仕組まれたパーティ
すみません。
遅くなりました……。
小型漁船のような船に揺られること二時間。俺たちは小さな島へと到着したのだが……。
「死ぬ……」
船が到着するころには俺はすっかり船酔いをしてしまい、自分で立ち上がるのも困難なほどになっていた。
小学生以来船なんて乗っていなかったからすっかり忘れていたぜ。
とはいえ、ここには俺を担いでペンションまで連れていってくれる力持ちなどいないので俺は泥酔したおっさんのような千鳥足でなんとペンションの寝室室までたどり着いた。
「柄木田くん、大丈夫?」
ベッドで仰向けになる俺の顔をさっきまで肩を貸してくれていた藤谷が心配そうにのぞき込む。
「お、おう……しばらくベッドで休めばなんとかなるから……」
「私たち荷物運んだりするからいったん船に戻るね?」
「なら、俺も手伝うよ。男では俺しかいないんだし」
船酔いしているとはいえ女子に荷物を運ばせて唯一の男手である俺がベッドで寝ているのは面目がなさすぎる。
そう思った俺は何とか上体を起こそうとするが、藤谷はそんな俺の肩を抑えて俺を再び寝かせる。
「そんな大きな荷物はないから大丈夫だよ。それよりもゆっくり休んで晩御飯までには元気になってね」
なんだ。
俺は目の前の少女がマザーテレサのように優しく見えてきた……。
俺はそんなテレサの言いつけを聞いて、荷物運びを彼女たちに任せることにした。
「悪いな……」
そう言うと藤谷は「任せてっ!!」と元気よくグーサインを見せると部屋から出て行った。
そんな彼女の後姿を見送って俺は瞳を閉じた。
が、何となく体勢が気に入らず寝返りを打つ。
すると、
「なっ……」
いつの間に隣のベッドに寝かせつけられていたバルサミ星人と目が合った……。
※ ※ ※
それから俺はどれぐらい眠っていたのだろうか……。
「柄木田くんっ!! 柄木田くんっ!!」
そう藤谷に体を揺すられて目を開いたとき、窓の外はすっかり暗くなっていた。
少なくとも数時間は眠っていたようだ。
藤谷の顔を見やる。藤谷はなんというか妙に深刻そうな顔をしている。
ん?
「た、大変だよ。柄木田くん……」
そう言って相変わらず俺の身体を揺する藤谷。
「た、大変?」
「結城さんがいなくなっちゃったのっ!!」
「はあ?」
「ちょっと船に忘れ物をしたって船に戻ったきり帰ってこないの……」
そんなことを言う藤谷。
彼女のそんな言葉を聞いた瞬間、俺は胸騒ぎを覚えた。
と、その直後、開けられた窓の外から何やら聞き覚えのある声が聞こえてくる。
「師匠~っ!! 藤谷さ~んっ!!」
どうやら、外から澄花が呼んでいるようだ。
すぐに立ち上がれない俺の代わりに藤谷が窓から顔を出すと澄花の声が聞こえてくる。
「大変ですっ!! 船がなくなってますっ!!」
※ ※ ※
胸騒ぎが収まらない。
いや、もはや俺はあの畜生編集の言うことを少しでも信じてしまった自分に嫌気すらさしていた。が、彼女のおかげで目は覚めた。
俺が寝室を抜けてリビングに入ると同時に電話のベルの音が鳴り響く。
胸のざわつきを抑えながら「お、俺が出るよ……」と心配そうに俺を眺める藤谷を制して黒電話の受話器を握る。
受話器の向こうから聞き覚えのある女の陽気な声が聞こえてくる。
『その声は柄木田くんかな? 船酔いの具合はどうかしら?』
「おい、どういうつもりだ?」
『どうもこうもないわ。澄木先生が執筆に集中できるような環境を整えてあげただけよ』
彼女の声を聞いていると殺意すら湧いてくる。
『実はね、来月の新刊のラインナップが今一つでどうしても澄木先生に来月までに新刊を書き上げて売り上げに貢献してもらいたいの』
「それとあんたが船を持って島から逃げ出したのとどう関係があるんだよ」
『柄木田くんって本当に勘が悪いのね。そんなんじゃ女の子の気持ちは読めないわよ』
と、受話器の向こう側から笑い声が聞こえてくる。
『澄木先生が原稿を完成したら迎えの船を出してあげるつもりよ。でも、原稿が出来なければあなたたちは一生その島から出ることはできない。それだけよ』
「はあっ!?」
『言っておくけど、その島はこの電話以外の通信手段は一切使えないわよ。あと、その電話もうちの編集以外に一切電話が掛けられないように細工がしてあるから助けを呼んでも無駄よ。それじゃあ原稿頑張ってね』
「お、おいちょっと待てっ!!」
そう叫ぶが、無情にも受話器の向こうからツーツーと電話が不通になった音が聞こえてくる。
なるほど。
俺たちは結城富美加の罠にまんまと引っかかったようだ……。
※ ※ ※
「もうダメです……。私たちこのままここで死ぬんです……」
事情をペンションに戻ってきた澄花と紗耶香に事情を説明するが、澄花は俺の話を聞くや否やソファに倒れこむ。
「澄木先生、元気出して? ほら、どうしてもアイデアが出ないなら私も一緒に考えるから。ね?」
そんな澄花に藤谷が寄り添って彼女を元気づける。
が、事態はかなりまずいことになった。
「二郎……」
呆然と立ち尽くす俺の袖を紗耶香が珍しく不安げに掴んだ。




