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5.亜竜を討伐しよう

「まさにおつかいイベントだよなぁ」

 鬼猿の素材で武器防具を一新した僕たちは、更なる強力な装備を求めて亜竜種魔獣の討伐へ出発した。僕は後ろを歩くフィルトゥーラの姿をちらりと見る。

「どうかしましたか?」

 前を歩く僕に向け、彼女は不思議そうな表情で問う。

「いや、いつの間にか一緒に狩りに行くのが当然みたいな流れになってるなぁって」

「ここは、"こんな美少女と一緒に冒険できるなんて"と、喜ぶところです」

『美少女妖精もいるよー!!』

「自分らで美少女とか言うな……」





 不自然に森が開け、一面が草原となった窪地が現れる。その窪地の中心部で翼を休める存在が1体。

『飛竜だよ。亜竜種の魔獣だね』

 翼をたたみ、目を閉じて身動きしない飛竜。遠巻きに見た感じはテレビや図鑑で見た翼のある恐竜、翼竜のような姿だ。その飛竜も今のところ動きは無い。僕らの接近に気づいていないか、もしくは気付いていても脅威とは感じていないか……。

 当然"飛竜"であるなら空を飛ぶ。空を飛ばれたら僕の短剣では届かない。かといって、いきなり投げナイフなぞ使えない。ということで、フィルトゥーラ頼みではあるが、彼女のスキル重力(グラヴィティ)で敵を下に引き付けて攻撃する作戦だ。


「行こう」

「はい!」

 フィルトゥーラと共に飛竜に向け一気に駆ける。僕らの動きに早々と対応し、飛竜はその翼を広げる。

「クルゥゥゥゥッ!!」

 僕らに向け威嚇ともとれる鳴き声を叩きつけ、その巨大な翼を羽ばたき上昇を開始する。


「行かせません」

 フィルトゥーラは走りながら右手を飛竜に向けて翳す。直後、ガクっと飛竜の上昇は高さ10mほどで停止し、その高度でじたばたと強引な羽ばたきを繰り返す。

「ぐっ!」

 フィルトゥーラが足を止め、飛竜に向け両手を翳す。顔には余裕が見られない。

「アーヴァ、早く……」

加速(スピード)! 膂力(パワー)!」

 ドスン! と地面にめり込むほどの踏み込みの後、僕は跳躍する。高度10mで暴れる飛竜の元へと到達した僕の体を、飛竜の大きな顎が迎える。

「っ!!」

 とっさに左手に持つ短剣を投げつける。"投擲"などという御大層なものではななく、ただ投げつけただけだ。しかし回転しながら突っ込んでいった短剣は、飛竜の翼付け根、肩の辺りへと突き刺さった。

「クアァァァァァッ!!」

 飛竜が怯んだところへ僕の体が到達、頭部にしがみつき、奴の左目へ右手の短剣を刺し入れる。ぶちゅっという気持ち悪い手ごたえと共に、短剣が鍔元まで潜り込む。

「クギャァァァァァァァッ!!!」

「あぁっ!!」

 飛竜は空中で激しく暴れ、僕は振り落とされてしまい、さらにはフィルトゥーラの縛る不可視の拘束からも抜け出てしまった。

『アーヴァ!!』

 クスタの悲鳴のような声を聴きつつ、僕はそのまま背中から地面に落下した。

「ぐぇぇ」

 衝突の衝撃で思わずおかしな声が口から漏れた。下草が生えているとはいえ、地面に背中から激突したため一瞬息が詰まる。




「クアァァァァァァァァァァァーーーーー!!!」

 高さ50m以上の高さを飛びながら、飛竜は鳴き声を挙げる。その様子は大層ご立腹のようだ。


「フィルトゥーラ!」

 僕は彼女の名を呼び、その目を見る。一瞬彼女は目を見開き、そして頷く。


「クアァァッ!!」

 怒りに満ちた叫びを一声挙げ、飛竜はその軌道を変えて僕らに向け急降下を開始する。僕は飛竜に向け駆け、急降下する奴に向けて跳躍した。彼我の距離が急速に縮まる。奴はその巨大な顎を開き、今度こそは僕を食いちぎらんと牙をむく。

 衝突の刹那、僕のすぐ脇に半透明の円盤らしきものが発生する。僕は確信を持ち、そこに足をかける。足に感じる確かな感触、そこを蹴り軌道を変え、ギリギリで飛竜の真上を飛び越える。


「クアッ!!」

 飛竜は短い悲鳴を上げ飛行が乱れる。その背中には一筋の切り傷が走っていた。空に浮かぶ僕の左手には短剣が戻った。飛竜の上を通過する際に、肩に刺さっていた短剣を抜きつつ背中を斬りつけたのだ。


 空中に半透明の円盤が多数出現し、奴に向かう道筋を空へ描き出す。地上に在ってフィルトゥーラが自身のスキルで足場を形成してくれている。

 僕は足場を次々に経由し一気に飛竜へと肉薄、通過しながら斬りつける。翼膜が切り裂かれ、急激に動きが鈍る。その間も、飛竜の周囲には次々と半透明の足場が生み出されていく。それらを渡り、何度も飛竜へと短剣を突き入れ切り裂く。


「クァァァァ……」

 飛竜は飛行を維持できなくなり、頭から落下し始める。僕もそのあとを追い、飛竜墜落に合わせるように落下直後のその巨体に2本の短剣を突き立てた。


「グボァ」

 飛竜は奇妙なうめきを漏らし、その体が消滅する。消えた跡には、牙やら翼膜やら皮、それに玉っぽい物まで落ちていた。


【スキル:投影(シャドー)をドレインしますか? > Yes / No 】


「いてて、スキル……、投影(シャドー)ってどんなスキル?」

 少々無理したために痛む腰を叩きつつ立ち上がり、頭に流れるメッセージについてクスタに聞いた。

『自分の幻影を纏うんだよー。敵の攻撃を何でも1回防げるの!』

 ふむ、1回きりのバリアみたいなものか。強力だけど防御的スキルだ。それなら今の膂力(パワー)加速(スピード)のほうが攻撃力ありそうだし……。いっそ大吉(ラッキー)を上書きするのも手か? 固有(ユニーク)スキルは上書きしても、スキルを消せば戻せるらしいし……。でもなぁ、今後の素材集めを考えると……。

「よし、とりあえず今はこのままにしておこう」

 投影(シャドー)のドレインは見送る。スキル3つと言わず、もっとたくさん付けれたらよかったのに……。

『3つでもすごいんだから、ぜいたく言っちゃだめだよー!!』

「思考にツッコミ入れないでもらえるかな……」


「おつかれさまでした、まるでピンボールを見ているようでした」

「フィルトゥーラもお疲れ様、きみのおかげだよ……、って、僕をピンボールの玉扱いしてる!?」

 フィルトゥーラは僕の言葉に口元だけで少しニヤリと笑った。






「さすがだな、アーヴァ。もう飛竜を討伐してきたのか」

 ギルドへ帰還報告に向かうと、いつも通りにカウンターにはバッシュが居り、彼は気安くそう告げた。

「彼女のおかげだよ」

 僕はすぐ後ろにいたフィルトゥーラに視線を向ける。彼女は胸を張り、フンスと鼻息の音が聞こえそうなほどのドヤ顔だ。

「私がアーヴァを見事に使いこなしたのです」

「え、使い……?」

「せめて人扱いしてくれ」


「こりゃ、お前さんたちなら、案外魔竜王もアッサリ倒しちまうかもな」

「いざとなったら私がアーヴァを砲弾替わりに……」

「だから人扱いしてくれ」


 ギルドではそんなやり取りで報告を済ませ、ギルドに隣接する鍛冶屋へと素材を持ち込んだ。

「らっしゃい、おお、アンタか」

「ども」

 カウンターには馴染みの店員が居た。鍛冶屋に素材を持ち込むのも3度目で、すっかり顔を覚えられたらしい。残念ながら、彼の名前は聞いていないため、"彼"としか呼べないのだが。

「また装備を作ってほしくて」

 僕は飛竜素材をカウンターに置く。

「こいつは飛竜か! 久しぶりにお目にかかったぜ。やっぱアンタすごい奴だよ。ソルジャーになってこんなに早く亜竜狩る奴は見たことねぇよ」

「はは、どうも」

 まっすぐな賞賛をかけてくれる彼の言葉に、僕はなんだか気恥ずかしくなる。

「そっちの嬢ちゃんの装備も新しくするってことでいいかい?」

「はい、よろしく」


 素材一式を受け取った彼は、それらを抱えるサイズの籠に入れ、メモ書きした木の板をそこに差し入れる。

「そんじゃ、これ引換証な」

 先ほどの木の板とは別の木製フダが差し出される。装備の作成には数日かかり、完成後にはこのフダと装備を引き換えにするのだ。

「はい、じゃあ、お願いしま──」

 僕はフダを受け取り、最後に彼の顔を見て声をかけようとし、その異常に気が付いた。


「え?」

 彼の顔は黒一色になっていた。

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