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1936/1936

PHASE-1936【射貫く】

「さて、さて。針灸にもならなかったが返礼はしておかないとな――」

 百を優に超える矢の雨を問題なくやり過ごせば、ドラゴニュート特有の縦長の黒目がやおら動く。

 視線は俺たちの後方。


「全軍停止で! 回避してください! 大地を波のようにうねらせることが出来る大魔法が来ますよ!」


「遅いよな。グランドウェーブ!」

 ルツェルンハンマー形状のウォーハンマー。

 凹凸のある打撃面でここでも地面を叩けば大地がうねる。

 顕現させた者を中心に、前方の地面が扇状にうねり進んでいく。

 俺とコクリコは跳躍で回避しつつ、アドンとサムソンを足場として使用。

 2~4メートルの大地の波が勢いよく騎兵たちへと向かって進んで行くところで高順氏が槍を掲げれば、いつものようにロンゲルさんが角笛を吹く。


「凄いな」


「正に一つの生き物ですよ」

 宙に浮く俺とコクリコは騎兵たちの動きに感心の声を漏らす。

 俺たちだけでなく、


「これはこれは。本来なら我が一撃で騎兵たちは無様に吹き飛びうねりに叩きつけられて命を散らすのだがな。恐れ入ったぞ剽悍なる者達よ! こちらの手勢が勝てないのも得心がいく!」

 武人らしく大音声で高順氏たちを褒め称えるコリドーガ。

 ティタノモアやワーグなら跳躍で回避も可能だろうが馬たちもやってのけるとはね。

 正直、馬たちはギリギリだったけど。

 ギリギリであっても跳び越えることが出来たのは、高順氏がうねる大地の波が最も低いところを見計らって的確な跳躍指示を出したからだ。

 これだけでも神技と言っても過言じゃないけども、馬甲に武具を纏った兵たちを乗せている中で跳んで躱した馬たちは凄い。

 こういった有り得ないことを可能にしているのも高順氏の騎乗スキルやユニークスキルがあってのものなんだろう。

 無論、騎兵や馬たちの練度と戦闘経験からくる技量も大きいけど。


「だが何度も続くかな」

 大魔法の連打とばかりにウォーハンマーを再び掲げたところで、


「シッ!」

 小さくも勢いある息を吐き出すのは高順氏。


「無駄な――ぬ!?」

 放たれる矢は青白い輝き。

 これを見て構えをやめると頭をかばうように右腕を壁にすれば、


「「おおっ!!」」

 コクリコと一緒になって驚きの声を上げる。

 今まで傷をつけることも出来なかったコリドーガの鱗を高順氏が放った矢が貫く。

 鏃の輝き。


「ミスリルの鏃とは贅沢だな。貫くことに特化させた尖鋭。加えて無理に抜けば傷口を広げる腸抉か」


「耳長賢人による自慢の一矢だ。そして古代文字が刻まれている。回復遅延の念が刻まれているということだった」


「だろうな。鏃に刻まれているルーンを見れば理解できる。まったく厄介な代物を作っている。だが――流石はエルフと言ってやろう。この俺の体を貫くのだから」

 まったくだよ。俺なんてそれ以上の素材を使ってる刀だってのに斬れもしなかったぞ……。

 腕力と張力の差ってことなのかな……。


「貴重な矢だな」


「卿を相手にするには必要不可欠だろう」


「不可欠だがこれでも足りんな。まったく足りん。脅威にもならん」


「ならばこの場にいる全員が放てばどうか?」


「――些かだが脅威にはなる」


「素直なのは良いことだ」


「俺の攻撃を受けて尚、恐れることなく再度挑み、騎射にて矢を突き刺してくる。貴様の武威は中々だ」


「強者から胆力を称頌しょうしょうされるのは誇らしくある」


「ならばその誇りを抱いて死ぬがいい」


「それは御免蒙る」

 穂先が空へと向けば騎兵達が一斉に矢を番えてコリドーガへと構える。

 全てがミスリルの矢ってことなのか。

 構える姿を眺めれば――間違いなく青白く輝いていた。

 本当に全部ミスリルだ。

 騎兵一人一人が有しているとなればかなりのミスリルが使用されているってことになる。


「面倒なことだ。だがミスリルの矢であろうとも俺を絶命へと至らせるには足りない」


「ならば致命くらいには追い込みたいところだ」


「それも無理! 暴虐を尽くし喰い荒らせ――ランドラヴェナス!」

 コリドーガが力強く地面を踏みつければ、引き絞る騎兵たちの真下に巨大な大口が現れる。


「ランドイーターか!」

 有能な騎兵数騎が大口によって騎乗していた馬ごと命を奪われる……。


「聞いていたか小僧。ランドラヴェナスだ。お前の口にした魔法の上位だ」

 コリドーガの発言に合わせるように大地が震えれば、大口部分の地面が大きく盛り上がってくる。

 濛々とした土煙を一帯へと巻き上げながら出てくるのは、


「土のワーム」


「ゴーレムやマッドマンだけがクリエイト系の召喚魔法ではないということだ」

 大口を召喚する魔法の上位はその大口を有した巨大な土から出来たワーム系を呼び出すというもの。


「雑魚共を大いに喰らってやれ」

 その間に自分は俺たちの相手か。


「それは無理ってもんだよ!」


「お、ミルモン」


「お待たせ」

 ダイフクと共に俺の元へとやってきてくれる中で、


「豆粒が何を言うのやら。よもや遅参したお前があの雑魚共のために戦うと?」

 質問を受ければ、


「ちがうよ。もっともっと強い人が相手をしてくれるよ」


「強い人?」

 ミルモンの言葉が気になれば、コリドーガは騎兵たちの方へと目を向ける――と、ほぼ同時に、


「なんだ!?」

 土のワームが十全の力を見せつける前に大口を両断されれば、瞬く間にただの土へと戻ってボロボロと崩れ落ちていく。


「はい、勝ちです」


「だな」

 コクリコに続く。

 でもまあ、自分の力で解決できてないことには、毎度のことながら情けなさを感じてしまうけどね……。


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