第十一話 巌に囲まれた町にて(後編)
「あれ?」
カナタは常々、自分の思慮の浅い行動に苦労していた。人の地雷は見事に踏み抜き、隠し事も持ち前の観察眼にて見抜けてしまう。
だからこそ、カナタは人とのかかわりをあまり積極的にはしてこなかった。
「とりあえず、外に出てもいいですか?」
先ほどの発言をっごまかせるかもしれないと淡い期待を胸に、一応聞いてみる。
「……ひとまず、話を聞こうか。君はあの魔女と旧知の仲ということで間違いないんだね」
門番のうちの一人が、手に持っていた鋭利な石刃のついた槍をカナタの方に向けつつ質問を始める。カナタの回答次第ではいつでも槍を使えるようにしている。
カナタはその質問になんと答えるのが正解なのかを考える。
「おい、どうなんだ。質問に答えろ」
そこまでの時間はかけていないつもりだったが、門番にとっては大きな時間だったらしい。
「質問に、質問を返すようで悪いんですけど、彼女の何がいけないんでしょうか」
「……奴は最低の存在だよ」
「えぇ?」
まさかそんなこと言われるとは思いもしなかった。
眉間にしわを寄せつつ、手に握られた槍を力強く握っている。
「……そんなことないと思うんですけど。確かに彼女とは旧知の仲ではありますけど、さすがにそこまで言われるようなことをしないと断言できますよ」
途端に彼らの顔つきが変わる。疑問の念を抱いていた者もこちらに敵意をむき出しにして、今にも襲ってきそうだった。
「…あんな奴と知り合いだと」
旧友のことを悪く言われるのはいい気がせず、こちらも眉間にしわを寄せることになる。
にらみ合いはそこまで長く続くことはなく、二人だった門番はいつの間に応援を読んだのか背後からも敵意を感じ始める。
「とりあえず、君は軟禁させてもらう。奴の知り合いだとするなら、奴も見て見ぬふりはせんだろう。悪く言ってしまえば餌になってもらう」
「残念。いい人だと思ったのに」
にらみ合いのなかで後ろ手に描いていた魔術陣に魔力を込め、そのまま彼らの方へと指を向ける。
手動形式で編まれた魔術はカテゴリーⅡの域に収まった威力で彼らに襲い掛かる。
魔術の範囲にいたカナタの前方にいる門番は、膝から崩れ落ちる。どさどさと倒れる門番に後ろにいる応援にも緊張が走る。
「では、わたしはこの辺で」
くるりと後ろを振り返り、優雅にお辞儀をする。そのついでに、簡単な魔術を自身にかける。
軽く跳躍すると、岩壁を優に超える高さに到達する。
門番の人達は、カナタに何かを言っている。
気にすることなくカナタは自分の感覚を信じて欝蒼とした森の方へ飛んだ。




