ドワーフって言ったら酒宴だろ?何言ってんだ?(トワ氏談)
いらっしゃいませ~
マシュー女史との会談を終え、ギルドにある、掲示板に。
そこに鋲で打たれた依頼票にざっと目を通していく。
伝票から読み取れるのは、周辺に散在する村、かなり距離のある町。それぞれに掛かる時間等。
…結構離れてんな…まぁ、実際動いてみないとなぁ。時間は馬車ベースだろうし。
今日はもういいかな。武器もないし、懐も温かい…買い物しながら宿に帰ろうか…
小売店や露店を覗きながら過ごす。思ったより物価は安いな…そう比べると今のお宿…お高い?良く考えれば風呂もあってめちゃ清潔…現代日本の宿と比べてTVの有無位だものな…納得の高級宿だ…。
まぁ、それでも一泊飯付きで10000円位なんだから良いのかな?
「どした?おっさん?」
「いやね、今のお宿は高級店なんだなぁってさ。」
「…言えてるな…この物価で、俺たち現代人が普通に泊まれるんだ…この世界じゃ高級なんだろうな…まぁ、今更、小汚いとこに行くのは嫌だぞ?」
「まぁ、ね。それ以上に稼がんと破綻するぞ。王国金貨、あとどれくらいあるの?」
「王国のは金貨20枚くらいだな。ちっこいのが、30くらい。」
「で、今回の75枚…か…稼がんとな」
「まぁ、得物もないし。今日は飯食って寝よう!」
「ははははは。だね。野営に必要なものもそろっているし。生鮮野菜くらいか。後で買うの。」
…野菜を適当に仕入れて孤児院に寄ってから帰ったよ。ちょこっと顔を出す程度だけどね。野菜を置いて来たよ。肉のが良さげだけどな…
昼からグローヴィンさん所に来ています。ん?あれ?鍵かかってる?”どんどん”ノック。
「グローヴィンさん、いますぅ~」
「おっさん!いるか~!」
ちと来るのが早かったかな?
”ガチャリ”お?
「おうおう、トワたちか。入れ、入れ。」
「いや、整備の物を… 「ん?忙しいのか?」 …。」
「全然未定!なんか面白いことあるか?グローヴィンのおっさん!」
「…おじゃまします。」
で、ご入店。ん?なんか酒臭いが…まさかね。まだ昼だし…。うん?
そこにはもう二人、THEドワーフがいた。
「おう、こいつはブロールだ。で、これがフロイダンだ。」
でゴブレットを捧げる…飲んでたんかい!こんなはよから!
「トワです!」
うきうきだな。トワ君…
「ミッツです。はじめまして」
「ブロールだ。主に鎧をこさえとる」
「フロイダンだ、ワシは剣だな。合金の研究もしておる」
「で、おっさん達昼間からなにやってんだ?酒宴?」
「いんや。この前もらったインゴットの考察じゃな。いろいろいじってたんじゃ。で、今は休憩じゃな。ま、水みたいなもんじゃて。」
酒だろが!
「こ奴らか…持ち込んだのは…」
「ふむ、何処に…いや、野暮だな。」
「宝物庫から 「トワ君!」 あ…」
「差し詰めディフェン辺りからかのう?」
「…」
「察しはついておったわ。なかなか見ない人相。黒目と黒髪。特別な”収納”…”勇者”様の伝承通りとな…。」
ふぅ、ガッツリ、バレていなさるわ。もはや、ここまで?
「心配せんでいいぞ。ここにおるのは信用できる。国より酒じゃ。手配書も来たが…関係ないぞい。」
「ふむ。人相書きはなく特徴だけであったが、言い得て妙だのぉ。ぴったりじゃ。」
酒なんかい!
「おっさん、俺、信用してもいいと思うよ。」
「う…」
”バンバン!”
肩痛いんですけど!フロイダンさん!
「膝突き合わせて飲んだんじゃ。ワシらは友じゃ。召喚陣の件もやんわりと聞いてるしの。」
うんうんと頷くドワーフたち。
「”勇者”トワが信用してます。これからもよろしくお願いいたします。」
「うむ。うむ?でお主は?」
「まきこまれ?ってとこですよ。オマケですオマケ。そうそう、商業ギルドのマシューさんも知ってます。」
「ふむ。オマケにしては…」
「にしても…ことごとくバレるなぁ」
「ん。まんまじゃからのぅ。」
「うむ…。」
困った顔のドワーフたち。
「おっさん、真剣に変装考えないとだね。」
”ぐい”と…飲んでんのかい!
「そうね…ここって髪を染める薬とかってあるんですか?」
「ふむ。あるぞ。だが…」
「だが?」
「…薬が強すぎてのぉ。人族ならハゲるぞぃ」
「「却下で!」」
「フルフェイスかぶるかの?」
”ぐび”ま、おいらも火の酒は嫌いじゃない。お?いい匂いが…
「ふ~むぅ。刈るか。人相も変わるで。」
「い、いやですよ…」
「おれ、モヒカンにすっかな!ひゃっは~!」
やめなさい!お!ソーセージの盛り合わせと乾酪?カチカチの乳製品がでてきた。
「われらの自家製腸詰じゃ」
「うちのはさっぱりしてうまいぞ!」
「ふん、脂がいいのじゃ。脂が!お前んとこは、ぱさぱさ、しわしわの、ばばぁか!」
「なにおぅ!」
…各家庭でこだわりがあるらしい。あれトワ君どこいった?
「おまた~」
って、猪ステーキか?BBQの残りの。まだあったんかい。
「ほうほう。うまそうじゃの。猪か?」
「レッドボアだっけか?おっさん?」
「そだね」
自分で鑑定しろよ…
「高級肉じゃな。いただくぞい」
「じゃ、俺、そーせーじー♪」
ソーセージ旨。癖のつよいチーズとの相性もいいな!ここはビールか水割りがいいな。”どん”
「自家製のエールじゃて。」
お!エールか…ん?アルコール濃度も高い?こ、コクが凄い。
「…う、旨いなぁ」
「だろう。ドワーフ製以外のエールは色のついた水じゃ。」
「うんむぅ!他のエールなぞ馬の小〇じゃな」
…おいおい。
でも現代のビールに近く口当たりがいい。”どどん!”
「じゃ、火酒とワイン、追加ね~」
「「「おおぅ!」」」
こりゃ今日も休暇だな…てか、どんだけ持ってきたんだ? ま、聞いたら聞いたで、『あっただけ』『全部』だろうけどね。
”ぼむ!”もくもく、ふしゅーーーー!と白煙を鼻から出してるドワーフ達と酒盛りをしてる。…そう、例のキノコだ…”ぼほふぅ!””ふしゅーーー!”…。
「でな、メガネもいいと思うがの。」”ぐび”。”ばっふぅ!”
「獣王国なら、猫耳とかでごまかせるが…この国じゃかえって枷になるのぉ」”ぐびり”。”ぶふっ!”
「お手軽じゃと…メガネかの。これかけてみなされ。」”ぐびり””ぐびり。
ドワーフのおっさん達…忙しいな。ぜんぜん集中できんわ!
「おお!”ぼぼぉおおふぅ!”」
余程口に入ってたのか、爆破成分が多かったのか…ブロールさん。おいらに眼鏡を渡した直後、大爆発だ。
その勢いで、ぶっ倒れて、口と鼻から白煙が上がっている。…生きてるのか?微動だにしないけどぉ!宴会で爆死?
「だ、だいじょうぶ?です?」
むくりと起き上がり、再び蒸留酒を煽るブロールさん。酒盛りをやめるという選択肢はないようだ。
「すげーなぁーそうやって食うのか?もくもくだな!歯飛ばんの?」
トワ君の心配もわかる…が、当人たちが楽しんでいるのだ。良いのだろうさ。
早速、眼鏡をかけて…いや、”装備”だな!
「あ、度ついてるんですね。ついてないものってあります?歪みもこれくらいなら…」
いたって普通のガラス製の眼鏡だ。奇麗に薄く磨かれたガラス。軽い。
「…ワシ手製じゃ。たかいぞい?」
とブロールさんが。先の爆発も大して影響がないようだ。おいらなら、鞭打ちになるだろうなぁ。その前にトワ君の言う通り、歯が飛ぶな…。しかし頑丈なおっちゃん達だこと。ドワーフ故か。
で、この眼鏡。うーん…一つくらいいいか。
「お願いします。」
「ふむ。あとで金額は決めようかの…」
「それくらい作ってやれ、このしみったれ、ジジィめ!」”ぐい”!
「~~~!魔石の良いのがないんじゃ!」”ぐびり””ぼっふん!”
「付与で瞳の色を変える術式込められるかのぉ?」”ぐびり”
「試してみるか」”ばふ!”
また、ぼふんぼふん始まったわ…
「あとは髪じゃぁのう。人族用の無いか聞いてみるか」
「ドワーフの皆さんも染めたりするんですね。」
「ん?髭用じゃ。」
「なるほど…」
髭用かい!ブロールさんハゲだもんあ。
「ん?髪より髭じゃぁ」”ぼんふぅう!”
おふぅ。ハゲ視線はどこの世界でも察知されるか。とりあえずおいらはローブをすっぽりかぶることにした。
「でじゃ、トワの剣は終わってるぞい。」
と鞘に収まった剣をなぜか、おいらに渡す。
「変わった鍛え方だの。欠けやすいからあまり硬いのはだめだぞい?しっかり魔力を纏わせてからじゃ」
「魔力をこめてみよ。」
お?鍛冶師の視線?
「おっちゃん。剣が暴走しちゃうよ?」
「ほう…ならばええというまでじゃ。」
「…充填!にっかどぱわ~!」
剣の柄の部分にある魔石と思われる宝珠に右手を翳し、魔力を送り込んでいく。”チリ!”心地よい刺激が、指先に走る。
おいらの魔力を喰らい、見る見る輝きを増す、魔石。切先から、白色のオーラが、剣の息吹のように噴出する!
「ほほぅ…」
「ほ~~う」
おいらの”魔力譲渡の儀式”に感嘆を漏らすドワーフ達。
「ふむふむ。そこまでじゃ。」
ふぅ。かなりの魔力量持っていかれたな…
手を翳すのをやめても輝き続ける魔剣。だいじょうぶか?何時ぞやの魔剣みたいに…
「言うだけのことはあるの。大したものじゃ。…で、次じゃ、トワ。これに魔力をこめよ。」
「ええ!爆発しない?」
「大丈夫じゃ、ほれ。握っての。」
「わかった。んじゃ、行くよ~…まだ?」
早いよぉ!トワ君!
「まだまだ。」
「くぅ~~」…
「もうええじゃろう。」
魔剣から手を放し、膝を突くトワ君。
”とくん”ん?魔剣から鼓動?まさかな…が、トワ君色に染められた…というか、くすんでいた”白”が輝きを取り戻し、本来の色を取り戻したかのようだ。
「ふいいいぃ。しんどぉ。」
「魔剣の息吹が聞こえるかの?トワ。」
「これで、トワの剣じゃ。使用者登録みたいなものじゃ」
「休止してた魔剣の波動。伝わるぞい…喜んでおるわ。やはりこうでないとのぉ。」
魔剣の白濁した魔石が真っ青になってる。”とくん”…生き返ったのか?しかも”存在感”が…
「す、すげぇ…これが本当の魔剣か?」
「魔剣もトワを認めてるようだのぉ。」
す、すごい…
「い、今までの魔剣は…な、なんだったのでしょう?」
「整備もろくにされず、ぞんざいに使われたのだろう。」
「すっからかんで死ぬ、消滅する寸前だったのであろうのぉ。ほれ、全然違うじゃろ。」
「うんむうんむ。これだけの魔力を食う機会なぞ、そうそうないでなぁ。良かったわい。」
「死ぬ…剣にも死が…」
「形は残るが、からっぽだの。」
「そうじゃ。この剣はなんとか間に合ったようだの。」
「戦いで折られるならともかく。宝物庫で朽ちるのはの…。今もな。王族やら、貴族の連中が、無駄に腐らせておる…森林国…いや、ワシらの国でものぉ。それだけ管理に手間がかかるでの。」
「ふん!普段から、腰にさげ、語らえば良いのじゃ!大した実力も、魔力も無く、暖炉の上に飾っとるからそうなるんじゃ!まったく!」
鼻息荒く、怒りだすグローヴィンさん。
納得だ。彼らにしてみれば、魔剣であれば良いのだ。それが例え、魂のない抜け殻であっても…
「すげえぞ!…あ!あの剣も…」
「あの剣?」
「実は…もう一本あって、…」
ドワーフの鍛冶師たちに、彼の国脱出の折りに、召喚陣の中枢のクリスタル柱を破壊する為に一振りの魔剣を使ったことを聞かせた。
「ふ~む…その剣も本望であろう。宝物庫のゴミにならんかったのだから。最後に勇者の手に収まったのだ…誉じゃて。」
「うむ。よい生涯じゃて。ありがとうの。トワ。」
「うむうむ。トワが忘れずに覚えておればよい。」
本物の鍛冶師だなぁ。剣を失ったことを責めるでなく、その剣の生涯を讃えるとは。
「ああ、わかった。忘れないよ、俺。」
「まぁ、忘れようにも禍々しかったからな…あれ。」
っと、余計な事を言う、おいら。
「ふむ。どんな形状だった?」
…おふぅ…興味を持たれてしまった…
「ええ~と……」
描き描き…紙に、見た目が少々アレな、”失われた魔剣”を描いていく。
「これは…」
「なんと…」「…」
なんぞ?ご存じのようだ。まぁ、特徴的ではある。
「ふぅ。この剣は前召喚勇者が振るってた”邪剣”じゃ。まだ残ってたんだのぉ…」
「消し去るべき一振りじゃ。よく取り込まれんかったの…トワ…」
…”邪剣”?そんないわく付きの剣だったのか…
「う~ん、持った感じ、そんなに悪い気がしなかったよ。むしろ、犠牲になることを望んでたような…力を貸す…そんな気がしたなぁ。」
「そうだね。みんなと還ったんだよ。最初は普通の剣だったんだ。たぶん。」
「ふぅむ。自ら終止符を打ったのかもしれんの。」
「うむ。勇者召喚…あの国に一矢報いたかったのかもしれんのう。勇者の念かのぉ。」
「うむ。ギルドの剣史における”邪剣”取り消し申請しておくか…良い”魔剣”じゃったと。」
また爆弾だったようだ…ほんとにいろいろ起こるなぁ。
おちついたところで…
「それでミッツ殿の方だが…この槍ももっていけ。」
整備に出していた10本の槍を収納後に、新たに白銀の槍3本の槍を渡される。
「この街にある今一番の槍じゃ。いざというときに使うとええ。」
ほぅ。綺麗だなぁ~良し悪し?そんなのおいらにゃわかりません!グローヴィンさんが、良いというのだ。良いものなのだろう!
「こんなすごそうな槍…お高いんでしょう?」
「いや、インゴットに比べれば安いもんじゃ。これから研究も進む、もっとええのも作れるようになるだろう。」
「心配いらん、ギルドからの提供じゃ。先行投資じゃ」
「とりあえず使ってるとええ。防具も観てやろうさ。」
「勇者ご一行様じゃ。良い素材も持ち込んでくれよう?」
「ええ~魔王討伐なんかしないよ!」
「カッカッカ。戦争になるぞい。勘弁じゃ。」
「インゴット置いていきます?」
「いや、この前ので十分研究できる。とりあえずは再現。その後の研究に期待じゃ」
「ああ、コレをもとにさらなる合金を目指すのじゃ。今までの研究と併せての。」
あ!そうだ。
「そうそう、これに刃ってつけられます?」
”収納”から魔石ナイフを出す…
「お、お主…なんちゅうことを…」
「これは…」
「こ、これほどの魔石…」
ふふふ。見てくれたまい!
「「「もったいない!」」」
おふぅ…。笑うなよぉ。君も同罪だろう!トワ君!割ったことは黙っておこう…
「これはワシらの手に余るの…」
「ああ、エルフの得意の”付与”の媒体になるじゃろ。」
「付与師の仕事じゃのぉ。」
そういって返してきた。”付与”か~エロフ…じゃなかった、エルフね。
早く出会いたいものだなぁ。むふふ。
本日もお付き合いいただきありがとうございました。またのご来店をお待ちしております。




