらはディシィその方が当たれ!」
「はッ!」
「義母と、その子、取り巻きの子爵、男爵はガルペンその方にまかせる!」
「はッ!」
「当家の存亡は、皆の働きにかかておる!征け!」
その日の内に全ての処理が終わった…父上、義母とその子、一部の子爵の当主には”病死”してもらった。流行り病は恐ろしいものだな。
問題のある取り巻き連中もみな消えてもらった。強盗や、怨恨で。
父とやりたい放題だったからな。
今日は我が町の治安が最悪だな。貴族がバタバタ死んでる。警備担当者にねぎらいの言葉でも掛けておくか…。ふ…これで大分金庫も潤おうだろう…魔石代の足しになればよいが…
「ようこそおいでくださいました。姫」
「招待、ありがたく受ける。エキドレア卿?でよいのだな?」
「はい、姫。父はあの後、流行り病で…急に。」
「さすが”南門の楔”と言われる御仁であるな。今日は騎士団ともども馳走になる!」
「ははぁ!」
…翌日、姫様を迎えての宴を開くことができた。当主としての初仕事だ。此度の件、聞いておかねばならぬことが…
「…そのような事でしたか…その御仁の主張のままですね。」
「ああ、人族と獣人とはいえ、親子の契りを交わしているのに、子をよこせと…人でなしだな。果し合いさせたかったぞ。」
「その方がスッキリしますね…しかし、王法で禁止となって久しい。民衆の報復手段としての復活の声が多いのも事実。」
「ああ、当時は戦時、戦後故、貴族の数が足りなんだ、今は老害や法衣と溢れておる。復活も良策とおもう。」
「半数位になれば…っと失言ですな」
「妥当なところであろう?貴殿は大丈夫か?復活と同時…なんてことでは洒落にもならんぞ」
くつくつと笑う姫。
「そうならぬよう、精進してまいります。ところで、姫」
「うむ?」
「対魔法障壁の件ですが…」
「聞きたいか?聞いたら口外無用の誓いをしてもらうが?」
「…はい。」
「場所を移そう…」…
「ここは防音の結界があります、そちらは?!レ、レリギオ侯爵?」
騎士団長?お目付け役か?
「問題ない。全て知っておる。」
くいと顎を向ける。
「わしは”紅蓮の騎士団”団長、レリギオだ、今は姫様付きの武人である。」
「では、噂によると、果たし合いを姫様が止めたとか…」
「いや、違う。」
「?では騎士団が?」
「いや、わしも一歩も動けなんだ」
「?民間人では?」
「彼らは人族2人、獣人3人のパーティ、親子だったのだ。で、問題は人族2人。一人は全然強そうに見えない中年、もう一人は思い出すだけで背筋が凍る…あの目。」
姫が語りだす…あの気の強い姫様が?
「ですな、我々はまだしも、そなたの父を見る目。只ならぬものであった。愚鈍ゆえか、恐怖しか感じてないようではあったが…普通の心を持つものなら、自害しておったろう。」
と侯爵が続く…目の力だけで自害?どういうこと…だ
「魔法障壁を破壊したのは中年の方だと思う。あの怒り。吹き出す怒流。それだけで体をどこかに持っていかれるかと…」
姫様…真っ青な顔色よほどの…
「その怒りに魔力が乗った…しかも濃密な、無尽蔵な…あたかも伝え聞く”龍脈”が具現化したような…」
「姫を守るために身を挺して止めようと思ったが…もう一人の殺気で騎士団総勢30人精鋭が一歩も動けなんだ。実際、動けば皆斬られていただろう…」
「そこまでの…」
「おそらくだが、その”怒れる龍脈”が魔力を魔法に変換した際に障壁が破壊されたのであろう。ワシ自身も消し飛ぶとおもったわ。おそらく封鎖型の積層魔法陣、失われし極大魔法の類であったのだろう…」
「そ、そんなものが…実際…」
「ある。彼らは、ディフェンヴァキュア王国が最後に召喚んだ”勇者”なのだから…」
は?行方不明の?
「ゆ、”勇者”様?、そ、その魔法は…」
「もう一人の勇者が止めてくれた。」
「放たれていたらこの街は地図から消えてたであろう。比喩ではなく城壁一つ、民一人残さずに…封鎖型でなければ…王都も半壊?まぁ、予想で申してもせんなきことか。」
「…」なんと…
「家族を理不尽に、物のように奪おうとした貴殿の父の態度が引き金になったのだ…私たちも近くにいたが、王国貴族としてどれほど恥ずかしい目に遭ったか…貴殿にも是非一緒に恥じてもらいたかったぞ。」
「くれぐれも探し出して騒ぎ立てたりせぬよう。情報によると放っておけば問題ない人物のようだ。…姫様も。」
「ふん。聞いておるわ」
「か、彼らの存在は?」
「王族と一部の貴族、ギルドの長と彼らの友人達くらいか…貴殿も頼むぞ。」
「はっ!」
「今回の損失はその方の一族が原因、国から金は出ぬ。此度の迅速な粛清見事!このことも加味して父王に報告する。エキドレア卿には処分はあるまい。」
「ありがたき幸せ」
ふぅ、吉と出たか…しかし、あのくそオヤジの”病気”で一族が街ごと消え去る危機に直面するとは…。
「姫、まだ未確認なのですが、防壁陣の核の破損が確認された場合、魔石の購入はできるでしょうか?」
「王都の予備か…厳しいであろうが…国防の要。一応防壁の統括に口をきくが…高いぞ?」
…だろうさ。くそ!
「はっ!、では、皆の元に戻りましょう。」
…暫くは節制せねばな。
本日もお付き合いいただきありがとうございました。またのご来店をお待ちしております。




