749 ラピスラズリの村 (6)
ラピスラズリ産出の村に向かって村と取引のあった店の主人の倅と店員、ならず者が急ぐ。
倅たちは出発前に店の主人から発破をかけられた。
「いいか。村民は全員あの世行きだ。その前に鉱山の場所をはかせなくてはならない。はかせたら用はない。後腐れのないように全員始末しろ。村にはお前たちの半分がとどまれ。元からいたような顔をして生活していろ。生活に必要なものは届ける。急げ」
倅たちは狭い道を急ぎ足で一列になって歩いて行く。最後尾の男の後ろに観察ちゃんが現れた。音もなく男が消えた。観察ちゃんが次々に最後尾の男を滅びの草原送りにする。
「おい、まだつかないのか。いい加減くたびれたぞ」
先頭の店の主人の倅が聞いたが誰からも返事がない。
いぶかしく思って後ろを振り返ると誰もいない。小さい動物が両手で木の実を持ってかじっている。
「どうしたんだ。誰もいなくなってしまった」
誰もいない道がゆがんだ。気がつくとあたりに山はない。足下は草原だ。周りに魔物がいた。男に気がついた。男は悲鳴を上げる間もなく魔物に襲われてしまった。
こちらは倅を送り出した店の主人。使用人を集めた。
「倅たちは村に駐留するならず者を残して明日には帰ってくるだろう。そしたら俺たちの宝石をかっぱらったラシード隊とか言うやつらを襲う。隊商宿で襲ってはまずかろうから街から出て人通りがなくなったところで襲う。やつらの出発は一番早くて明朝の日の出だ。いつやつらが出発しても大丈夫なように今晩から集まっていてくれ」
店を任せられている男が返事をする。
「承知しました。ならず者を集めて店員たちも店にいるようにします。隊商の出立が明日の日の出でも大丈夫にしておきます」
「頼んだぞ。夕飯は出してやろう。酒もつけてやろう。相手は隊商の商人だ。探りにいかせた者からは武器も持っていないようだと報告がある。そうだな」
「はい。武器も持っていず、荷物も少ないようでした」
「たいした隊商ではないのだろう。襲う準備を整えた我々の敵ではない。しっかり働いてくれ」
「ありがとうございます」
その晩、ならず者たちが集まってきた。普段表立って出来ないことを頼まれてやっている者たちである。今回は酒付きの夕食が出るという話だから喜んで集まった。店の奥で店員と一緒に意気盛んである。
「おい、飲み過ぎるなよ。もしかすると明日の日の出に連中が出発するかもしれないぞ」
「ご主人、おれたちの夕食はいつも酒だ。安心してくれ」
「それはそうかもしれないな。一応明朝、日の出前には起きていてくれ」
「承知した。みんないいな」
「おう」
世間が寝静まった頃、ラシードの部屋に20人程が集まった。希望者が多くクジを引いたりしてやっと20人に絞った。これ以上は減らせない。
討伐に行くと察したベーベーにベーベーと文句を言われた。連れて行けと言うことらしい。ラシードはため息である。
「あら、むさ苦しいわね。20人は多いんじゃない」
「エスポーサ様、これでも絞りに絞りました。これ以上減らすことは大変難しい」
「まあいいわ。向こうもならず者たちを集めたから。剣は持ったわね。では行くわよ」
エスポーサが店の入り口と裏の出口付近に別れて転移させ、すぐ店の敷地全体にバリアを張った。音が外に漏れない、人が出入りできないバリアだ。
「バリアを張ったわよ」
ラシードが剣をかざす。
「突撃ー」
裏と店側からラシード隊が突っ込む。扉を破壊、すべてを破壊しながらすすむ。
「起きろ、襲撃だ。くそ、誰だ」
寝ていたならず者も剣戟の音で飛び起きたが剣を抜く間もなく切られてしまった。
十分もかからず殲滅。
「引き上げるぞ。庭に集まれ」
ラシードが号令をかけて隊員を庭に集めた。
「数はいいわね」
「全員いる」
「ご苦労さん。それじゃ血などの汚れを落として、転移」
エスポーサがラシード隊を隊商宿のラシードの部屋に転移させた。
観察ちゃんがまだ残っていたラピスラズリを回収してきた。
「宝石は村人に返せばいいわね。さてと、次は雷ね」
バリアの天井を消して雷を落とした。店に火がついたらバリアの地表部分を少し消して巨大煙突にした。
バリアの下の隙間から空気を吸い込んでゴーゴーと音を立てて上方へ炎が渦巻いて上がる。火の勢いが激しい。人も店もたちまち灰になっていく。
火の粉は上方で回収、延焼を起こさないようにした。
隣近所は落雷の音で飛び起き、外に出てみると評判の悪い商店が燃えている。主人は延焼するのではないかと家人を起こし待機させた。
「不思議だ。いくらか風があるのに炎はまっすぐ上に延びて火の粉が飛ばない。延焼しそうもない」
「これだけ火勢が強くては近づけないな」
「ああ、見ているだけだ」
小さい街なので衛兵はいない。商店が当番で治安の担当をしている。
当番の商店も来た。
「雷が落ちたのか」
「そのようだ」
「誰も逃げ出て来ないのか」
「ならず者たちが集まっていたそうだ。飲んだくれて寝てしまったのだろう」
「まあこの勢いじゃ鎮火してからしか近づけないな」
「この店は、街の治安の当番にも入らなかった。悪い噂もあった」
「ならず者を集めて悪いことをたくらんで前祝いの宴会でもしていたのではないか」
話しているうちに火勢が下火になってきた。
エスポーサは、ほぼ燃え尽きたのでバリアを消して村人が訓練している魔の草原に戻った。
「ほぼ鎮火したから入ってみるか」
近づいてみると何もかも灰になってしまっていた。
「建物も人も灰になってしまった。何もわからん」
「雷による出火でいいんじゃないか。ならず者が集まっていたから酔っぱらって寝込んでしまって誰も助からなかったということだろう」
「そうだな。幸い延焼もしなかった。自業自得だ。そう報告書を書いて終わりにしよう。うちから何人か出して朝まで見ていよう」
「うちも出そう」
当番の商店に加え両隣の店も見張りを出すことになった。
かくして店は落雷による出火、全焼となった。
翌、朝食時にラシードは昨夜の火事の件を宿の主人に聞いてみた。
「昨夜火事があったようだが」
「ああ、昨夜の火事は、店に雷が落ちて出火したが、店にいたならず者と店の者が飲んだくれていて誰も逃げ出せなかった。あの店は我々がやっている治安の当番にも入らず何かあれば当番に文句をつけるたちの悪いやつらだった。自業自得だな」
「付き合いが悪かったんだな」
「ああ、自分だけ儲ければいいというやつらだ。悲しむ者は誰もいないだろう。まあそれにしても良く燃えたな。すべて灰になってしまった。何も残っていない」
「話は変わるがおれたちは明日の朝出発する」
「承知した」
こちらはシン。
村人の訓練二日目の朝に訓練場所の滅びの草原へオリメさんとアヤメさんと一緒に向かう。転移して行くからすぐなんだけどね。
ゴードンさんや村人たちは朝食が終わったところだ。
「皆さんおはようございます。今日から武器の練習ですね。練習着をオリメさんとアヤメさんが作ってくれましたので着替えてください」
村人はオリメさんとアヤメさんから練習着をもらってテントの中で着替えてきた。
「着替えたら武器をお渡しします。特に希望がなければショートソードがいいでしょう。練習用の木刀もお渡しします。お子さんには投石紐と短い木刀です。投石紐は弓矢のかわりです。使うのはこの紐と石です。その辺に落ちている石を使えますから矢のように補充が難しいということはないです。お子さんは安全な場所から投石紐で石を投げるのがいいでしょう。一応ナイフも渡しておきます。成長したらラシード隊から剣を買ってください」
「そうそう、みなさんと取引のあった商店は店主、店員が店ごと雷に撃たれて焼けてしまったそうです。残った人はいないようですよ」
村人たちはしんとしている。
静かだな。
だから正体がばれているとアカが申しております。
気を取り直して、剣やナイフ、木刀、投石紐を村人に渡した。
剣は数打ちだけど、たいていの剣には負けないだろう。
「シン様から武器をもらったな。まずは木刀で訓練を始めよう」
ゴードンさんが声をかけて訓練が始まった。
あれ、僕は何もすることはないな。マリアさんもジェナたちも訓練に付き合っている。アーダもジェナの周りで飛んでいる。魔物に遊んでもらおうと思ってもじりじりと後ろに下がって、逃げてしまう。困ったな。
あ、龍愛と宗形さん、黒龍、黄龍が来た。
すぐエスポーサに捕まって、訓練参加だ。指導に回るらしい。
しょうがない。僕とアカは神国に戻ろう。
訓練は三日間不眠不休で行った。最後は魔物相手にトレーニングだ。中級の魔物なら村人が囲んで倒せるようになった。村は魔物がいないところだし十分だろう。
訓練が終わってフォディオさんからお礼を述べられた。
「訓練の機会を与えてくれたシン様、ゴードンさん始め訓練していただいた方々に深く感謝します」
「盗賊なら楽に対応できるようになった。自分を見失わず目立たず暮らしていれば問題なかろう。達者で暮らしてくれ」
「ありがとうございます」
僕は村人と一緒に村に転移する。
「シン様、留守の間中だれも通りませんでした」
留守番の二百人衆から報告をもらった。
「ありがとう。それじゃ神国に戻ってね」
留守番の二家族とバトルホースを神国に送った。
「フォディオさん、約束の芋です。栽培してください。畑も耕しておきましょう」
僕が畑らしい場所に手をかざして耕した。石も取り除いてふかふかの畑になった。
「野菜の種も差し上げます。この辺で作られている野菜の種です。後はラシードさんから買った小麦を蒔けばいいでしょう。しばらくすれば食べることに困ることはないでしょう」
「何から何までありがとうございました。このご恩は我ら村人、子々孫々に伝えます」
村人たちが力強く頷く。ちょっと照れる。
「では僕たちは先に行きます。皆さんお元気で」
村を後にする。村人たちは僕らが見えなくなるまで手を振って見送ってくれた。




