第九話 巌に囲まれた町にて(前編)
人口の岩壁に囲まれた町、ハルジオン。
昔から、農作のできない冬季に石細工を作っては春の雪解けの時期に合わせて、王都の方へ売りに行く。そうして政経を立てていた町は、ある時をきっかけに町の周りに岩をつなぎ合わせた壁を作るようになった。
外敵からの身を守ることに関しては王都に匹敵すると言われている以外にも優秀な町は岩石と一緒に発展してきた。
カナタがここに来るのは、それこそ太陽がまだ顔を見せている時だった。当時は岩壁なんてなく、のどかでゆったりとした町だったと記憶している。
「……大きい」
思わず独り言をつぶやく。当然、近くにいたアルターには聞こえていた。
「ああ、実際に見るのは初めてかい、カナタの嬢ちゃん。この壁はね、異常気象が世界各地で起きた時に川の氾濫を経験してね。その時に作られたモノなんだ」
カナタは感心していた。
(岩石加工の魔術でも使ったのではないかと疑いたくなるほどの精密な溶接。屋上に一切ない武装。確かに、相手が自然災害ともなるとこのような形にもなる…か)
「お、ちょうど門番と話が出来そうだ。カナタの嬢ちゃん、ちょっとばかしここらへんで待っててくれ」
と言って、アルターは門番に交通証を見せるために走って行った。
岩壁の精密さに魅せられたカナタは、ハルジオンの門番と業者のおじさんが話していることをを完全に無視して、観察に没頭していた。
(これは…そうかこうすれば確かに魔術無しでも精密に加工できる。……ここにもそれを応用しているのか!)
「おーい。嬢ちゃん、受付終わったから町に入れるよー」
「あ、わかりました!今行きます!」
カナタは壁を見るのを一度切り上げ、アルターの方へと駆け寄る。
岩の壁の1枚が上昇していく。がりがりと岩と岩のこすれる音を響かせながら上へ上へと昇っていく。2mほど上昇したところで、一枚岩は完全に停止し馬車とともに入場した。
がやがやとした町を見ると、懐かしい感じた。以前来た時よりは盛況では無いが、それでも多くの人の笑い声や話し声が聞こえる。
「さぁ。ようこそ、ハルジオンへ」
つい一歩踏み出していたカナタの後ろから、アルターの優しい労いの言葉が聞こえた。




