第6-1話 コハルの修行 後編
修行を始めてから数ヶ月後、ウリカに修行をつけてもらっているコハルは、いつものように道場でウリカと組み手に励んでいた。
「てぇやぁ!!」
「ふっ! はっ!!」
特訓初日は手も足も出ずにボコボコにされていたコハルだったが、修行を積んだことによって初日とは見違える動きになっていた。
コハルは今、ウリカと対等に拳を打ち合っていた。
二人の間で、激しい攻防が繰り広げられる。
拳を突く――かわされる。
足で蹴りを繰り出す――受け止められる。
足を掴まれて投げられる――身をひねって着地する。
反撃にもう一度蹴りを叩き込む――かわされる。
これほどの攻防が、またたく間に繰り広げられていった。
しかしそんな激しい攻防が繰り広げられているというのに、二人とも未だに一撃も攻撃をもらっていなかった。
コハルの攻撃を巧みにさばきながら、ウリカはコハルがここまで強くなったことを心の中で嬉しく思っていた。
(ふむ……攻撃と攻撃の合間に隙が無く、一撃一撃も強くなって簡単には反撃できまない……強くなりましたね、コハルちゃん)
ウリカは修行の初日を思い出す。
ウリカがコハルにどんな修行をつけるかを考えるために初めて組み手をしたとき、ウリカはコハルを「なんと勿体ない」とそう評した。
その理由は、コハルには恵まれた身体能力と氣術の才能があるというのに、ただその才能に任せて殴ったり蹴ったりしているだけで、それを活かすための技術がまるで無いことが分かったからだった。
せっかくの才能も活かさなければ宝の持ち腐れだ。だがそれは逆に、技術を教えれば強くなれるだけの伸びしろがあるとも言えた。
だから、ウリカはコハルに自分が持つ格闘の技術をありったけ叩き込んだ。その天賦の才を活かせるように。
コハルはその素直な性格から、ウリカの教えをスポンジのようにどんどん吸収していった
その結果、今目の前のコハルは自分と対等に戦えるだけの技量を身につけた。
弟子がここまで成長したことが、ウリカにとって何より嬉しいことだった。
(これほどまで成長できたのなら……最終確認といきましょうか)
ウリカはコハルがどれほど強くなったのか、その最後の確認をするために全力で右の拳を握った。ミシリと軋むような音が聞こえる。
そしてコハルの攻撃の間隙を縫うようにして、ウリカは全力の正拳突きをコハル目がけて放った。
ウリカが放った全力の一撃には、巨大な岩を粉微塵に砕いてしまえるほどの力が込められていた。
いくらコハルが修行で鍛えたと言っても、これほどの一撃をもろに受けてしまえば、五体満足ではすまない。
それでもウリカは、コハルの修行の成果を――強くなりたいと願った彼女の想いがどれほどのものかを確認するために、全力の一撃を放った。
ウリカの拳がコハルの胸を貫かんとした刹那、コハルは両手を重ねてウリカの拳の前に突き出した。
「<堅牢守>!!」
コハルの両手の前に氣力で練られた障壁が生み出される。ウリカの拳はその障壁にガァンと激しい音を立ててぶつかり、阻まれた。障壁にピシリとヒビが入る。
(くっ……破れない!?)
ウリカの拳は障壁を砕くことができず、完全に勢いが殺されてしまった。
(まさか完全に受け止められるとは――むっ!)
全力の一撃が防がれるという事態に、ウリカが一瞬だけ怯む。
それは隙と呼ぶには、ほんの一瞬の時間だった。
しかしそれは、今の強くなったコハルが反撃に転ずるには十分な時間でもあった。
「<剛拳>!!」
コハルは障壁を消すと、即座に右の拳に氣力を込めてウリカに殴りかかった。
「ぐっ……!?」
放たれたコハルの拳に対して、ウリカはすぐさま左腕でさばこうとした。
しかしそれよりも早くコハルの拳がウリカの左腕を貫いた。
ウリカはそれをさばききれず、そのまま後ろに吹っ飛ばされてしまった。
吹っ飛ばされたウリカは、受け身を取ってなんとか着地する。
そして、ウリカは先ほど殴られた自分の左腕をちらりと見やった。
防御のために氣力を込めたというのに、コハルに打たれた左腕はズキズキと痛み、拳が握れなくなっていた。
まさか自分の攻撃を完全に防ぐだけではなく、これほどの反撃を繰り出すとは――ウリカは満足そうな微笑みを浮かべた。
「合格です、コハルちゃん。強くなりましたね」
「ほんとっ!? やったぁ!!」
油断なく構えていたコハルはパァッと笑顔を浮かべて、ガッツポーズをしながら嬉しそうに跳び上がった。




