PHASE-1498【無駄が過ぎる】
俺達の側で見ているラズヴァートがそうなんだから、直接に猛威を振るわれている側となれば――、
「くそ! 勇者に手が届かないとは!」
と、ラズヴァート以上に驚愕となるのは当たり前だよね。
冷静な所作だった生徒会長は、ベルの強さを目の当たりにする度に、冷静な精神が剥がされていき、焦りが強くなっていく。
当然ながら指揮する存在がそうなってしまえば、周りの連中にも伝播する。
――五百はいた連中が今では百ほどにまで減少。
頼りにしていたであろう前衛部隊指揮を担当していたストームトルーパー達も、まともに動ける者はいない。
俺のへっぽこ剣舞による揺さぶりって必要なかったよね……。そう思えるほどに、ベルの個の武力だけで全てが解決していく。
「どうすりゃ止まるんだよ……」
ここでも肩越しに見れば目が合う。声は弱々しいが、目力は強い。
素直な気持ちからの質問だというのが伝わってくる。
この現状を覆す打開策を知りたいといったところだろう。
それを敵である俺に聞くのもどうかと思うんだけども――、
「簡単だ。翼幻王との謁見を認めてくれればいいだけだ」
「ごめんだね」
「お前、この現状を見てまだそんな事が言えるんだな。今のベルは一割程度の力しか発揮していないと思うぞ」
「そりゃ流石に誇張しすぎだ」
「いやいやちゃんと見ろよ。ずっと無手だからね。しかも命を奪わないという手加減による戦い方だからな」
言ってやれば顔を伏せてしまう。
これ以上、自分が積み重ねてきた努力を否定されたくないという思いがあるのか、眼界で起こっている現実を受け入れたくないようだ。
受け入れたくなくて顔を伏せようとも、戦闘は進んで行く。
「そろそろ降伏しろ。どうあがいても俺には届かない。このままだと要塞で爆発が続くだけだぞ」
「黙れ!」
生徒会長による怒号。
焦ることで本性が出たかな?
以外と激情タイプなのかもな。ラズヴァートとは案外、似たもの同士なのかもしれない。
「ここから先へは絶対に通さない!」
いよいよとばかりに生徒会長も動き出す。
羽ばたいて壁上から離れれば、十文字槍の矛先を俺へと向ける。
絶対に俺の所まで辿り着くという気概が、モノクルの奥の右目に宿っている。
「一点突破!」
そう号令を発し、壁上にいた後衛たちが生徒会長に続くように飛び立つ。
突撃陣形は魚鱗を思わせるもの。
「一塊なのは有り難いですね!」
ベルにばかり活躍はさせないと、ここぞとばかりにアークディフュージョンを放つコクリコ。
全体にまんべんなく電撃を伝えるために、アドンとサムソンを自分の周囲から解き放っての翼包囲によるもの。
「なめるな!」
落ち着きある口調から一転して熱血系を宿した声となれば、先頭を飛行する生徒会長が一人、陣形から飛び出し、
「グラトニー!」
「おう!?」
「なんと!?」
「へ~」
俺とコクリコは驚き、リンは感心の声。
まさかのカンターマジックである大魔法グラトニー。
しかも詠唱破棄によるもの。
生徒会長の前方に顕現する黒い穴。
その中へと吸い込まれていくコクリコのアークディフュージョン。
「その程度の魔法など!」
と、意気揚々。
凄いのは凄い。
が――、
「リンのに比べると小さいな」
リンのグラトニーがバランスボールサイズなら、生徒会長のはバスケットボールサイズだった。
術者の技量差が見て取れた。
だとしても、大魔法の詠唱破棄は凄いけど。
「お前達の魔法など通用しない!」
強気に発せば後に続く者達も鼓舞されたようで、湧き上がる思いを大音声へと変えていた。
鼓舞することで下の者達を奮い立たせる事が出来る指揮官は優秀。
先生が好むタイプだな。
「生意気ぃ! ファイヤーボール!」
牽制魔法程度を防いだくらいでいい気になるなとばかりに、コクリコはお得意のファイヤーボールを続けて放つ。
アークディフュージョンからの即撃ちということもあり、装身具で力を練ることはできていないが、アドンとサムソンからも放っての三連射。
「だから無駄なんだよ!」
強気な生徒会長。
発言どおりグラトニーによって吸い込まれる。
「お前たちの自慢の魔法も我がグラトニーの前では無意味!」
得意げだな。
発言を耳にしてコクリコは悔しそうだ。
そんな悔しそうなコクリコを横目に、俺は頤に拇指と食指を当てる。
仕草に見合うほどの熟考は必要ないんだけどね。
導き出される感想は――、
「燃費わりいな」
といったもの。
ムキになるコクリコがバカみたいにファイヤーボールを放ち続けるけども、それに対しての発言ではない。
魔法による攻防をダメージ交換に置き換えれば、生徒会長は無駄が過ぎる。
障壁魔法でも対応可能なのに、大魔法であるグラトニーを展開し続けて対応しているからね。
低位魔法を大魔法で対処。
集中力の持続からすれば、明らかに負担はコクリコよりも大きい。
それでも維持しないといけない理由があるとするなら、
「「「「っうおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおぉぉぉおっ!!!!」」」」」
後に続く者達が、攻撃魔法を吸収する光景を目にして鬨の声を上げ、戦意高揚に繋がっている以上、現在の行動を止めるわけにはいかないんだろう。
士気を高め、それを持続させるためにも、生徒会長はグラトニーを解くことができない。
期待が重圧に変わる中、現状を維持するのはかなりの負担になるだろうね。
――ここでの戦闘による決着は近いな。




