第十話 巌に囲まれた町にて(中編)
アルターは、町のいたるところに用事があるらしく入口付近で別れた。一人になったカナタはうん十年ぶりのハルジオンの盛況ぶりに圧倒されていた。
幾分が、ぼーっとしている時間をすごしたのち、ハルジオンに来る目的を果たすために行動を始めた。荷物の中身を確認すると、どうやら、此処の中心部にある開けたスペースに目的の場所があるらしい。
町の中心部分に行くには、この町で一番の盛り上がりを誇る出店の商店街を抜けなくてはいけない。
カナタは、決して多くはない人だかりを通る。途中で、串焼の出店に興味をひかれたが、悲しいことに持ち金がごくわずかしかない。元気なおばさんの勧めを断って、街の奥地へ進んだ。
時間にして十数分、小さい町だからか簡単に町の中心部へとたどりついた。広場のようになっている場所できょろきょろあたりを見回すと、ある一つの一軒家を見つけた。
足早にその一軒家へと駆け出し、扉を3回ノックする。
「王都からのお届け物です」
扉の向こうに聞こえるくらいの声量で話かけると、扉の奥で誰かがこちらに近づいてくる気配を感じる。扉の開けるスペース確保のために一歩引きさがると、勢いのある扉はカナタの居た場所にものすごいスピードのまま飛んできた。
「あ、すいません。…最近扉の建付けが悪くて、思いきり押さないとしっかり開かないんです」
中から、眼鏡をかけた若い女の人が出てくる。
その風貌を見て、カナタは自分の荷物をあさりだす。荷物の中でも一番上にあったそれそれは簡単に手に取ることができた。
「アイリーンさんですよね。こちら王都よりお預かりした手紙です」
「ありがとうございます。ちょっと中身を確認しますね。……ええ、しっかり届いてます。あ、ちょっと待っててください。今お金の方を持ってきます」
ブリタンニア大陸には、仕事を斡旋してくれる斡旋屋というのがある。依頼や、それを受け持つのは完全に自由。その代わりにその依頼で得た利益の約1割を斡旋屋に寄付する。というシステムだ。小さな街にも支部があり、このハルジオンも例外なく支部が存在する。依頼達成によって得られるお金は難易度に比例し、害獣処理にもなるとそこそこの大金を得ることもできる。太陽のない世界だからこそ助け合いが大切だという理由で作られたらしい。
カナタにとって、斡旋屋は体のいい金稼ぎの一環だった。
人に感謝されたくて斡旋屋に入り浸る人もいるがカナタはそんなことどうでもよく、金さえ手に入ればそれでいい。
「ーーーお待たせしました。こちら依頼料の銅貨10枚です」
「…2,4…10枚。はい、しっかりと。ではこれで失礼します」
軽く会釈をして、この場を後にする。
これでハルジオン内での用事は終了した。
そろそろ夜が近づく時間なので、カナタは急いで町の入口に戻る。
カナタは商店街を思いきり通り過ぎ、この町唯一の入口である先ほどの門までやって来た。
「あ、下すの待ってください!」
ちょうど門が開いたため、大声で門番を制止する。
「あれ、先ほど来たばかりですが、もう出かけるんですか?この町の周りは夜になると本当に真っ暗になりますよ」
「ハァ、ハァ。…大丈夫です。一応、泊まる当てがあるので」
「当て、ですか?この町の外にそのような施設はなかったと思いますが」
(んん?)
息が整い、何とかいつもの状態にまで戻ったのでカナタは一連の会話の中でできた疑問をぶつけることにした。
「あれ、もしかして知らないんですか?ここら辺に真っ白な見た目をした魔女がいるんですよ」
親切心で教えてあげると、ピシっと音が聞こえてしまいそうになるほど空気が凍った。
「あれ?」
カナタは安易に口にしたことを後悔した




