第27話
リムリカ村の入り口近く、宿屋に面した空き地で
四頭立ての三台の馬車の御者であり下男である三人の男たちが馬4×3=12頭の世話をしていた。
馬を馬車から外して宿屋にある馬用の水飲み場の飼い葉桶の周りに繋いだ。
飼い葉桶に干し草と飲み水と馬体の清掃と蹄鉄のチェックを終えて……宿屋の食堂で自分たちも食事をして少し葡萄酒も飲みそれぞれに馬車に積まれている自分の毛布で担当の馬車の中で休むところだった。
それはもう夜中の12時過ぎだったが、空を見上げると、大きな何十匹もの獣のような黒い影が宿屋の屋根の上にいるのが見えた。
黒い影の眼が、気づいた御者たちをギロリ!と睨んだ。
「ぎゃああーー!!」御者の若い一番小柄な男が悲鳴をあげた……バケモンだあぁ!!……
クリスタルが、屋根をぶち抜いて屋根の上に踊り出ると、いきなり大剣で辺りを薙ぎ払った。
エレオノーラとギニーンがクリスタルのぶち抜いた屋根の穴から続いて飛び出した。
男のハンター三人がそれぞれの武器を構えて二階のテラスへ飛び出した。女二人がそれに続く。女二人は呪文の詠唱を始めた。宿屋の一階にいたヘラクレスが巨大なこん棒のメイスを持って宿の入り口から飛び出した。
ハルナは寝ぼけ眼の小公子の横で密着して守っている。ハルナの後ろに執事とアナスタシアが身を守っている
「ガーゴイルだな」とクリスタル
「鳥のバケモンかい」とギニーン
素早さ一番のエレオノーラがいきなり目の前のガーゴイルを力任せに真っ二つにした
クリスタルは剣に弾みを付けて大回転させる。
そのままガーゴイルの群れの中へ突っ込んで行く
何十匹のガーゴイルが首や胴体を切断され、そのまま呪われた妖剣ダイモスに吸収されていく。
ギニーンは両手に持った大剣を軽く振って二匹三匹を首、胴と真っ二つにしていく。
月も星も無い黒雲に覆われた夜空
ヘラクレスが「ライトニング! うふーん♪」と叫ぶとヘラクレスの身体から一条の光の玉が空中に飛び光源となった
その光に何百というガーゴイルの闇に溶けていた影が浮かび上がる
ヘラクレスは宿の入り口に来た何十匹というガーゴイルの頭をメイスで粉砕していく。
ビオルが白銀の弓を構えて一度に七本の矢をつがえるとヒョウ!と放った。
一度に七匹のガーゴイルが矢に射抜かれて墜落していく。ビオルは弓をさらに撃ちまくる。
ゼネは左右の手に冷たく輝く鋼鉄のブーメランを構え同時に放った。
左右の大きな光の弧を描いて9匹のガーゴイルの喉や眼をえぐりゼネの手元にブーメランは帰ってきた。
ゼネはブーメランをさらに放つ。
ハビンは両手に短剣を振りかざし一撃必殺でガーゴイルを次々仕留めていく。
ーーあたりは悪臭を放つガーゴイルの死体の山であるーー魔物の死体は厄介だーー
ーー宿の屋根と言わず周りの土の上と言わずガーゴイルの死体だらけーー呪い毒性があるので疫病や作物が育たなくなる原因にならないように早く後で浄化して燃やさねばならないーー
裏口のほうで4,5匹のガーゴイルが宿の中に侵入した
ゼネがハビンに言った「小公子の方を守ってくれ」
「ハビン、攻撃は俺らにまかせてガキのほうをたのむ」とビオル
ハビンは全員が攻撃に廻ってると見ると、「ちぇ!」と言い、宿の中へ走って戻り、ハルナと共に両手に短剣を構えて、小公子と執事とアナスタシアを守った。
宿の裏口で叫び声が起きた「誰か来てー!」
見ると、3,4匹のガーゴイルが宿の10歳位の少年を連れ去ろうとしている。
ーーガグググ コノガキダ!ーー
それに対して若夫婦と老夫婦の四人が必死で少年にしがみついている。
「小公子と間違われたのか」とクリスタルがすぐ反応し走る
一番素早いエレオノーラがすぐ、少年の手足を引っ張る4匹のガーゴイルを大剣を数回振りさばき瞬殺した。ところがクリスタルがそのガーゴイルに斬撃を放ったのが同時だった。
「しまった!」クリスタルの斬撃がエレオノーラに直撃してエレオノーラは吹き飛ばされて宿の石壁に叩き付けられた。
その時、女魔法使い二人の呪文の詠唱が終わった
「全範囲焼殺! 焼き尽くせ!」「全範囲焼殺! 焼き尽くせ!」
二人が同時に放った炎の究極呪文エクスウロ2発はすさまじい光と熱と大爆発を起こした。
空中にあった200近いガーゴイルの黒い影が燃え上がった
魔物たちの耳をつんざく悲鳴が数限りなく上がり消えて行った
魔物たちは空中でそのまま燃え尽きた。
地面や屋根にうず高く積もっていた死体もすべて燃えて灰となった。
「すげー」「さすが魔法使いだなー大火力だわ」「こわっ!血も涙もねえなー」
アイロス小公子の執事が宿の屋根の修理代金を払い、宿の老夫婦と若夫婦に謝罪した。
魔物はすべて消滅し、みんなは、ヤレヤレと肩を撫でおろし、取り合えず、朝まで寝ることにした。
クリスタルはエレオノーラをお姫様抱っこして、小公子の部屋のアナスタシアが寝ていたベッドに寝かせて、ハルナとヘラクレスが治癒呪文をかけた。
エレオノーラは丈夫なたちだったので、打ち身だけで済み、すぐに元気になった。
「さ、取り合えず、朝まで寝なおそうよ」とどこに隠れていたのか、現れたリユが偉そうに仕切って言った。