幼馴染と珍デート
紗耶香とのデート回です。
かくして、久々に紗耶香と遊ぶことになった。
俺は平日の間に紗耶香を楽しませる方法をあれやこれやと考えてはみたものの、結局、何も思い浮かばずに当日の朝待ち合わせの遊園地の前へとやってきたのだが……。
「…………」
俺たちの目の前には予想外の光景が広がっていた。
「閉まっているわね……」
「閉まっているなあ……」
いつもは家族連れやカップルで賑わっているであろう、遊園地の入場ゲートの前にはデカデカと『一斉メンテナンスのため休園』と書かれた看板が立っていた。
どうやら、俺たちは出鼻を挫かれたようである。
「ごめんなさい。私が下調べをしていなかったばっかりに……」
と、そこで隣に立っていた紗耶香が俺を見やった。
どうやら、彼女は俺に対して申し訳なさを感じているようだ。
その表情を見ると、普段の口の悪い紗耶香が別人のように思えてくる。
彼女はこう見えて案外気を遣う性格なのだ。
「気にするな。また、別の日に来ればいいさ」
だから、俺は紗耶香の頭の上に手を乗せてそう言うと、紗耶香は黙ったままこくりと頷いた。
「それにしてもどうするかな……」
遊園地が閉演ということになると俺たちの予定は大幅に狂ってしまう。
俺としては遊園地に一日中いるつもりだっただけに、ほぼ一から予定を立て直さなければならないのだ。しかも、ここは近くに商業施設も何もない辺鄙な場所である。
こんなところでいったいどうやって時間をつぶせばいいんだよ……。
俺が頭を抱えていると紗耶香が不意に俺の服の裾を引っ張った。
「二郎、あれは何かしら?」
そう言って紗耶香はどこかを指さす。
俺は指さす方を見やるが雑木林以外に何も見当たらない。
俺が首を傾げていると「あれよあれ……」と再び紗耶香が同じ方向を指さすので目を凝らしてみると何か寂れた看板のようなものが見えた。
俺はその看板に書かれた文字を読む。
そして、絶句した……。
「なっ…………」
そこにはでかでかと三文字でこう書かれていた。
秘・宝・館
俺は真っ青になって紗耶香を見やると彼女は不思議そうに首を傾げていた。
「秘宝館って何かしら……」
「おい、お前、それ本気で言ってんのか?」
「二郎はあの秘宝館という場所に何があるのか知っているの?」
と、紗耶香は純粋な目で俺を見つめるので、俺は胸が苦しくなってくる。
「知っているも何もあそこは……」
俺は中途半端な受け答えしかできない。
だってそうだろ?
こんな純粋な目でそんなことを尋ねてくる女の子に本当のことを話すなんて、クリスマスの夜に目を輝かせながら枕を抱える少女にサンタの正体を話すぐらい精神的にキツイ……。
「せっかくだわ。行ってみましょう」
何も答えない俺に痺れを切らせた紗耶香はそう言って看板の方へと歩いていく。
「お、おい、ちょっと待て」
そんな彼女の腕を慌てて掴むと、紗耶香は「何?」少し不満げに首を傾げた。
「あそこはなんというかその……色々とまずい……」
これが今の俺に言える限界だ。
が、紗耶香は俺の心の叫びを誤解したようで何やらニヤリと意地悪な笑みを浮かべると俺の顔を覗き込む。
「おやおや? もしかして、二郎くんは秘宝館が怖いのですか?」
「いや、怖いとか、そういうのじゃなくてだな……」
駄目だ。俺が発言すればするほど紗耶香は俺の反応を楽しむように嬉しそうな顔をする。
どうやら秘宝館をお化け屋敷か何かと勘違いして俺をビビらせようとしているようだ。
「ついてこなきゃ二度とお弁当作ってあげないわよ」
そういうと紗耶香は意気揚々と秘宝館へと向かい歩いて行ってしまった。
※ ※ ※
だから、言わんこっちゃない……。
「…………」
「…………」
紗耶香が秘宝館の真の姿に気がついたのは、チケット代を払って館内に入ってからのことだった。
厳密に言えば入ってすぐに俺たちを出迎えてくれた巨大な男のアレの形をした石を見たときだ。
初めはその石が何かを理解せずに紗耶香は何やら楽し気にスリスリと撫でていたが、隣の説明書きを読み始めてしばらくすると急に顔を真っ赤にして硬直した。
「だから言っただろ。色々とまずいって……」
「確かに言ったけど、まさかこんなところだなんて聞いてないわっ」
「普段はあんなに威勢よく、ああだこうだ言っているくせに、なんだよ土壇場でのこの体たらくは……」
「日常会話での冗談とこれとは別よ……」
と、紗耶香は目を泳がせながら俺に怒りを露わにする。
こう見えて紗耶香は案外初心なところがあるのだ。
普段はああだこうだと恥ずかしげもなく言うくせに、いざこういう物を目の当たりにすると動じてしまうところが彼女の可愛いところでもある。
俺は内心、そんな彼女の姿が可笑しくて仕方がなかったが、笑うと彼女が怒るので笑いをかみ殺しながら奥へと歩いていく。
廊下は不自然に細く、廊下の壁には直径二〇センチほどの穴がいくつか空いていた。
それを見た瞬間、俺はこの穴から何かが飛び出してくると直感的に理解できたが、どうやら紗耶香はそうではなかったらしい。
そこで、何かのセンサーが俺たちの存在に反応し、穴から一斉に男のアレを模した物、勢いよく飛び出してきた。
「きゃっ!!」
紗耶香は驚いて反射的に俺の腕にしがみつく。
そして、怯えた目で俺を見つめると穴から飛び出すアレを指さす。
「じ、二郎、これなんなのっ!?」
「答えられるわけねえだろっ!!」
俺がそう答えると紗耶香は顔を真っ赤にして俯いた。
「…………」
「…………」
沈黙が訪れる。
が、しばらくすると紗耶香は何やら恐る恐る俺を見やると口を開いた。
「ねえ、二郎……」
「なんだよ……」
「二郎にもあんな恐ろしい物がついているのかしら……」
「おいっ!!」
そう言って紗耶香を睨むと彼女はバツが悪そうに俺から目を逸らした。
やっぱりここに来たのは失敗だった……。
それからも俺たちはボタンを押すと「わぉっ!!」と言いながらスカートがめくれ上がるマネキンや、口には出せない女性の例の部分のような形の石を見ながら館内をぐるりと回った。
それにしても人間の慣れというものは恐ろしい。
あれほど、男のアレの模型に恐れていた紗耶香だったが、館内を回るにつれて次第に慣れていき、気がつくと全然平気になっていた。
「慣れると案外大したことないわね」
紗耶香はそう言いながら再び現れた巨大な石を撫でる。
「女子高生のお前がそんな風にそれを触るのは色々ビジュアル的にマズすぎる……」
俺は紗耶香の手を掴むと強引に石から彼女を引き離した。
が、勢い余って、彼女の身体は俺の身体へと引き寄せられて、俺が彼女を抱き寄せるような形になってしまった。
「…………」
気まずい……。
突然のハプニングに俺が「悪い……」と謝ると紗耶香は「かまわないわ……」と少し恥ずかしそうに答えて俺から身体を話した。
俺と紗耶香が目を逸らしたま気まずい空気を共有しているとふと「えへんっ」と咳払いが聞こえたので俺たちはビクついて同時にそちらを見やった。
そして、
「なっ……」
そこに立っている人影を見た俺は驚きのあまり硬直してしまう。
そこに立っていたのはあろうことか藤谷美沙だったからだ……。
藤谷美沙は首から下げた一眼レフをこちらに向けると営業スマイルを浮かべる。
「さあさあお客様、当館名物の巨大御神体の前で記念撮影はいかがですか?」
俺はそんな藤谷美沙を見て立ち尽くすことしかできなかった。
なんで藤谷美沙がここにいるんだっ⁉




