554 覗き穴付き高級宿をとりぼったくり高級料亭に行く
大体今までの経験からすると真っ直ぐ歩いて行くと中央広場でその周りに商店や宿がある。観察ちゃんがそうだと言っていますが、宿はみんな怪しいという話だ。
天井とか、壁が二重になっていて、間を人が通れて客室を覗ける覗き穴があるのだそうだ。よく調べたね。いい子だいい子だ。
なぜか皆シラーっとしている。
それでは行きますか。覗き穴付き宿屋。一応広場に面した高級宿だ。
しかし、この国の人は目つきが悪いな。品定の目だな。売り飛ばそうということか。
高級宿に入ると作りは一応今までの国と同じだ。フロントがある。
エリザベスさんが行った。
「一泊したいのですが、部屋は空いていますか」
カウンターはこれも目つきがよろしくない男が返事をした。
「いらっしゃいませ。何人様でしょうか」
「大人5人、子供5人」
「大部屋と個室がありますが」
「大部屋でお願いします」
「料金は前払いになります。塩か砂金でお願いします」
「では塩で」
「拝見」
ブランコが掘った塩をエスポーサが出した。
「なかなかいい塩だ。どこの塩でしょうか」
「サルメウムの塩です」
「あそこは塩は枯渇と聞きましたが」
「そうですか。たまたま手に入れました。流通していたものではないので貯蔵品かも知れませんね」
「なるほど。それなら話はわかります」
さすがエリザベスさんだ。きっとこいつら塩が出たとなると悪巧みを始めるに違いない。それを見越して貯蔵品と言ったのだろう。嘘は言っていない。地下に天然貯蔵だ。
フロントマンは大きいスプーンに山盛りいっぱいすくった。
「食事は別料金になりますが」
「外に食べに行きます」
「それでは部屋にご案内します」
案内された部屋はまずまずの部屋だ。床が一段高くなり布団らしい。
案内して来た人が引っ込んですぐタライに入った湯と拭き布を持って来た。
従業員が出て行ったので、すぐ覗き穴に細工だ。まだ覗きに来ていないが。
どこだ。壁に穴が空いている。模様の一部となっていて気が付かないだろう。
ジェナが空中で液体をコネコネしている。何を作るんだろうね。ねっとりした液体が出来た。穴に押し当てている。浸透した。
どうなるんだろうね。楽しみだ。
一応お湯はいつもの通りドラちゃんとドラニちゃんの遊びと、他の人が使ったりして拭き布も使った。
それじゃ外食というやつだ。外へ行こう。
部屋にはリュックがある。何も持っていないとおかしいからリュックを背負って来たからね。タライを下げに来て多分荷物を点検するに違いない。
リュックの中身は鉄だ。鉄がリュックの形に充填してある。
軽いと思って腰を屈めてひょいと持ち上げようとするとぎっくり腰だ。楽しみだ。
フロントに寄って外に出る。
尾行してくるよ。宿の人かな。なんだろうね。
広場の屋台はもう片付け始めている。ブランコ、ジェナ、ドラちゃん、ドラニちゃんががっかりしている。
ということは大衆食堂かね。あるけどもう閉まっている。暗くなるからね。開いているのは高級料亭だ。ローソクらしいよ。魔石ランプは高いから。
尾行の方々をがっかりさせてはいけないから高級料亭に行こう。
料亭に入ると迎えてくれた人が我々の品定めをする。
「いらっしゃいませ。こちらへどうぞ」
品定めに合格したらしい。
部屋はやや過剰装飾だがお金は掛かっている。成金趣味だな。
「本日は私どもを選んでいただきありがとうございます。お品書きはお手元にありますのでお決まりになりましたら手を叩いてお呼びください」
エリザベスさんが即座に言った
「おまかせでお願いします」
「承りました」
案内してくれた人が出ていった。
「ぼったくれるぞ」
と呟きながら。
面白いね。どうなるんだろう。みんなワクワクだよ。
ああ、ここも覗き穴だ。天井だね。天井を這って覗きにやって来た。覗いています。
観察ちゃんが天井の埃を世界樹の枝に纏わせて、覗き人の足裏をぷすっと。
飛び上がったね。必死に口は抑えたというところか。
どすんと天井で音がした。
「ネズミでしょうか」
マリアさんがとぼけて言っている。
「そうねえ。建物が年季が入っているからネズミかも知れませんね」
エスポーサだ。
「こちらのネズミは大きいのでしょうか」
マリアさんがまたとぼけて発言する。
「ネズミのような魔物なのかも知れないわね」
エリザベスさんだ。
リンがナイフを抜いた。
「天井にナイフを投げてみましょうか。まだ居るみたいですよ」
慌てて天井の覗き人は逃げて行く。
「残念。いなくなってしまったようですね」
「観察ちゃんが世界樹の枝に埃をつけてプスっと足裏を刺したからきっと腫れるぞ」
僕が言うとみんなニコニコだ。
片足ケンケンで亭主の室にたどり着いた天井の人。
「失敗しました」
「どうしたんだ」
「天井で何かに足を刺されてまだ痛いです」
「それで気づかれたか?」
「わかりません。ネズミとか魔物とか言っていました。ナイフを投げられそうになったので逃げて来ました」
「そうか。しょうがないな。今日は覗きはなしだ。それにしても何に刺されたのだろう。足を見せてみな」
足を見せた。
「おい、大変だ。足裏が腫れている。熱も持っているぞ。下手をすれば腐る。すぐ医者に行って来い」
「ぼったくり医者しかいませんが」
「ぼったくり仲間値段でやってもらえ」
「行ってみます」
「それにしても上玉揃いだからぼったくって払えなくして体で払ってもらおう」
「楽しみですね」
「まだいたのか。早くいけ」
厨房から料理ができたと亭主の元へ連絡が来た。
お客の元へ行ってもったいをつけてやろう。ぼったくりの第一段階だ。
部屋で待っていると亭主と料理人らしい人が料理を運んできた。
テーブルに並べて蘊蓄を垂れ流す。誰も聞いていないから垂れ流しだ。
「不味い」
ドラちゃんの感想だ。どれどれ。
「本当に不味い」
「これでお代が取れるのかしら」
エリザベスさんが亭主を見て言った。
口々に不味いと言われた料理人。憤慨した。
「それならお前ら作ってみろ」
「いいですよ。作りましょう。エスポーサ、リン行って来てください」
「承知しました。厨房に案内してください」
僕らも暇だからついて行く。もちろん亭主も一緒だ。
「汚い厨房ですね。こんなところで作っていたのではいいものは作れませんね。それにこの包丁はひどい。ノコギリと間違えているのでは」
僕の銘入り包丁をエスポーサとリンに手渡した。
「包丁というのはね、こうでなくてはなりません」
ノコギリ包丁をスパッと包丁で切った。
料理人は青くなってしまった。
「さて、まずは掃除をしてください」
エスポーサに包丁で一人一人指し示されて青くなる料理人。必死に掃除を始めた。
まずまず綺麗になった。
「では始めましょうか。まな板は」
「汚ったないですね」
リンが包丁でまな板の表面をスッと数回削って綺麗にした。
掃除で体を動かして顔に赤みが戻った料理人はまたも真っ青。
「食材は?」
「何これ、半分以上傷んでいるわね」
野菜をはじめとする食材をスパスパと削って食材は元の十分の一ほどになってしまった。
まずはスープを作ったエスポーサとリン。
亭主と料理人に飲ませた。
何も言わない。
エスポーサが軽く包丁でまな板をトンと突いた。包丁はまな板を突き抜けて下のテーブルに突き刺さった。
「感想は?」
「美味いです」
「あんたたちの料理は客に出すレベルではありません。恥を知りなさい」
「おまかせで不味いものを出したのだからわかっているわね」
エスポーサがテーブルから引き抜いた包丁で手のひらをぽんぽんと叩いている。
亭主は慌てて砂金の入った大袋を持って来た。
「では今日はこれで失礼するわ」
一同足取りも軽く出ていった。
「おほほほ。おーっほほほ」
年嵩女の高笑いが聞こえた。
亭主はガックリである。
「ぶったくられた」
料理人は、
「自信がなくなりました」
「連中が来なければいいんだ。大丈夫だ。よく見張っていて近づいて来たら店を閉めてしまおう」
「そうしましょう。ほかの客には相変わらずぼったくりましょう」
亭主も料理人も回復して来た。
上達はなさそうである。




