第26話
馬車はレッサム街道をひた走る
真ん中の馬車の中から小さな女の子の嬌声が聞こえてきた。
「きゃーきゃーあははは」
このメンバーに幼い女の子なんていなかったはず……
アイロス小公子の快活な声弾んだ声
「……リユちゃんて面白いなぁ あははは」
小公子はみんなの前では、ずっとうつ向いていて暗い貝の様に押し黙った少年だったのに
真ん中の馬車は賑やかに笑い声
しんがりの馬車にいるエレオノーラたちには不思議
お昼には御者兼下男の御者から「はい、お昼のお弁当です」と馬車の御者と会話する小さな窓から大きな黒パンが1こづつ配られた
馬車の屋根に置かれた大きな荷物には食料も入っているのだろう
水の入った革袋とコップとオマルの簡易トイレは馬車に最初から置かれている。
……しかしオマルはあまり気分よく使えるものではない……誰かが使っているとき他のメンバーは横を向くか眼を閉じるのだが……
真ん中の馬車は予め積まれていたサンドイッチとサモワールでお茶が沸かされて紅茶を飲んでいる様子。
「いいわねー♪」とヘラクレス
日が沈む頃、レッサム街道沿いのリムリカ村に到着。
一晩小さな宿を借り切って三台の馬車の一行は泊まる。
宿の食堂でみんな揃って食事の時、なぜか見慣れない七歳くらいの幼女がいる。
大皿に盛られた山盛りのソーセジ、籠に盛られた黒パンの山、薄切りの干し肉と豆と野菜のスープ。水で薄めた安物のワインが大きなガラスの水差しに水代わりに置かれている。籠に盛られた山ぶどう。
幼女はやたらはしゃいでいて、アイロス小公子も彼女がいるとやたら機嫌がいい。
幼女はやたら大食いで大人の五人前位をペロリと平らげた。
「リユいいかげんにしなよ」とクリスタル
ギニーンが「お前の子供かい?」と聞くと「こんな性悪なガキ、なわけないだろうが」とクリスタル
「でも連れなんだろ?」とベルとバーバラ
「ああ……そうだ」
「あたしはクリスタルの妹よ」とリユと呼ばれた幼女がケタケタと笑いながら答える
「こいつは魔界のパピヨンゴブリンが変身してるんだよ。人間じゃない」
とクリスタル
「そんなことどっちでもいいです。可愛いもん」とアイロス小公子は笑顔でリユを見つめている
「じゃあ、あたしこの旅が終わるまでこのままでいとくわ」とリユ
「わーい、うれしいな」と笑顔の小公子
ここは客室が三部屋しかなくて各部屋にベッドが二つしかない小さな宿だ。
そのうち一番良い部屋は小公子たちが使う。
ハルナとエレオノーラはベルとバーバラと同室
部屋に木のタライとお湯を持ってきてもらいみんなが順番に身体を洗う。
ベッドが二つしかないが、エレオノーラは毛布一枚で床で寝る。
ハルナがベッドをもらい、もう一つのベッドはベルとバーバラが寄り添って寝る。
アイロス小公子と執事の同じ部屋にクリスタル夫婦も泊まるようだ(パピヨンゴブリンのリユも加わる……すでに小公子の部屋からはリユのけたたましい笑い声が響いて来る)
ギニーンは「男臭いのは嫌だ」と毛布一枚もらい廊下で寝る
すでに一階の食堂の暖炉の前の木の床では毛布一枚をお腹にかけて大男で僧侶のヘラクレスが「ごごごごご」と宿屋の屋根も震えるような大イビキをかいていた。ときどき寝言で「うふん♪」と言う。
エレオノーラとハルナはクリスタル夫婦に宿のテラスに呼び出された。
「エレオノーラさんは歳はおいくつかしら?」とアナスタシアが聞いた。
「わたしは17だよ」とぶっきらぼうな返事。
「そう……やっぱり13歳じゃあないわよね。ごめんなさい」とアナスタシア
ハルナが聞く「それってどういう意味があるんですか?」
アナスタシアとクリスタルは顔を見合わせていたが
クリスタルが口を開いた「実は、俺たちの子供がこいつの腹の中にいた時に転生しちまったのさ」
ハルナとエレオノーラは「?」
「あーー説明しにくいんだけど、おれはクソババアほど博識じゃないんで……まあ、俺たちを救ってくれた俺たちの赤子は破壊の女神ドウルガの魂と結合したまま魂だけになって、どこかの女の腹の胎児に融合しちまったのさ」
「……あたしたち、その子を捜しているんです。13年間、ヴィルガルドのあらゆる場所へ行きました」
アナスタシアは天を見上げた。
そのとき、クリスタルの上着の裾を引っ張ってリユが言った
「あのエレオノーラって子、魂の色が普通と違う。それに年齢は13歳だよ。わたしは人間の歳わかる」
「おまえは、そう言えば人間の歳サバ読んでるの、いちいちひんむくもんな」とクリスタル
「うん」と言い
「クリスタル、あんたが探してんのは、あのエレオノーラって子じゃない?」
「……そうなのか? まあ、いい……」
宿屋の二階の木製の粗末なテラスの上を、嵐でも来るのか生暖かい風がさっと吹き過ぎて行った。
夜空は厚い黒雲で覆われていて星も月も見えない。




