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1.移民者と地球外生命体

続編最終章、開始します。

 メディオ王国 王都シムラクタ。そこから南へ2kmほどの位置。丘陵地の谷間に隠すように、"防衛要塞アーク"は着地した。


「これ、だいぶ損傷してるみたいだけど、修理とか要らないの?」

 エリーゼは防衛要塞アークの外壁を見上げながら言った。確かに外壁のあちこちに被弾跡があり、武装もかなり破壊されている。もっとも、その半分くらいはアッシュとフィルトゥーラがコンビでこさえたものだが。

「いや、自己修復機能があるから、そのうち治る……と思う。自己改修機能もあるから、もしかしたらパワーアップするかも!?」

「ふぅん……」

 俺としては"自己改修"がどこまでできるのか期待大なところもあり、その辺をエリーゼにも共有しようと思ったのだが、心底"どうでもよい"という風な返答が来た。価値観が共有できず残念だ。


「で、なんでここへ持ってきたわけ?」

 エリーゼの口元は笑っているが、目は笑っていない。自己改修とかそんなことより、そっちのほうが重要でしたか、そうですね。

「その、他に思いつかなくて……、ほら、縮退炉もあるし、なんか狙われてるし……、」

 エリーゼの目線が怖い。

「い、いやぁ、助かったよ、さすがエリーゼ! あんなにたくさんの戦力を連れてきてくれるなんて!」

 今回、エリーゼは自身の持つ魔導艦バジス以外にも3隻を連れてきた。帝国軍との戦いでも戦線に出た魔導艦が3隻だったことを考えると、相当量の戦力だ。おそらく新造艦も含め、現時点で即時展開できる飛行戦力のほぼ全てなのではないだろうか。

「コースケが依頼してきたんでしょうにっ! 大体、いきなり魔導艦だけ戻ってきたかと思ったら、入れてなかったはずのAIが入ってるわ、いきなり戦力回せだの、挙句にこんなものまで国内に持ち込んできて──」

「あ、あは、あははは……」

 だめだ、全くおっしゃる通りで、何も反論できません。エリーゼはしばし肩で息をし、深呼吸を繰り返した。


「ふぅ……、それで。あいつらは何者なのか。説明してくれるのよね?」

 エリーゼはフィルトゥーラに向き直り問いかけた。彼女は静かに頷く。



==================================================



 300年前のμファージテロ、王国の歴史においては"聖戦"と呼ばれる動乱の中、まだ調査段階であった"火星への移民"を以って、この動乱を生き延びようと考えた人々が居た。千人規模の人々が火星へと逃げ延びたと言われている。

 彼らは生存圏を確保すべく火星を開発。火星の大気下では生きられないため、宇宙船を改造してコロニーを建設。さらに地下に眠る多量の氷を採掘し、水を獲得した。

 持ち込んだ植物を、家畜を、火星の大地で育て、安定した生活を送れるように環境を構築していった。


 今から50年ほど前。火星人類も数倍に増え、大きな都市へと発展したころ、突然謎の奇病が発生した。発症者は体の一部が軟体動物のように変化し、死亡してしまう。

 原因不明、治療方法も不明、一時は火星人類の全滅まで予想されたが、感染者の物理的封じ込めにより収束、多大な犠牲を払いつつも沈静化した……かに思われた。


 感染は別の形で、そして水面下でゆっくりと拡大していた。どのような変性によるものか不明だが、それまでの症状とは異なり、感染しても体の一部が軟体組織化することが無かった。だが、感染者は何かの"思想"に操られ、感染前とは別人のようになってしまう。感染に気付いた者は、同じく感染者になるか、もしくは消息不明になる。

 この"新たな感染症"はいつしか"アレス"と呼ばれるようになっていた。アレスに気が付いた人々が、アレス感染者から隠れて対アレス地下組織"リベレイター"を結成、密かに対抗策を調査し始めた。

 彼らの抵抗空しく、感染は尚も拡大。と同時に火星世論は不自然に「地球帰還」へと傾き、ついに帰還作戦が決行された。




「追撃してきた彼らは、地球帰還軍の本隊です」

 第13独立部隊屯所の中、会議室に響いた私の言葉の後には沈黙だけが残りました。少し間をおいて、コースケさんが口を開きました。

「感染者は体の一部が軟体動物みたいになる……、それは……」

「はい、今日、戦った彼らは、まさしく"アレス感染者"でした……」

 先回りするように、だが確実にわかる事実を私は述べます。


「彼らはボディースーツを破壊すると、ずいぶんと苦しんでいたな……」

 コースケさんは含みのある言い方をします。たぶん、その推測は私も同じです。

「私は"帰還軍"の先行調査員として派遣されました。私の任務は"縮退炉"のありかを探ること。上層部は"縮退炉の破壊"に異常な拘りを持っているようでした。彼ら曰く"地球の誤った歴史を正すため"との名分でしたが……」

「アレス感染者はディール粒子、もしくは思念力(ウィラクト)に弱い?」

「おそらくは」

 エリーゼさんの言葉に、私は頷きつつ答えます。


「その仮定が真実であるなら、地球の現行人類と感染者は共存不能な生き物です」

「どういうこと?」

 レインさんの言葉に、エリーゼさんが疑問を投げます。

「彼ら、ここではフィルトゥーラの言葉を借り"帰還軍"と呼びますが、帰還軍は占領地域に防壁を展開し、レイヤーネットの"空白領域"を構築しています。この事実は先ほどの"感染者はディール粒子、もしくは思念力(ウィラクト)に弱い"という仮定の裏付けにもなります。このレイヤーネット空白領域においては、"地球の現行人類が生存できない"という事実も判明しています」

「なっ……、ということは、縮退炉が全て無くなってしまったら……」

「はい、現行人類は絶滅することになるでしょう」

 エリーゼさんの戸惑いの言葉にも、レインさんは淡々と返します。あの冷静さはちょっと怖いかも。


「そう……、ならばこれは生存競争になるわ。どちらが生き残るのか。共存できないなら……、滅ぼすしかないわ」

 少し悲し気な様子だったエリーゼさんも、途中から言葉も力強くなり、決意を表すように言い切りました。

「で、でも、帰還軍全員が感染者というわけでは……」

 彼らの中にもアレスに感染していない人達が居るはずです。

「感染者と非感染者を即区別できるというのか? 敵が侵略と共に生存競争を仕掛けてくるならば、こちらは撃退するしかあるまい!」

 私の発言を遮るように、エリーゼさんの後ろに立っていたアルバートさんが言葉を浴びせかけてきます。私は言葉が出ません。

「アル」

「失礼いたしました」

 エリーゼさんの一言で、アルバートさんは一歩下がり、再び沈黙しました。


「アルバートの言いたいことはわかるが、せめて"お帰りいただく"くらいにしたらどうかな。たとえば"空白領域"を潰すとか」

「確かに、"レイヤーネット空白領域"という安全地帯が無くなれば、地球への橋頭保を失うことになるわね……」

 コースケさんの提案に、エリーゼさんは肯定を示します。アルバートさんは難しい表情をしています。


「あ、あの……」

「なにかしら?」

「"空白領域"ですが、おそらく"重力障壁"を使って生み出していると思います」

「フィルトゥーラの使う重力魔法のような?」

 エリーゼさんの言葉に、私はちらりと自身の両手にあるガントレットを見ます。

「私の装備はGバッテリーを使った簡易な物です。でも、今回の帰還軍の旗艦である"アイテール"には"重力ジェネレータ"が搭載されています。その性能は比べ物になりません」

 Gバッテリーは内部に重力粒子を一時的に溜め込み、活用できるようになっているだけのもの。対して重力ジェネレータは重力粒子を自身で発生させます。規模・出力共に圧倒的な差があります。

「そして"重力ジェネレータ"は破壊してしまうと、"ヴォイダス粒子"と呼ばれる汚染粒子を放出してしまいます。なので……」

「破壊してはいけない?」

「はい」

 引き継ぐように言うコースケさんの言葉を、私は頷きながら肯定します。

「敵旗艦の破壊はダメ、でも機能は止めたい……、なかなか難易度が高いわね」

用語説明


・重力ジェネレータ

 虚質量粒子を封入し、その圧縮密度を可変させ、斥力引力場を波立たせることで

 エネルギーを得る機関。

 推進装置として用いる場合には発生させた斥力引力場を直接用いる。

 圧縮密度の可変には別動力が必要であるため、ジェネレータのスタート時には

 エネルギーを投入する必要がある(ガソリンエンジンのスタータのようなもの)

 ジェネレータ稼働後は、自身の発生させるエネルギーで連続稼働が可能。

 虚質量粒子の密度変化による斥力は、虚数空間からエネルギーを取り出す行為。

 そのため、このシステム自体はほぼ永久機関。

 ただし、使用するほどに虚質量粒子が増加していくため、定期的に粒子を

 取り出す必要がある。

 炉自体は重力遮断物質ケイヴァーライトで覆われているため、外部に

 斥力引力場の揺らぎは漏れない。


・ヴォイダス粒子(虚質量粒子)

 マイナス質量を持つ粒子。重力ジェネレータからエネルギーを生成すると

 発生する。

 定期的に取り出さないとあふれる。この宇宙に少量が漏れる程度ならそれほどの

 影響はないが、

 一定以上増えると突然爆発的に増殖を始める。

 (自身の発する斥力と、この宇宙に存在する引力の綱引きで圧縮開放を繰り

  返して増殖してしまう)

 結果として莫大なエネルギーとともに虚恒星や虚ブラックホールが生み出され、

 銀河、ひいては宇宙が崩壊する。

 圧縮開放することでエネルギーを放出し、自身のコピーを増やしていく。取り扱い

 注意の危険粒子

 取り出した分と同等のエネルギーを付与することで、質量が発生し対消滅する。

 なんのデメリットもなく無限にエネルギーを取り出せる機関は存在しないのです。

 産業廃棄物は適切に処理しましょう。


・Gバッテリー

 重力子グラビトンを貯蔵する装置。

 質量0の重力遮断物質ケイヴァーライトで極々小の空間を形成し、そこに重力子を

 封入することで"重力"を捕獲できる。

 段階的に開放することで、疑似重力を保持するバッテリーになる。

 重力子の開放停止を繰り返し、重力変化を発生させることによる発電も可能。

 バッテリーである以上、蓄積している重力子をすべて放出してしまえば使えなくなる

 が、重力が存在する場所であれば、少しずつ蓄積し最充填することが可能。

 ただし、地球程度の重力下では充填速度はお世辞にも速くはない。

 重力ジェネレータで充填できれば、数分で充填可能。


・エグゾスーツ

 正式名、拡張外骨格エグゾスケルトンスーツ

 元々は人間が火星環境で活動するために制作されたスーツ。行動補助としてパワーアシストや、

 飛行システムなどの機能改修が進み、軍事でも利用されるようになった。

 地球帰還軍に採用されているスーツには、Gバッテリーも搭載されており、重力による推進や、

 重力障壁による防御も可能。

 高深度感染者向けとして、ディール粒子侵入防止機能も搭載されている。


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