草不可避
「杏ぅーーーー!!!」
泉は立ち上がり、杏を抱きしめる。
「母ちゃんには、杏奈がおるけん。
父ちゃんも家族もおるけん。」
杏奈が杏と泉を見ながら、ボソッと言った。
杏は、声にならない。
「そうよ!私なんて、29なのに結婚できないんだから!ギリギリ20代で結婚できなきゃヤバくない?
デブには相手すらいないのよぉ〜!」
と自虐ネタを言う。
「先ずは痩せんね。」
杏奈が突っ込む。
「杏奈お姉様、本当のことを言うと失礼ですわよ。
まったく、杏奈お姉様は世間と言うものを知らないんだから。」
「杏ちゃん…。」
杏子の悪気ない誤爆に杏奈は言葉が続かない。
「あら?どうしましたの?」
杏子はポカーンとしている。
「まぁ、いいたい。夕飯作るけん手伝い?」
杏奈は、宿題を整頓しキッチンへ向かった。
「母ちゃん?これ使っていいと?」
冷蔵庫に冷やしてある豚肉を指差す。
「いいわよ。使って。」
「はーい。
泉は、うちで食べてくと?食べてくなら特売の肉を半分差し出さんね?」
杏奈がちゃっかりと泉に聞く。
「え?いいの?
もっちろん食べてくわよ。
私、たくさん食べるから半分と言わず全部使って。」
「わかった。」
杏奈は、お米から用意する。
1升の米を研ぐのも大変だ。
量が多いので大きなザルを使って研ぐのだが、とても時間がかかる。
「母ちゃん1升やろ?
泉1升やろ?
残ったら母ちゃんか泉が食べるけん、みんなの分で1升やろ?
今日は3回炊かんといかんねー。
一升炊きの御釜もう一個欲しかー。
おひつが母ちゃんの分しかないけん、おひつも欲しかね。
そうすると、置く場所が困るなぁ。」
杏奈が杏子に言う。
「そうですわね。
お父様に相談してみましょう。」
杏子が、研ぐのを手伝う。
御釜に米を移し、そこにお水を足していく。
この方法でなければ、小2の杏奈は水の張ったお米を御釜まで運ぶことができないのだ。
そして、次のお米もザルで研いでおく。
冷蔵庫の豚肉を確認すると、ロースが杏の分3キロ、豚バラ肉が3キロだった。
トンカツと豚汁にでもしようと思ったのだろう。
泉の分は、豚バラの塊が6キロだった。
「どう考えてもトンカツが足りんっちゃんね。」
杏奈が杏子に話しかける。
「何がですの?」
杏子はわからない様子だ。
「母ちゃんの分のトンカツの肉見てみ?
中学生以上はひとり300g食べるけん、父ちゃん、四郎兄ちゃん、健一兄ちゃん、モンモン姉ちゃん、聖兄ちゃんで1500gたい。
杏奈、ヒロシ、杏ちゃんがひとり150gで450g。
残り1050gキロやけど、どう考えても母ちゃんの分やん。
その母ちゃんの分にしても足りーん。」
「わかりませんわ。」
「つまり、母ちゃんがトンカツ3枚や4枚で足りるかってことたい。
これだから料理しないやつは!!」
「まぁ、全然足りませんわ。」
杏奈は泉に聞いてみた。
「泉ー、この豚バラブロック、ひとりで食べるの余裕やろ?」
「うん、余裕よ。
ひとり分と思って買ってたの。
でも、杏奈様が料理してくれるんなら任せるわ。」
「母ちゃん…、母ちゃんの一食分を買ってきてどうするん?」
「えー?
重いと思って6キロにしたんだけど、次はもっと買ってくるわよ。調理でどうにかして。」
「調理でなんとかなるのとならんのがあるったい。」
杏奈はイラつきながら、料理を続けた。