美少女と一大スペクタクル
「師匠、持ってきましたよ~」
数日後の放課後。
俺たちは駅近くのファストフード店で作戦会議をしていた。
澄花がカバンから出してきた原稿の束を受け取り、俺はその分厚さに驚愕する。
ざっとA4用紙百枚分はありそうだ。
「これをたった数日で仕上げるとはさすがは我が弟子だ。よくやった」
そう言って澄花の頭を撫でてやると澄花は「えへへ……」と照れ笑いを浮かべる。
さすがは売れっ子ラノベ作家だ。
さて、俺たちの新たなる失恋作戦が始動した。
何回か、デートを重ねた俺と澄花だったが、なかなか俺のことを好きになりそうにない澄花に痺れを切らせた俺は新たなる作戦を立てた。
その名も『嘘から出たまこと作戦』だ。
この作戦を簡単に説明すると、まず澄花の創作能力を利用して彼女の理想のデートの脚本を書いてもらう。次に俺たちがその台本通りに実際にデートをして、俺は彼女の理想の男性像を演じる。
そして、最終的に実際に彼女に俺のことを好きになって貰ってミッションコンプリートという筋書きだ。
だから、俺は澄花に理想のデートの台本を書いてきてもらった。
この原稿の分厚さから察するにかなりの自信作のようである。
さて、どれほどの出来か確認させて貰おうじゃないか。
※ ※ ※
一五分ほどで俺は原稿を読み終えた。
読み終えた俺は率直な感想を澄花に伝える。
「凄いじゃねえか澄花。これ、とんでもなく面白いぞ」
澄花の小説は半端なく面白かった。
さすがは売れっ子ラノベ作家なだけあって彼女の物語の魅せ方はかなりのものだ。
賛辞の言葉を贈ると澄花は、
「師匠、そんなに褒めても何も出ませんよ。でも、ちょっと頑張りました……」
と、照れ笑いを浮かべた。
「そうかそうか。いやあ、こんなに面白い物語は久々に読んだよ」
「そう言ってもらえて嬉しいです」
「けど、この原稿には致命的な問題がある」
「問題って何のことですか?」
「確かにお前の原稿は面白い。時間も忘れて一気に読み上げちゃったよ」
「それなのにどうして問題があるんですか?」
「俺はお前にデートの台本を考えてきてくれって言ったよな?」
「言いましたけど……それがどうかしたんですか?」
「デートの台本ってことはつまり、実際にこの台本通り俺たちはデートをするってことだぞ?」
「はい……」
どうやら、目の前のアホの子はそこまで話しても自分の原稿の問題点を理解できていないようだ。
確かに、澄花の書いた原稿は作品としては最高傑作と言ってもいい。
けど、俺は頼んだのはデートの台本だ。
が、澄花が持ってきたのはSF超大作だった。それも俺なんかには一生かかっても書けないような時空を超えた一大スペクタクルだった。
「この台本通りにまともにデートをしたら、軽く数十億円以上のお金が吹き飛ぶわっ!!」
そうツッコむと澄花は「せっかく頑張ったのに……」と伏し目がちになる。
「お前の頑張りは認めてやるよ。けど、その頑張りの方向が一八〇度違うんだよっ!!」
「具体的にどこがまずかったんですか?」
「一ページ目のヒロインがUFOに連れ去られるところからだよっ!!」
物語の冒頭で、俺はデートの途中に突然現れた謎の飛行物体に連れ去られることになっていた。
ちなみにト書きには『UFOから放たれた光を浴びた柄木田二郎、そのまま宙に浮いてUFOに吸い込まれる』と書かれていた。
「どうやってこれを実際にやるんだよ」
「クレーンとワイヤーを使ってなんとか……」
「高校生の俺の手に負えないわっ!!」
なんだこいつは?
もしかしてこいつ、俺のことをスピルバーグか何かと勘違いしているのか?
だが、この原稿の問題点はこれだけじゃない。
一番の問題点は物語終盤だ。
「最後のイケメン宇宙人と手を繋いでダンスを踊るってのはなんだ? 最終的に俺じゃなくて宇宙人と恋に落ちてるじゃねえかよ。ってか、俺、物語序盤で黒幕になってレーザービームで殺されてるし……」
ここまで来ると目の前の少女がデートという概念をしているのかどうかすら怪しくなってくる。
「深夜に書いていたら、なんだか筆が進んでつい……」
澄花は「ごめんなさい……」と肩を竦める。
とんでもない奴だ……。
が、まあ澄花らしいと言えばらしい。
実は半分ぐらい俺はこうなるのではないかと予想していた。
だから、俺は自分のカバンからA4用紙の束を取り出すとそれをテーブルに置く。
「なんですか? これは」
首を傾げる澄花。
「こんなこともあろうかと思って俺も書いてきたんだよ」
澄花がこんな自由すぎる原稿を書いてきたときのために俺も一応原稿を書いてきた。
とはいっても分量は澄花の三分一もないが。
澄花は原稿を手に取るとぺらぺらと捲る。
「凄いです……」
「まあ、お前の理想通りかどうかはわからないけど、少なくともお前の原稿よりは現実的な台本のはずだ」
※ ※ ※
「おはようございます……師匠……」
そして、土曜日、俺たちはデート当日を迎えていた。
のだが、
約束の時間から五分ほど遅れて公園にやってきた澄花は何やら眠そうに目を擦っていた。
よく見ると目の下にはくまが出来ている。
「おいおい、夜更かしでもしたのか?」
「はい、台本がなかなか覚えられなくて……」
そう言うと澄花は大きなあくびをした。
おいおい、大丈夫かよ……。
冷静に考えれば澄花が本当に台本通りに演技ができるのかかなり怪しい。今になって思えばもっと他の作戦を試したほうが良かったような気もするが、今更どうしようもない。
俺は、澄花がちゃんとセリフを覚えてきていることを期待してさっそく演技を始める。
「ほら、手つなぐぞ」
そう言って手を伸ばすと澄花の小さな手が俺の手を掴んだ。もはや、最近では慣れ過ぎてこいつと手を繋いでも全くドキドキもしなくなってきた……。
俺は彼女の手を引いて歩き出すと澄花は空いた手で目を擦りながらついてくる。
が、
「おい……」
澄花は一向に口を開こうとしない。
「ここは、お前のセリフだろ?」
「え? そうでしたっけ?」
「そうだよ。一夜漬けの暗記の成果を今こそ見せろ」
そう言うと澄花は思い出すように「う~ん……」と呻りハッとしたように目を見開いた。
「そうだ思い出しました。ジ、ジロウサン……ア、アレハナンデスカ?」
と、大根もびっくりの大根役者ぶりを見せつける澄花。
ん? ってか、こんなセリフだったっけ?
いや、ちょっと待て……。
俺は必死にセリフを思い出しながら演技を続ける澄花を見て何やら嫌な予感がした。
そして、彼女が次に口にした言葉で不安は確信に変わる。
「ジロウサン、ミテクダサイ。アレUFOデスヨっ!!」
「そっちじゃねえよっ!!」
どうやら彼女は間違えてSF超大作の台本を覚えてきたようだ……。




