第十三話 悪態
見てくれている人が意外に多くて驚いてます。
頑張らせていただきます。
魔術とは、技術の一端に過ぎない。
そこに多能性はあるが、万能性は無い。どれだけ優秀な魔術師であろうとも、どんなにその技術を高めようとも、万能には至ることが無いのだ。
これは、魔術師の中では定説となり、いつしか常識となった。魔術の発展の停滞を訴える者もいたが、魔術の非万能性は才がある者からしてみれば「やはりか」としかならず、徐々にそんな訴えは霧散していった。
では、なぜ、今なお魔術を知らない者が存在するのか。
それは、魔術に置いて『知覚する』という行動が重要な意味を持っているからだ。
魔術という技術は、他の技術よりも逸脱している。つまり、異端であり歪なのだ。この歪さを数多の生物は、言語化は出来ずとも本能的に認識できてしまう。また同様に、対処法すらも短絡的に発生してしまう。Aの魔術にはBの対処法が、Cの魔術にはDの対処法が、と言った風に。
具体的に言うのなら、仮に、火を生み出し火球として相手にぶつける魔術があったとする。魔術を知らない者からしてみれば、対処することが出来ず無抵抗の状態で魔術を受ける。だが、もしすでに魔術についての理解をしている者ならば、無意識下で自身の体内の魔力を使って火球に対して、極薄い壁のような物を作る。この壁こそが、魔術の優位性を低下させている要因なのだ。
それでも、魔術への抵抗を見せる壁は、一度知覚しないと意味がない。理解不能の事象には本能も発生しないのだ。
そのため、通常の属性魔術以上に秘匿を重ね、理論を越えた何らかの現象になりつつある魔術、《固有魔術》への壁はほぼ存在しない。他にも、腕の立つ魔術師は初めから壁の存在を考慮して魔術を放ったり、そもそも魔術を使われたことを悟らせなかったりするような対処法への対策は存在する。
今回、ハルジオンの門番たちにはその壁は無かった。つまり、強制的に睡眠欲を駆り立てさせる魔術、もしくは魔術そのものを知覚したことが無かったのだ。
カナタの瞼に、光が当たる。
朝を告げる陽光は何処にもなく、灰色の光を伝えるのみだった。
「……」
長い移動の間はゆっくりすることは出来ずにいたこともあり、昨夜は熟睡だったらしい。まだ寝ていたい気持ちが思考の中を反芻する。
一先ず、今日の予定は何だろうかと、眠気覚ましに考える。
「……やっば」
数秒の後、自分が約束事を破綻させたのだと思い出す。
カナタはそれに付随して、昨日の出来事を思い出していた。
(『人喰いの魔女』…か)
マーリンが魔女と呼ばれるのは正直どうでもいい。しかし、『人喰い』というフレーズにはどうしても違和感を覚える。一体何をしでかしたのか、見当もつかない。
けれど、今はこれ以上の考察をしている時間はない。その当の本人に今から会うのだ。詳しくはその時に聞けばいい。
今はそれよりも準備して、今すぐにでも出発しなければ。どうせ会うのは長くからの付き合いだ。それなりでも良いだろう。
そう考えながら、白手袋を嵌めていく。
手袋に印字されている《変化魔術》の応用で、服装の視の変化を終え髪の毛の手入れへと流れを移す。睡眠の邪魔にならないようにしていたサイドテールをほどき、手櫛をしながらその他の準備を魔術で短縮させる。
「よし、行くとしますか」
朝の準備を終え、最終確認も済ませた。
カナタは出発しようと、目的地の方へと眼を向ける。すると、感じたくもないモノが嫌でも感じる。異質な魔素を組み上げ、異常な魔力を含んだ森は、朝を迎えたにも関わらずまるで夜のような暗さを帯びていた。
こうも嫌な感情にさせてくると、帰りたいという気持ちが大きくなる。実際、待ち合わせにも無断で遅れている以上、帰ってしまっても変わりはないのでは?と考えてしまう。
「……ハァ」
だが、ここまで来てしまったからには行くしかない、と決意をしてカナタはマーリン専用の魔女の工房である迷いの森に入り込んでいった。




