第十二話 変化魔術
跳躍は迷いの森の手前で止まった。森側が不法侵入を防ぐためにカナタの跳躍での侵入を認めなかった。
カナタは雑多にまとめていた髪をほどく。手櫛で髪を整えてから使っていた魔術を解く。
お気に入りの髪留めである快晴の空のような淡い青色をしているそれを残し、自身の髪の毛が発光する。かけていた、《変化魔術》が溶けていき、自分の本当の身体があらわになっていく。
ブロンドの髪は濃い赤色に変化しポニーテールを形付け、身丈を完全に隠していたローブは地味な単色のモノから白基調で装飾の施された派手なモノへと切り替わる。
全体的に、いかにも旅人であることを現していた前の衣装とは違い、一般市民が買うのをためらってしまうほどの装飾に変わっていった。
いつも通りの感覚に浸ることなく、さっきの門番からくすねていたモノの確認作業に入る。
カナタは相手を眠らせる魔術をしたときについでに、腰につけていた財布を貰っていた。
両手いっぱいにある布巾着を一つずつ開封し、中身を自分の布巾着に入れていく。
カナタは基本的には、斡旋屋を利用してお金を稼いでいく。それは昔、誰かから教えてもらった必要最低限の常識によるモノである。だが、やっぱりというか、大量にお金を持っている人から奪った方が効率が良いのだ。
「まぁ、こんなもんだよねぇ」
自分で言うのは何だが、わたしはお金にルーズだ。
いつでも金欠になるし、いつでも散財したくなる。いつなくなるか分からないお金を手元に置いておくには抵抗がある。所謂、宵越しの金は持たない、というやつだ。
銀貨の枚数と、銅貨の枚数の確認を終え、今回の成果である銀貨を手でいじりながら少し休憩する。門番の人はあまり持っていなかったが、人数が人数だったためある程度のお金になった。
懐が寂しいカナタにとってこれはうれしい収穫だった。
(これのおかげで、2,3日は裕福な暮らしが出来そう♪)
空を見ると、夜の暗さになっていた。
雲まみれの空を見慣れた人たちにとって夜と昼の差を見極めるのは重要なスキルだ。
仕方がないので、今日は野宿をして朝一に魔女の森に入ることにした。
「まぁ、遅れるのはマーリンの評価が悪いのが原因だし、大丈夫でしょ」
木の上で器用に寝っ転がっているカナタは、独り言のように待ち合わせの相手に言い訳した。




