2.独断専行
3日ほどの間で、3人の方からブグマいただきました!
ありがとうございます!
私は第13独立部隊屯所の屋上で夜空に浮かぶ月を見上げながら、長時間の会議で凝った肩を伸ばします。
"火星帰還軍"の情報を共有するための会議は終わり、エリーゼさんたちは王国上層部へも情報共有するとのことで、一旦解散になりました。コースケさんとレインさんは一旦下宿に帰りましたが、私は"重要参考人"ということで、屯所内に残されました。
私はバックパックから通信端末を取り出し、電源を入れました。重力波を利用した通信機で、本来ならば"本隊"と連絡をするための装置です。エリーゼさんもコースケさんも、私の装備を取り上げるようなことはしませんでした。
「お人好しなのか、それとも信用されているのか……」
私は動画メッセージを作成すべく、メニューからムービー録画機能を起動しました。"帰還軍本隊"へ、ではなく、火星の父へと連絡するために。
「えっと、お、お父さん、フィルです。急にごめんね、どうしても伝えなきゃいけないことができたので、メールします。あ、地球は結構いいところだよ。ご飯美味しいし、良い人たちにも会えたし……、ちょっと危ない時はあるけど、でも大丈夫、私なら心配ないよ……。あ、そうだ、伝えなきゃいけないことだったよね……。感染者のことでわかったことがあったんだ。彼らは今の地球ではスーツ無しには生きられないの。粘膜組織がディール粒子か、もしくは粒子が媒介するエネルギーに弱いみたい。スーツが無いと数秒から数分で煙を吹きながら溶けてしまった……。だから、縮退炉があれば火星も……」
そこまで動画を撮り、私は言葉に詰まってしまった。火星に縮退炉なんて無い……。これを父に送っても、何の助けにもならないかもしれません……。
「ま、また何かわかったら、連絡するね」
私は動画を保存し、そこで悩みました。父は対アレス地下組織"リベレイター"の一員です。アレス感染者に乗っ取られつつある火星社会を救うべく、密かに活動しています。私もその手伝いをしていました。今回のこの情報は、リベレイターが欲して止まない"逆転の一手"になるでしょう。でも火星には縮退炉がありません。当然ディール粒子もほとんど存在せず、ディールレイヤーネットワークもありません。この情報を送ったところで、実現できない対抗策。手の届かない希望をチラつかせ、さらに絶望を誘うだけなのではないでしょうか……。
「いえ……」
無いなら持って行ってしまえばいい……。私は動画メッセージを火星の父宛てで送信します。
私は立ち上がり、後ろを振り返ります。屯所の屋上へ上がる階段がありますが、そこには誰もいません。"重要参考人"であるとされた自分が、勝手気ままに屋上に上がることができ、監視も付いていません。そんな自分の状況を顧みて……、
「やっぱりお人好しすぎますよ……。みなさん、ごめんなさい……」
誰もいない虚空へと謝罪を述べ、私は屋上から跳躍しました。
丘陵地の谷間、一見すると何もないその場所は、じっと見つめていると僅かに景色が歪みます。私はその場所に近づき、虚空にぽっかりと穴のように開いた通路へと立ち入りました。10m程歩くと、ドーム状の薄暗い内部空間へとたどり着きます。
ここは防衛要塞アーク。火星帰還軍に見つかるのを防ぐため、改修可能リストには在っても未実装だった"隠密装甲"と"光学迷彩"という機能を実装し、その姿を隠しています。ただ、扉が壊れたまま未修理の出入り口は隠せないらしく、道端に黒い穴がぽっかり開いているような不気味な状況になっていました。
「さすがに宇宙を航行する能力はありませんか……」
中央管制棟内にあるコントロールルームにて、私はコンソールから一通り機能の調査をし、小さく呟きました。
数多くの武装と強固な外壁で縮退炉を護るこの要塞は、その過剰なスペック故に飛行することすら可能でした。もしかしたら、"この要塞でそのまま火星に行けるのでは?"と考え、ここまでやってきましたが、そんなに都合良くはいかないようです。どうやらディール粒子の生み出す思念力は、宇宙空間ではその効果を十分に発揮できないようです。
この要塞は自己改修機能があります。なんとかして宇宙空間で推進力を得る機能を搭載できれば……。
「重力ジェネレータ……」
帰還軍の旗艦アイテールが、重力ジェネレータなら火星-地球間の航行が可能であることを証明しています。しかし"重力ジェネレータ"は火星に移住してから開発された技術です。いくらこの要塞でも重力ジェネレータは作成できないようです。私も細かい技術はわかりませんし……。
「……」
旗艦アイテールには地球で唯一の重力ジェネレータが存在しています。アイテールからジェネレータを奪い、この要塞の自己改修でそれを取り込めば……。
今の姿を消した状態なら、アイテールに近づけるかもしれない……。
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「ちょっと、フィルトゥーラが消えたってどういうこと!?」
第13独立部隊屯所、談話室にエリーゼが飛び込んできた。
「"アーク"を動かしてどこかへ向かったらしい……」
どこにも行き場は無いと思い、いや、彼女は既に仲間だと信じたかったのかもしれない……。やはり誰かが監視しておくべきだったか。
「行先はわかるの!?」
「あれだけの大掛かりな施設であるため、思念力の発生痕跡が顕著に残っています。西方向へ向かったようです」
レインは分析結果を再確認しつつ述べる。
「西……、まさか要塞を"帰還軍"に?」
「いや、帰還軍の目的は破壊だ、たぶん別の目的が……」
フィルトゥーラが本当は帰還軍のスパイだったとしたら、わざわざ要塞を持ち去る必要はない。中に忍び込み、縮退炉を破壊して姿を晦ますだけでいい。
「と、とにかく追って止めないと──」
「いや……、案外いいかもしれない……」
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「い、意外と行けちゃうもんですね……」
以前この防衛要塞アークを発見した場所は既に通過し、今はさらに西へ向かっているところです。途中、何度か"帰還軍"とすれ違いました。この要塞を探して広く展開しているのか、すれ違う部隊は小隊であることが多かったです。ただ、一度飛行空母とすれ違ったときは生きた心地がしませんでした。結局見つからなかったのですが……。この要塞の隠蔽機能はなかなかすごかったようです。
「そろそろ空白領域に入るはず……」
防衛要塞アークに捕まっていた人たちは、"西から逃げてきた"と言っていました。人が徒歩で逃げられる距離ならば、この要塞ですぐに到着できそうなものですが……・
「!」
膜状の何かを通過したような感覚。と同時にアークの操作コンソールに粒子量低下のアラートが灯りました。ついに空白領域に入りましたっ! そうだ! 思念力はディール粒子が無いと発生しないのですよね? ということは、この要塞飛べなくなる!?
私は焦ってガチャガチャとコンソールを操作し、各部の状況を確認します。
「ど、どうやら大丈夫そうですね……」
要塞内に縮退炉があるためか、周囲の粒子が激減しても引き続き飛行できるようです。速度はかなり下がりましたが……。
「このままアイテールまで──」
直後、轟音と共に要塞全体に揺れが響き渡ります。モニターに周囲の状況が次々と映し出されます。
「えっ!?」
いつの間にか正面に飛行空母。そして30体以上のエグゾスーツ部隊に包囲されています。
『くせぇ! 泥臭い粉のくせぇ匂いだ!!』
モニター越しで、音声がこちらに届きます。とても同一人物とは思えない発言ですが、この声には聞き覚えがあります。
「え、エムルス……!?」
更に要塞が揺れます。周囲のエグゾスーツ隊と、前方の飛行空母から激しく攻撃を受けています。
「ぶ、武装を……」
コンソールを操作し、武装を起動します。すべての機銃を展開し攻撃開始します。
「あ、当たりません……」
エグゾスーツ隊は周囲をクルクル飛び回り、機銃を避けてひたすら攻撃を加えてきます。自動照準では精度が甘いためか、飛び回るエグゾスーツに当たりません。とはいえ、百以上の機銃に手動照準することもできません、それこそレインさんくらいの演算能力が無ければ……。
ひと際大きな振動と共に、要塞がぐらりと傾きます。
「衝撃放射砲が!」
モニターには衝撃放射砲の2基が停止したとの情報が表示されています。飛行に使用していた12の衝撃放射砲の内2基が停止したことで、要塞が高度を落としていきます。
要塞は底をあちこちにこすりつけ、乗り上げるように山の斜面にぶつかり、停止しました。
『あっはっはっはっはっ!! 出てきなさいよ重撃姫ぃぃ!! 中にいるんだろぉぉ!!』
まだ生きているモニターからは、エムルスの下品な笑い声が響きました。




